現在YouTubeの登録者数16.3万人を誇る彼だが、駆け出しの芸人時代にSupremeにハマったことで極貧暮らしを経験したという。今回は、Supremeにハマったきっかけから、その愛ゆえの借金生活について聞いてみた。
ハマったきっかけはSupreme店員の「クールな接客」から
——Supremeにハマったきっかけを教えてください。宮戸フィルム(以下、宮戸):もとから服が好きで、Supremeは一応もってるくらいの感じだったんですけど、お笑いの養成所に通っているときに、服が好きな同期芸人にSupremeの新作を買いに行こうと誘われたんですよ。
新作は土曜日の午前10時(店舗によっては午前11時)に発売で、前日の夜10時頃から行列に並びました。そこをBONDS(ぼんず)というセキュリティ会社が警備しているのですが、規律が厳しくて。タトゥーだらけで、筋肉がムキムキの餃子耳をしたイカツイ人が、刑務所の看守のように睨みをきかせて、少しでもうるさくしたら「お前、帰れ」って言われるんですよ。
徹夜で並んで、ようやく店に入ると店員から「何ほしいの?」って聞かれて、「これがほしいです」と言うと「ない」、「じゃあ、これは……?」「ない」みたいな素っ気ない対応で……。最終的に「じゃあ、このキャップください」って言うと、「ああ」と言いながら、キャップをポイって渡されたんです。
——一般的な服屋の店員さんの接客とは、かなりかけ離れていますね。
宮戸:その体験があまりにも衝撃的で、すっかりハマってしまいました。売っている人たちのイカツくて、アンダーグラウンドな雰囲気が魅力的に感じられて。
Supremeは「店員の尖った姿勢と服の世界観がマッチ」
——宮戸さんは、もとからアングラっぽい文化で育ってきたんですか?宮戸:全然です。昔からアニメや漫画、ゲームが好きで、学校ではずっとオタク友達とガンダムの話をしているようなタイプでした。ヤンキーにパシられてたんで、怖い人は本来苦手なんです。
——それまでの経験から考えると、Supremeの店員さんみたいなタイプは苦手そうですが。
宮戸:Supremeはヤンキーっぽいとも言われますが、そういう怖い人とはタイプが違うと思うんです。自分の経験上、ヤンキーには弱者を見下すイメージがありますが、Supremeの店員は単に自分のかっこいいものだけを追求していて、他人のことは眼中にない感じなんです。このスタンスが怖さを醸し出しているような気がして、それが最高にクールでかっこいい。その尖った姿勢と服の世界観がマッチしているのもハマった要因でしたね。

宮戸:はい。Supremeには好きなタイプの服が全部そろっているんです。ストリート系はもちろん、セットアップのスーツもあります。
借金は最高300万円に…

宮戸:価格帯でいえば定番のフード付きのパーカーが3万円、 Tシャツは1万円、ジャケットは5万円ぐらいで、自分にとってはかなり高額でしたね。
——購入費用は、どのように捻出していたのですか?
宮戸:芸歴1~2年目から本格的にハマり始め、当時の月収はお笑いのギャラが5千円、バイトが20万円くらいだったんですが、クレジットカードのキャッシングや消費者金融から借金をして買ってました。
やっぱり、ほしいアイテムを買おうとすると、どうしてもお金が足りなくなるんですよ。Supremeは毎週土曜日の朝11時に数十点の新作が発売されるのですが、発売の2日前にレアなコラボ商品だったり、売り切れたら二度と手に入らない限定アイテムがサプライズで発表されることがあって、それはなおさらほしくなる。だから金がなくても並んで、リボ払いでクレジットカード決済をしてしまい、結果的に利息が膨れ上がって取り返しのつかない状況に陥ったり……。
電気が止まりながらSupremeに並ぶ
——どのくらい借金はあったんですか?宮戸:芸歴4~5年目のときに最高300万円ぐらいありました。ある時期は、電気が止められて、Supremeの服だけがあふれている部屋で、真冬にSupremeのダウンにくるまって眠ることもありました。返済できずにいると、督促状の色が黄色から赤へと変わり、最終的には紫と緑のエヴァンゲリオン初号機みたいな督促状が届くようになりましたね。
——ギリギリの生活ですね。
宮戸:はい。でも、周りの芸人にはもっと借金を抱えている人もいて、自分の状況がヤバイという感覚はありませんでした。
本当にヤバくなったら、Supremeの服を売って、新作のSupremeを買うようなこともしていました。当時、Supremeは古着でも高値がつき、ある程度着ていても定価付近で売れたんです。だから、やろうと思えば新作が出る度に着ていたSupremeを売れば、限られた生活費でもやりくりできました。でも、どの服も愛着があるので、手放したくはない。服を売るのは、本当に最終手段なんです。
手放して後悔した貴重なアイテム
——手放して後悔したこともありますか?宮戸:これまでで一番お気に入りのアイテムだったのが、大友克洋先生のSF漫画『AKIRA』とSupremeのコラボジャケット。僕はアニメやゲーム、漫画とかサブカルチャーがめちゃくちゃ好きで、『AKIRA』はとくに学生の頃に読んで、のめり込んだ漫画です。


宮戸:6万円で売れて、なんとか生き延びることはできました。今も買い戻そうと探しているのですが、もう市場に出回っておらず、いくらお金を出しても買えないアイテムになっちゃって、本当に後悔してます。
YouTubeの収益も、Supremeに消える
——SNSで人気が出たあと、生活はどのように変わりましたか。宮戸:現在の主な収入源はYouTubeで、バイトもせずに、Supremeの好きなアイテムをある程度買えるぐらいの収入になりました。でも、給料日前に全財産が2万円とかのときも全然あります。月に100万円ほど入ってくることもありますが、結局、手元にお金があるとSupremeに使ってしまうんですよね。
やっぱりSupremeのおかげでバズったので、感謝の気持ちがあります。だから、Supreme店員のものまねで稼いだお金はSupremeに還元したいという思いがある……という言い訳をして、めっちゃ買っちゃってますね。
——借金はもうないんですか?
宮戸:借金はあえて残してます。SNSやYouTubeで知名度が少しずつ上がり、声をかけていただくこともあるんですが、お笑いコンビとしてはネタでバーンと出てないんで。だから、お笑い芸人として成功するまでは、借金があったほうが頑張る原動力になると思うんです。キングオブコント決勝に出場したときのVTRで「借金数百万を抱えながら頑張ってきました」みたいなストーリーみたいなのがあると、芸人としてもかっこいいですよね。
* * *
極貧生活を送りながらも、Supremeへの情熱を失わずに突き進んできた宮戸フィルムさん。借金を抱えながらも、自分の芸人としての存在意義を見いだしてきた彼が、どのようにして“Supreme店員ものまね”で脚光を浴びたのか。
その舞台裏を次回、後編で語ってもらう。
取材・文/福永太郎
【福永太郎】
株式会社メディアジーンのプロダクト部門のメンバーとして、自社メディアを中心としたコマースコンテンツ記事を制作。現在はフリーとして活動し、メーカー・著名人・各分野の識者へのインタビュー、レビュー記事作成を行う。ビジネス・実用書のブックライティングも多数担当。