ローソンが7月14日から千葉県の6店舗の駐車場で車中泊を受け入れる実証実験を開始しました。利用料金は1区画2000円から3000円で、電源や生ゴミの処理を受け付けます。

 車中泊は旅の途中で道の駅などに立ち寄り、ご当地グルメを楽しむ非日常体験の一つでしたが、現在は「費用を抑える」という明確な目的を持った人が多くを占めるようになりました。

 ただ、この新サービスは、日本人が貧しくなったことを浮かび上がらせているようにも見えます。

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そもそも「RVパーク」とは?

 ローソンの新サービスは、一部店舗が「RVパーク」に登録されるというもの。「RVパーク」は日本RV協会が、快適に安心して車中泊ができる場所を提供するため、一定の条件を満たした場合に推進・公認するものです。

 24時間利用可能なトイレがあることや、ゴミ処理が可能なこと、近隣に入浴施設があることなどを求めています。「RVパーク」に認定されると、専用サイトを通して予約を受け付けることができます。2024年12月末時点で登録施設数は500を超えました。

 九州周遊観光活性化コンソーシアムによると、2024年の「RVパーク」の年間利用件数は1万3234組で、コロナ前の12倍に拡大したといいます(「2024年の「車泊(くるまはく)」利用件数はコロナ前の12倍!利用データ1.3万件・70地域から見えるRVのトレンド」)。

 登録されている施設は、道の駅やキャンプ場が多くを占めています。

 休憩場所である道の駅では宿泊はできず、仮眠のみというのが原則。車中泊ファンはこのグレーゾーンの上で車中泊を楽しんでいたわけですが、「RVパーク」が普及したことで堂々と宿泊場所として利用できるようになりました。

車中泊の意味合いが時代とともに変化

 道の駅は朝採れ野菜や旬の魚介類を販売する直売所、ご当地グルメを楽しむ食堂、温泉施設など、その場所を楽しむ魅力にあふれています。かつて車中泊の主役は、キャンピングカーやミニバンなど広さがある車でした。道の駅で購入した食材を車の中で自由に楽しむ非日常の空間だったのです。


 しかし、コロナ禍で三密回避の意識が高まり、キャンプブームが起こると、キャンプ場の代わりに道の駅などを使うケースが増えました。これによって、セダンや軽自動車などでの車中泊が当たり前のものになっていきます。

 そして現在は、旅の費用を抑える目的で車中泊を選ぶようになったのです。

使う車のトップが「アクア」という現実

 リセールバリュー総合研究所は車中泊に関する意識調査を実施しています(「車中泊に関する意識調査」)。それによると、車中泊を選んだ理由のトップは「費用を抑えるため」で6割にも及びました。自由な旅を楽しむ、キャンプ・アウトドアの一環などの回答を大きく引き離したのです。車中泊は非日常から日常へと姿を変えました。

 そして、車中泊で使った車の第1位はトヨタの「アクア」。いわゆるコンパクトカーです。そして2位がホンダの「N-BOX」、3位がスズキの「ワゴンR」で軽自動車が続きました。使用されている車種からも、車中泊が日常の延長線上にあることがわかります。

 ローソンが車中泊の実証実験を開始した背景には、このような事情が潜んでいるのです。車中泊市場にコンビニが参入した影響は大きいでしょう。
ローソンの店舗数は国内だけで1万4000を超えます。仮にローソンの1割が「RVパーク」に認定されると、施設数は500から2000近くにまで増加します。車中泊市場の急拡大が視野に入るのです。

ビジホの料金は「かつてのシティホテル並み」

 宿泊者が費用を抑えようとするのは当然で、ホテル代は急騰しています。東京商工リサーチによると、2020年に6550円だったビジネスホテルの客室単価は、2024年には1万3088円まで上がりました(「上場ビジネス・シティホテル「客室単価・稼働率」調査」)。シティホテルは2020年の単価が1万3541円でした。ビジネスホテルの料金はかつてのシティホテル並みになったのです。

 そしてシティホテルの客室単価は2万円を超えるようになりました。

 高騰の主要因になっているのが、海外観光客の急増。2019年5月の全宿泊者数のうち、外国人が占める割合は2割にも達していませんでした。しかし、2025年5月は3割近くを外国人が占めています。大型連休を迎える5月ですが、日本人旅行者はホテルから押し出されてしまったようにさえ見えます。

“コンビニ泊”は観光地にも拡大する?

 ビジネスホテルの宿泊代が1万3000円を超えるのであれば、3000円程度で楽しめる“コンビニ泊”は魅力的。
普段と変わらない食事を楽しむことができ、日用品もすぐさま手に入ります。トイレがないという不安もなく、スタッフが近くにいるという安心感もあるでしょう。

 ローソンの実証実験は海が近い店舗が中心。海釣りやサーフィン、ダイビングなどのアクティビティ目的で千葉を訪れる人をターゲットにしているように見えます。利用者が増え、大きなトラブルが起こらないようであれば、観光地に拡大する可能性は多いにあるでしょう。

 しかしそれは、日本人が貧しくなったことを象徴するもののようにも見えます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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