暴力を振るわれたとされる当時1年生の生徒が転校したことや、告発した被害者側と広陵側の言い分が食い違っている可能性があることなどから、広陵に対するバッシングが雪だるま式に膨れ上がっていった。
出場を辞退すべきだという声が大きくなる中、広陵は3月の時点で厳重注意と当該部員の1か月間の対外試合出場停止の処分が科されているとして、1回戦に“強行”出場。旭川志峯に勝利したが、その後に過去に起きた別の暴力事案の告発などもあり、騒動はさらに炎上。結局、広陵が出場を辞退に追い込まれ、問題の幕引きを図った形だ。
SNS炎上と“連帯責任”の是非
今回の騒動に関して、広陵の「対応が遅すぎた」「自業自得だ」という非難の声が大半を占める一方で、「暴力に加わっていない選手だけで出場を続けるべきだった」「SNSに振り回されすぎている」など、連帯責任での出場辞退は行き過ぎといった擁護の声も少なからず聞かれた。そんな終わりの見えない今回の騒動について、中国地方の高校野球事情に詳しいある人物に話を聞いた。その人物とは、広陵と同じ中国地方の名門私立高校Xでかつてキャプテンを務めたA氏。甲子園常連のX校のOBとして、母校の野球部を30年以上も見守り続け、夏になれば球場に駆け付け後輩の応援をしてきたという。
そんなA氏や母校のX校にとって、広陵は格上のライバルであるとともに、春のセンバツ出場を狙ううえでは、超えなければいけない存在だという。
「ここ25年ほど、中国地方において広陵は絶対的な存在でした。特にセンバツでは、中国地方に与えられている2枠のうち1枠を広陵が持っているものとして戦うのが、中国地方における強豪校の考え方です」
広陵・中井監督の存在感
A氏が長年にわたってライバル視してきた広陵に対して、負の感情を抱くのは、いくつかの理由があるようだ。もちろん、広陵さえいなければ、X校にもっとセンバツ出場のチャンスがあったという面もあるだろう。一方で、X校から内定をもらいながら、最終的に広陵を選んだ優秀な中学生もかなりの人数に上るという。「もし私が現役中学生で、(騒動前の)広陵から声が掛かれば、レギュラーになれなくとも入学したいと思ったかもしれません。
人間形成に重きを置いた指導をしてきた中井(哲之)監督の下でやりたいという中学生は本当に多いです。ライバル高のOBである私から見ても、中井監督は憧れの存在でしたから。周りでも中井監督の悪いうわさは一切聞いたことがありません。今回の騒動を受けて、それほどの人格者がまさか、という思いがあります」
学校内に漂う“沈黙の空気”
また、広陵が出場辞退を発表した会見で、堀正和校長が「選手からは何一つ質問もなく」、「(保護者からも)何一つ質問が上がらず、私たちの意志を受け取ってもらえたと思っております」などと発言があったことに関しても、A氏は違和感を覚えたという。A氏は「(部員や保護者が)学校に対して何も言えない雰囲気があったのも事実だと思う」と前置きをしたうえで、「学校の発表を信じ切っている保護者も少なからずいるのでは」と話した。
広陵は加害者か被害者か
実際にA氏は、数年前に広陵野球部でプレーした息子を持つB氏と今回の騒動について話す機会があったという。「あくまでも学校側の発表が正しい」という考えを崩さなかったようだ。むしろB氏は、「春の時点で対外試合出場停止の処分を受けているのに辞退に追い込まれるのはおかしい」「非はあくまでも炎上に加担したSNSやメディアにある」として、中井監督を擁護。あくまでも広陵野球部が被害者というスタンスだったという。保護者やOBの中でも、一連の騒動についての意見が分かれているようだ。
果たして今回の騒動はどんな決着を見せるのか。すでに広陵は調査のための第三者委員会を設置済み。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。