ワールドシリーズ連覇を目標に開幕8連勝と、スタートダッシュを決めた今季のドジャース。
7月上旬には2位との差を9ゲームまで広げたが、それから1か月半もたたないうちにパドレスにかわされた形だ。
ドジャース救援陣が“崩壊状態”に…
ドジャースは、8月に入ってから5勝7敗と2つの負け越しに留まっているが、とにかく試合内容が良くない。敗れた7試合のうち5試合は、8回以降に逆転もしくは同点から勝ち越し点を奪われる展開。つまり、序盤から中盤にかけて主導権を握りながら、終盤に救援陣がつかまっている。誤解を恐れずに言えば、今月に入ってからドジャース救援陣は“崩壊”しているといっていいだろう。今季チーム最多の19セーブを挙げているタナー・スコットをはじめ、マイケル・コペック、カービー・イェイツといった経験豊富な投手が戦線を離脱中。開幕からフル回転してきたアンソニー・バンダやアレックス・ベシアには勤続疲労の影が見え隠れする。
現地13日(日本時間14日)のエンゼルス戦は、先発した大谷翔平が5回途中まで4点を失ったが、後を受けたバンダとジャスティン・ロブレスキが1点のリードを保って8回へ。ところが3イニング目のマウンドに上がったロブレスキが2者連続四球を与えると、4番手エドガルド・エンリケスが痛恨の逆転タイムリーを浴びた。ドジャースの連敗は4となり、前日に首位で並んだパドレスを1ゲーム追う展開となっている。
試合後、ロバーツ監督は「いずれ流れは変わる」と前を向いたが、とめどなく打ち込まれる救援陣の再建案は見えていないのが現状だ。
大谷“クローザー起用”の可能性は?
そこで浮上するのが投手・大谷を先発から抑えに回すプランである。つい数日前にも試合前の囲み取材で、ロバーツ監督は大谷をクローザーとして起用する考えがあるかと聞かれ、曖昧な回答をしていた。
そのときの発言が「(ショウヘイの)抑えもいいね。でも5イニングを投げるのもいい。とにかくショウヘイは優勝したいと思っている。彼はそれを明確に示している。(本人も)チームが勝つためならできることは何でもやるつもりだ」というもの。記者からの質問がやや誘導的にも見えたが、抑えで起用する案を完全に否定することはなかった。
ただ、現実的にはこれまで通り、先発投手として徐々にイニングと球数を増やしていくプランでいくだろう。それでも一時は独走モードに入っていたチームが、パドレスに逆転され、さらに救援陣の苦戦でシーズン終盤に守護神・大谷を試す可能性も出てきたのではないか。
もちろん事前に登板する日がわかっている先発に比べて、いつ登板するかがわからない救援は調整も難しくなる。一方で、これだけ8~9回に投げる投手が打ち込まれる状況が続くと、天王山と呼ばれるような試合なら1~2イニング限定で大谷を守護神として起用する意味はあるはずだ。
大谷は今季、自身2度目のトミー・ジョン手術明け。先発投手として、今季中に1試合100球前後、6~7イニングを投げられるかはまだ不透明だ。
データから見える「フォーシーム威力の低下」
13日のエンゼルス戦でも、50球を過ぎたあたりから急激にフォーシームの威力が落ちていた。この試合で復帰後最多となる80球を投げた大谷。フォーシームの球速と、1分あたりのボールの回転数をイニングごとに並べると以下の通りだった。・大谷翔平、8月13日エンゼルス戦のイニング別フォーシーム平均球速と回転数(RPM)
1回:157.4キロ/2506
2回:158.8キロ/2360
3回:158.0キロ/2316
4回:159.5キロ/2452
5回:157.8キロ/2321
上記の数値からわかるように、この日の大谷はフォーシームの球速が4回にピークを迎え、5回に2キロ近く下がっていた。ただ1回から5回まで、その波は比較的緩やかだったといえるだろう。
短いイニングで真価発揮の可能性
一方で、投球の質を評価するうえで重要となる「ボールの回転数」は初回がピーク。一般的に優秀とされる2500を上回っていたが、2回以降は4回を除きいずれも2300台に低下。フォーシームに球速ほどの伸びは感じられなかった。実は前回登板までは、これとは逆にイニングを追うごとに回転数が上昇していた。
・大谷翔平、前回(8月6日カージナルス戦)までのイニング別フォーシーム平均球速と回転数(RPM)
1回:158.0キロ/2400
2回:158.0キロ/2448
3回:160.1キロ/2489
4回:159.5キロ/2540
前回登板まで最長が4イニングだった大谷。球数も限られていたためか、回転数はイニングを追うごとに増えていた。しかし、5回を投げ切ることを目標にしていた14日のエンゼルス戦は、結果的に球威が落ちていた。
今の大谷は5~6イニングを投げるより短いイニングの方がより真価を発揮できるのではないだろうか。
本来ならロバーツ監督は、ワールドシリーズの最後の最後に大谷の抑え起用を思い描いていたかもしれない。しかし、ドジャース救援陣に復調の気配が全く見えない今、そのプランを少し前倒しすることも考え始めているはずだ。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。