受験勉強はゲーム性があって楽しかった
――koitanさんは、中学受験で名門フェリス女学院中学校に合格されたそうですが、昔から勉強はできたのでしょうか。koitan:少なくとも運動よりは圧倒的に向いている自覚がありましたね。私は生まれてすぐ渡米し、幼少期をアメリカ合衆国で過ごしたのちに、幼稚園くらいで日本に帰ってきたのですが、公立小学校でやるスポーツなどで結構足を引っ張るタイプでした。一応、小1から卒業まで水泳をやっていたのですが、あまり上達もせず(笑)。それに比べれば、受験勉強はゲーム性があって楽しかったです。
――受験勉強が楽しい、というのはいいですね。
koitan:子どもながらに、「中学受験って、この年齢にしては残酷だよなぁ」とは感じていました。やってもできない子たちの劣等感のうえに、自分のこの楽しさがあることも理解していましたし。それから、いわゆる大手塾ではなく小さな塾に通っていたので、常に上位にいられたことも大きかったかもしれません。
中学受験の時点で「父は医学部に行かせたかった」
koitan:大手新聞の夕刊に、中学受験に関する連載があって、父がそれに寄稿していましたね。記者の方と打ち合わせをして、私も原稿を読ませてもらっていて。
――フェリス女学院以外の受験校のいずれも高偏差値ですよね。
koitan:そうですね、桜蔭学園には嫌われましたが、豊島岡女子学園の2次は受かりました。当時から、父は私が医学部へ行くことを希望していて、「豊島岡女子がいいんじゃないか」と言っていて。でも、同じ塾から進学する友達が多いので、フェリス女学院に決めたんです。
――そうなると、中高時代も楽しそうですね。
koitan:行ってよかったなとは思います。昔から、私はそそかしくて、非常に忘れっぽいんですよね。仲間内では“変わったやつ”みたいな扱いでしたが、フェリス女学院の同級生は個性も強いし、それを互いに認める空気もあるので、救われました。
夜遅くまで遊んでいたら父に殴られて…
koitan:履歴書だけみればそう思うかもしれないんですが、父とは結構衝突もあって。私は中学1年生から鉄緑会(※東大受験指導専門塾)にぶち込まれました。しばらく真面目に勉強をしていたのですが、ある日ぷっつんと糸が切れてしまって(笑)。
中2のときは私が夜遅くまで遊んでいることに腹を立てた父に殴られて、「これは暴力だから第三者に事実を証明してもらわなくては」と思って交番に駆け込みました。すると警察署に連れて行かれて、帰りはタクシーで帰宅することになりました(笑)。結構おおごとになったんですよね。
東大京大でも「文系に行くならお金は一切出さない」
――すごい行動力ですね。koitan:私も大概ですが、父も極端な人だなと思います。最初、私が「文系に行こうかな」と言ったときは、「東大京大であっても、文系に行くならお金は一切出しません」と言っていました。実際、お小遣いもゼロ円だったんです。でも、ある模試で父の母校を志望校の欄に書いたら突然態度が変わって、「スタバカード、チャージまだある?」とか「必要なものは買ってあげるから言ってね」みたいな感じになって(笑)。父のことは正直、別に尊敬していませんね。
――お父様を尊敬していないなかで、医学部を受験したのはなぜでしょうか。
koitan:この家に生まれて、しかも受験勉強が得意である以上、医学部進学がもっとも平和かなと考えたからですね。きょうだいがいますが、いずれも受験勉強に向いているわけではないですし。
今現在、留年を繰り返す理由は…
koitan:まず、絶対に浪人せずに入りたかったんですよね。両親からは「国立に行ってね」みたいなプレッシャーがあって。とりあえず受けられる私立学部も、偏差値順に受けはしました。合計13校くらいでしょうか。滋賀医科大なら妥当にいけば合格できると考えたのと、早く実家から出たかったのが大きいですね。
――偏差値的にはギリギリではないのに、現在、留年を繰り返して放校になる可能性があるわけですが、それはどうしてだと思いますか。
koitan:受験勉強は非常にゲーム性が高いので、何をやってどう組み立てれば点数を獲得できるか明確なんですよね。だから好きなんです。けれども、特に1~2年生で習う基礎医学は、純粋な暗記なんです。膨大な量のインプットになる。単純暗記が苦手な私にとって、かなり苦痛な作業なんですよね。
「今は私に投資したほうがいい」と思う
――koitanさんがご両親から仕送りをもらって留年し続けていることに対して、一部SNSでは厳しい意見もありますが。koitan:確かに私は、居住費などを含めたら大卒の初任給程度の援助を受けています。
それに、得手不得手の振れ幅は大きいけど、私は自分の能力がハマりさえすれば仕送りくらいの金額は稼げると思うので、今は私に投資したほうがいいのではないかなと思っています。
――koitanさんが医師になりたいという気持ちを疑う人もいるようですが、そのあたりはどうですか。
koitan:父のことは尊敬していなくても、医師になりたいという気持ちは本物です。うがった見方かもしれませんが、世の中のほとんどの職業は、人の不安感や恐怖心を煽ったりして、価値に見合わないサービスを提供している側面が否定できないと私は考えています。しかし、医師が医療行為によってもらう報酬は、それに比較して非常にきれいなお金だと思うんです。
法律的にセーフならいいとかではなく、倫理的にも、社会に悪い影響を与える仕事をしたくないという思いが強いので、医師には絶対になりたいと思っています。
女性に寄り添える医師になりたい
koitan:いま考えているのは、女性に寄り添える医師になることです。女性は社会的にもさまざまな局面で不利な立場に立たされることが多いので、自らの医学的知識をそういう人たちのために役立てられればこれ以上の喜びはないですね。
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直裁的な物言いをするイメージが先走って、しばしばkoitanさんは誤解される。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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