私立高校の授業料を軽減する動きが進んでいる。東京都と大阪府では’24年度より独自の授業料補助制度を実施。
’26年度には私立・国公立・通信制高校を対象に、最大45万7000円の授業料支給制度も始まる。一方、公立校離れを防ぐため、文部科学省は高校教育改革を主導する課を新設する方針だ。

公立校の存在意義とは?

「公立だからこそ」の価値とは?私立高の無償化で揺れる高校教育...の画像はこちら >>
先行的に実施している大阪府では、今年3月、私立高校生の保護者に対する満足度調査(⼤阪府教育庁私学課「令和6年度私⽴⾼校3年⽣の保護者を対象とした⾼校⽣活満⾜度調査」)を実施。授業料無償化が私立高校への進学に大きく影響していることが明らかになっている。

特に、1年生の保護者の8割以上が無償化が進学に影響したと回答し、年収910万円以上の世帯でも6割以上が影響があったと答えている。3年生の保護者に対しては、無償化による経済的負担の軽減が高校生活に大きく影響したと9割以上が回答しており、年収910万円以上の世帯でも9割近くが影響を実感。

さらに、1年生で第一志望の私立高校に専願で入学した生徒の割合は、無償化が始まる前の年度に比べて大幅に増加しており、無償化が私立高校への進学を後押ししていることが伺える結果となった。

その一方で大阪の公立校の多くは定員割れも起こし、公立校離れも懸念されている。この問題に対して、自ら教員免許も持ち、教育問題に対して自論を持つ作家の乙武洋匡氏は、公立校の存在意義について考えるところから始めることを提言する。(以下、乙武氏による寄稿)。

授業料の安さだけでなく「地域性」も魅力の一つ

文科省が焦っている。なんとか方策を練って、「公立校離れ」を防ぎたいようだ。無理もない。すでに私立の高校無償化を先行的に実施した大阪府では多くの公立校で定員割れが起こっており、自公維の3党が私立校も含めた高校授業料の無償化で合意した以上、その波が全国に及ぶことは容易に考えられるからだ。


来年には高校教育改革を主導する課を新設し、農業高や工業高など専門高校の支援や、高校間の連携のサポートなどを行う予定ということだが、はたして本丸はそこなのだろうか。私は、そもそも私立校が無償化されるなかで公立校を残す意義とは何なのかを考えるところから始めたほうがいいと思っている。

公立校の意義は、大きく分けて2つあると思っている。それは「経済性(学費の安さ)」と「地域性(地元色の強さ)」だ。しかし、私立校の授業料無償化で「経済性」という意義が薄まっていくのであれば、否が応でも「地域性」をクローズアップせざるを得ない。都市部には多く存在する私立校も、地方に行けばその数は減っていく。つまり、「おらがまちの高校」であることが存在意義になっていくはずだ。

地域活動と学校との結びつき

だとするならば、今後はどれだけ地域コミュニティとの結びつきを持っているかが、その学校の評価にもつながってくるだろう。例えば地元企業は職場体験をさせてくれるかもしれないし、商店街とコラボして高校生発の新商品を生み出すことができるかもしれない。地域のお祭りの担い手も高齢化が著しいので、そうした手伝いに参加してもいい。いかに地域に貢献し、地域に愛されるか。今後、公立校の価値はこうした点にこそ表れてくるのではないか。


私が経営に携わる「まちの保育園」は、その名が示す通り、まちの人々と一緒になって子育てをしていくことがコンセプトだ。そのために保育に専従しない「コミュニティコーディネーター」という役職を各園に設置している。例えば六本木の園では、地域に茶室があることがわかったので、地域活動を通じて信頼関係を深めていった結果、なんと園児たちが茶室でお茶をいただく経験ができた。開園からすでに14年たつが、こうした例は枚挙にいとまがない。

さまざまな教育改革を断行したところで、結局は私立校の後追いになっては意味がない。文科省には、ぜひ「公立だからこそ」の存在意義に立ち返り、地域との結びつきを重視した公立高校の魅力を確立してほしい。都立高校出身者としてエールを送りたい。

「公立だからこそ」の価値とは?私立高の無償化で揺れる高校教育、乙武洋匡が語る“公立校の存在意義”
乙武洋匡


【乙武洋匡】
作家・政治活動家。1976年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。
「インクルーシブな社会」を目指し執筆や講演、メディアへの出演を精力的に行う
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