防衛省の男性職員が同僚の女性にセクハラを繰り返し、適応障害を発症させた事件で、東京地裁は7月11日、国に250万円の慰謝料の支払いを命じた。一方、加害男性職員への請求は棄却。
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、この「防衛省セクハラ訴訟で加害職員は逃げ切り」問題について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。
セクハラ公務員は無罪放免で尻ぬぐいは国民の血税投入!
7月11日、東京地裁で出された判決がマスコミで広く報じられた。防衛省の男性職員が同僚の女性職員に対し、勤務時間中に下半身を触ったり、休日に2人で外出した際に背後から抱きつくなど悪質なセクハラを繰り返し、女性が適応障害を発症するまで追い込まれたという事件だ。女性職員が被害を訴えた相手は、加害男性職員と国の双方だった。これに対し東京地裁は、一連のセクハラを「防衛省の職務に関連した違法行為」と認定。国に250万円の支払いを命じたのだが、一方の問題行動を起こした男性職員に対しては、慰謝料の請求は退けられ、事実上の「無罪放免」と言っていい判決となったのである。
これを聞いて違和感を覚えた人は多いのではないか。なぜなら、セクハラの狼藉を働いた張本人は1円も負担せず、慰謝料のすべてを税金、つまり我々の血税で尻ぬぐいせよ、という判断だったからだ。
もしこれが民間企業の中で起きた事件なら、こんな結論は導き出されなかったであろう。会社員が業務中にセクハラを繰り返して同僚に損害を与えれば、会社とともに本人も賠償責任を負わされる。ところが、たまたま事件の当事者が国家公務員だったというだけで、加害者本人はお咎めなしというわけだ。
被害者に賠償した国には、男性職員に「求償請求」(国が支払った250万円を本人に請求する制度)する権利がある。
国家公務員同士のかばい合いの構図
財務省近畿財務局の職員だった故・赤木俊夫さん(享年54歳)が本省より公文書の偽造を強要され自殺に追い込まれた事件では、我われ国民の血税から1億円の賠償金が支払われたが、死に追いやった財務省幹部への求償請求はなし。まさに国家公務員同士のかばい合いの構図が浮き彫りになった。ちなみに地方公務員なら、住民訴訟という武器で住民が自治体に求償を迫ることもできるが、国家公務員の場合はそんな制度もない。
求償制度が機能していないなら、裁判所は加害公務員本人にも責任を負わせるべきだろう。実際に、こういうセクハラやパワハラ事件を引き起こした加害公務員に責任を負わせた裁判例もある。しかし、その数はほんのひと握りであり、ここ10年では宇都宮地裁栃木支部と神戸地裁姫路支部でそれぞれ1件ずつあったのみ。しかし、こういう判決が出せるということは、加害公務員に責任を負わせることも裁判官の判断としては十分あり得るということだ。とりわけ、神戸地裁姫路支部の判決は、国と加害公務員の双方に責任を負わせており、被害者保護の観点からも理想的なものだった。
裁判所には、公務員同士のかばい合いをやめ、国民が納得できる判決を求めたい。血税による行政の尻ぬぐいを司法が担う──そんなおかしな三権分立は一刻も早く過去のものにしてほしい。
<文/岡口基一>
―[その判決に異議あり!]―
【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー