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 石破総裁の居座り、有権者の「立憲スルー」状態、維新の複雑な内情——混迷を深める永田町で、憲政の常道はどこにあるのか。憲政史研究家の倉山満氏が、国民民主党への期待と「総裁」改称提言を通じて、日本政治再生への処方箋を提示する(以下、倉山満氏による寄稿)。

石破総理は辞めない、立憲はスルー…混迷を極める日本の政治に希...の画像はこちら >>

今や、党を割るエネルギーもない自民党

 永田町、お盆の最中も、暗闘にまっしぐらか。

 事の発端は、自民党石破茂総裁(総理大臣でもある)。この方、衆議院選挙にも参議院選挙にも敗北したのに、辞めようとしない。しかも自分で掲げた数字を切ってしまったのに。選挙では、政治家が有権者に公約を掲げて、信を問う。それを「内外の難局が厳しいので」などと理屈をつけて居座るのであれば、何の為の選挙か。

 それを引きずり降ろせない今の自民党も情けない。今や立憲民主党と同じで、党を割るエネルギーもないのだろう。

 たとえば、保守勢力の期待の星の高市早苗氏。コメンテーターの橋下徹元大阪市長に「党を割って出ろ」と促され、SNSで長文の猛反論。一昔前の自民党政治家なら本気で割る気の時こそ本気に見せて否定したものだが、高市氏の場合は本当に党を出たくないとしか思えない。

 では、どういう展望があるのか。日本国にとって。
高市氏自身、もはや党を割って出て本気を見せない限り、「オールド自民」の一部としか見られないのではないか。

有権者からはもはや「立憲スルー」

 立憲民主党は、「自民党もイヤだが、立憲はもっとイヤ」と有権者にNoを突きつけられた。もはや「立憲スルー」と言われている。

 今回の参議院選挙で、オールド自民と立憲民主党のようなパヨク勢力に、有権者は「退場してくれ」と言っている。

 しかし、自民党は野党に多数派工作の触手を伸ばし、延命を図っている。いっそ立憲民主党との大連立の声も聞こえるが、自民と立憲は最も選挙区がバッティングするので利害調整が難しいし、そもそも肌合いが合わなさ過ぎて、双方が割れる可能性すらある。

 そこで本命と見られているのが、日本維新の会との連立だ。この党の内情は複雑すぎる。そもそも政党とは、「党首を総理大臣にして政策を実現する集団」なのだが、維新はそうなっていない。代表が吉村洋文大阪府知事である。吉村氏は立派な方と思うが、憲法上、絶対に総理大臣になれない。これでは政党ではなく、政治団体である。

混迷の永田町、日本の希望はどこにあるか

 そこで国会議員の共同代表を置くことになっている(馬場伸幸元代表の時代だけ、国会議員が代表だった)。

 今回の選挙の結果を受けて前原誠司前代表に代わって、藤田文武新代表に代わった。
藤田代表のことも個人的に良く知っていて、尊皇家で立派な方である。さっそく党の皇室制度調査会の強化も打ち出している。ただ、この構造の中で、どれほどの自由があるか。

 さらにややこしいのが、創業者の橋下徹氏の影響力が、既に公然たる院政と化している。橋下氏は「維新が潰れていいから自民と組め」と迫るが、オールド自民と手を組んで、維新に未来があるとは思えない。このくびき、吉村代表にしろ藤田共同代表にしろ、茨の道だ。

 混迷の永田町、日本の希望はどこにあるか。

風が吹けば、いきなり参政党政権も理論上ありうる

 そんな中、有権者の支持を伸ばしているのが、国民民主党と参政党だ。参政党は先週号も書いたが、組織論は近代的で優れているが、政策が論外。そして他者の異論を撥ねつける態度。これでは多数の日本国民に受け入れられる、国民政党たりえない。それに多くの日本国民が気付いたか、NHKの最新の世論調査では政党支持率4位に沈んだ。

 ただ、次期衆議院選挙には全選挙区に候補者を立てると宣言している。
この党は、本当にそれをできてしまう。なにせ「俺、忙しいから、代わりに選挙に立って」で普通の主婦の党員を立候補させてしまう党なのだから。そこが強みだ。既成政党がおかしなことをして風が吹けば、いきなり参政党政権神谷宗幣首相もありうる。理論上は。

 一時期、支持率が降下したが、都議選・参議院選を通じて回復傾向にあるのが国民民主党だ。比例代表の得票率で、自民党に次ぐ2位。NHKの同じ調査で支持率2位に戻った。

 責任は重い。

玉木雄一郎代表、党首の名称を総裁に改称しては

 そこで先日、玉木雄一郎代表に、「党首の名称を総裁に改称しては」と提言した。これは3年前にも提言した(日刊SPA!’22年7月15日配信記事参照)。隗より始めよだ。

 1955年の自民党結成以来、党首が総裁を名乗るのは自民党だけだった。
総裁には「他を圧する」の意味合いもある。たとえば、銀行の長は頭取だが、日本銀行の長は総裁だ。日銀は銀行の銀行なので構わないが、政党がこれでは困る。実際、「自民党だけが一軍」の空気も、永田町には厳然として存在する。それでも自民党に政権担当能力があれば許せるが、今の惨状である。他の政党が位負けに甘んじる必要はない。

 まず、「名前負けをやめるべきである」が「総裁」改称の趣旨である。いっそ、国民民主党が率先して改称、立憲・維新・参政など他の野党にも呼びかけるくらいでも構わないのではないか。

国民民主党も全選挙区に候補者を

 そもそも民主政治には、最低限マトモな選択肢が二つ無ければならない。なぜなら、一つだと一国一党のファシズムになるからだ。事実、選挙を何回やっても自民党が勝つ、疑似ファシズムが続いてきた。二つ目の選択肢がマトモでないと、どんなに第一党に不満でも有権者は選択肢がない。
そして無限大に腐敗していく。選択肢がゼロと同じだ。今の日本、そうなっているではないか。だから多くの有権者が政治そのものに不信を抱いてきた。

 今回もう一つ、玉木代表には、全選挙区に候補者を立てては、と提言した。自民・立憲・維新の各党の改革ができるのなら話が別だが、政治不信が渦巻く中で参政党旋風……などになったら目も当てられない。

 むしろ「国民民主党玉木“総裁”が全選挙区に候補者を立てれば、政界再編の核になるのでは」と述べた。

 必ずしも二大政党でなくても良いが、マトモな選択肢が二つ以上なければ選挙をやる意味がない。

 民意に則った政治、「憲政の常道」を有権者は求めている。

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【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。
在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に
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