―[メンズファッションバイヤーMB]―

 メンズファッションバイヤー&ブロガーのMBです。洋服の買いつけの傍ら、「男のおしゃれ」についても執筆しています。
連載第545回をよろしくお願いします。
「ダウンジャケットは不人気に」「丸井は脱アパレル」…ほとんど...の画像はこちら >>
 今回は、アパレル業界に20年以上在籍し、販売員からデザイナー、コンサルまで経験した私がこの10年で激変したことを赤裸々に語っていきましょう。

激変①「丸井ブランド壊滅!」

「ダウンジャケットは不人気に」「丸井は脱アパレル」…ほとんど知られていない“ファッション業界”3つの激変ポイント
shibuya
 90年代~00年あたりはファッション好きが集まる場所であった丸井ビル。ポールスミスやコムデギャルソンなど海外トップブランドから独自の進化を遂げた日本ブランドまで、DCブランドブームを牽引した立役者でした。

 当時、人気だったBOYCOTT、abx(アルバタックス)、PPFM(ペイトンプレイスフォーメン)、RUPERT(ビギグループ)、R.NEWBOLD(ポールスミスのカジュアルライン)などはすべて事業閉鎖。現在は影も形もありません。

 丸井で人気だったブランドの大半が当時の勢いをすっかりなくしており、影響力は激減しています。今、「おしゃれな人は丸井に行く」ようなファッションのイメージはほぼないはず。丸井はどちらかというとアニメとのコラボイベントなどを中心に、流行発信源や推し活の場として機能しています。

ショッピングモールやセレクトショップに顧客を奪われる

 没落の理由はいくつかありますが……まず挙げられるのが00年代あたりから勢いづいてきたイオンモールの影響。映画館や量販店、スーパーなどあらゆるお店を誘致した家族連れからカップルまでマルチで楽しめる大型ショッピングモールとして機能したイオンモールに、ファッションだけの丸井は太刀打ちできませんでした(背景には2000年に廃止された大規模小売店舗法により規制緩和が進み、イオンモールの爆発的な出店猛勢が実現したのです)。

 さらにより世界観を深めたアート的なデザイナーズブランドが90年代後半から続々と日本で立ち上がり「ドメスティックブランドブーム」が到来。マス層までアプローチできるように設計された丸井ブランドよりもさらにディープで本質的な服作りがなされ、服好きガチ勢がセレクトショップへと流れていきました。

ファッション屋から抜けて事業を大成長

 さらにさらに格安ファストファッションの台頭などがあり、回遊客は奪われ、急速に勢いを失っていったのです。しかしながら、丸井に出店していたブランドたちは没落の一途ですが、丸井グループ自体は上手に業態転換し、今も元気に経営されています。


 丸井は不動産事業、フィンテック事業を展開強化し、時流に乗りました。元々丸井は日本で初めてクレジットカードを発行した会社であり、その歴史は1960年からあります。後払いサービスやキャッシュレス決済などの開発、さらにスタートアップ企業などへの投資を行うなどもはやファッション屋から抜けて事業を大成長させているのです。10年前とはまるで様相が変わりましたね……。

激変②「高校生が制服を着崩すことがほぼなくなった」

「ダウンジャケットは不人気に」「丸井は脱アパレル」…ほとんど知られていない“ファッション業界”3つの激変ポイント
高校生
 東洋経済オンラインでも<高校生が「制服を着崩さなくなった」本当の理由>記事が掲載されていますが、街を歩けば簡単に理解できるかと思います。

 女子も男子も制服を正しく着用しており、昔のような「パーカーを中に着る」「ジャージパンツを組み合わせる」「腰パンする」「バッグを改造する」「短ラン・長ラン」「ルーズソックス」などのいわゆる「制服改造」高校生が全く見かけなくなっているのです。

 ここにはいくつか理由があり専門家らしき人が「反抗の美学から調和の美学へと移行したのだ」など述べていたりしますが、私は本質的なところとして「服の値段が下がったから」ではないかと思っています。

 そもそも制服の着崩しは「制服を格好良くオシャレに見せること」が原動力でしたが、その背景には「私服に自信がない」「私服のバリエーションがない」ことも背景にあったかと思います。事実90~2010年ごろには「制服デート」は一般的で、私の若い頃でも休みの日に制服を着てデートするなど確かにありました。つまり当時の高校生たちは「制服までセンスよく、かっこよくしたい!」のではなく、「制服でセンスを表現するしかなかった」のです。

私服ですでにセンスを表現できている

 ユニクロやファストファッションが登場し、現実に使える程度の品質やトレンド感を獲得したのはここ10年の話。2000年ごろのユニクロはやはり「格安量販品」の範疇を出るものではありませんでした。

 ここ最近は 倫理的な問題はさておき、SHEINや格安ブランドなど手頃な価格でハイブランドをコピーしたデザインのものが手に入るようになりました。私服ですでにセンスを表現できている以上、あえて制服を着崩す必要がなくなったのです。


 また、制服自体も自由化し、「スカートかパンツか選べる制服」なども登場。私立など校則を緩和させ、シューズ自由化、バッグ自由化など個性を重んじる姿勢に変化してきています。10年一昔と言いますが、制服改造なんてもうおじさんの昔話にしかならないのですね……。

激変③「ダウンジャケットが徐々に不人気に……」

「ダウンジャケットは不人気に」「丸井は脱アパレル」…ほとんど知られていない“ファッション業界”3つの激変ポイント
ダウンジャケット
 2000年ごろから人気が出始めたプレミアムダウン。モンクレールやカナダグースなど多くのブランドが名を連ね、冬になれば「一生物だから」とボーナス一括買いする人が急増しました。広告代理店の戦略勝利か、何故か日本では高額ダウンが売れに売れた。所得関係なく学生までも「無理してでもダウンだけは良いものを」という認識が生まれ、街は10万円以上のダウンで溢れてきたのです。

 しかしながら、近年これらプレミアムダウン人気に翳りが出てきています。理由の一つは当然のことながら気候変動。暖冬続きの近年ですが、平均気温が上がり夏は猛暑日だらけに冬も比較的温暖な気候へと変化。

 四季が感じられる日本ですが徐々に熱帯気候に近づいてきているのは皆さん感じておられる通りです。この気候で「冬山でも登れるプロスペックのダウン」なんて必要あるはずない。北海道ならいざ知らず都内でダウンが必要なシーンはもはやほとんどありません。


 また、もう一つの理由に中綿技術の発達があります。米軍採用の中綿、プリマロフトやクライマシールドを筆頭とし、「軽くて暖かい中綿」が開発されてきています。ユニクロも近年ではダウン一択ではなく「パフテック」と名付けた新型中綿をリリースして強化しており、性能は従来のダウンに勝るほどです。

 ダウン同様に軽くて暖かいのはもちろんですが、中綿を選ぶメリットは水や湿気に強いということ。ダウンは水に濡れること、多湿のところでは著しく性能が落ちますが合成繊維を使った中綿は水に強く日本の多湿気候にもよく合っています。かつコストも安くダウンより圧倒的に手頃な値段で手に入る。そうなるともはやダウンに注目が集まらないのも頷けますね。

ダウンから中綿の流れが止められない

 ダウンは手入れに大変手間がかかる。ブランドは「一生物」などと謳い販売してきましたが、実はダウンは一生使える保証がまるでありません。まずダウンを洗う確実な方法を知る人がどれだけいるでしょう? ダウンのクリーニングを請け負ってくれる店舗もありますが、ダウンのクリーニングはトラブルが相当数多いことで知られています。

 ダウンのかさ高が減ったり、変色させてしまったりとダウンのクリーニングに100%はほぼありません。一生物と謳いながら一生扱うケア方法を提示できずに販売してきたのは景表法違反ではないかと個人的には思います……。


 流行から10年20年経ちそこに気づきはじめたというのもあるのではないでしょうか。アパレルの闇の一つだと思います。広告代理店の戦略に乗せられて不必要かつ一生使える保証のないものを販売されていたのです。

 実際、モンクレールはスニーカーまで展開するトータルラグジュアリーブランドに転換していますし、カナダグースはめっきり着用している方を見なくなりました。ユニクロもダウンから中綿に転換しはじめており、今後ダウンは日本では見かけないものになるのでは……とも思います。

 以上、「おじさん必見! 10年前とここまで違う! 激変したファッション業界!」でした!

―[メンズファッションバイヤーMB]―

【MB】
ファッションバイヤー。最新刊『ロードマップ』のほか、『MBの偏愛ブランド図鑑』『最速でおしゃれに見せる方法 』『最速でおしゃれに見せる方法』『幸服論――人生は服で簡単に変えられる』など関連書籍が累計200万部を突破。ブログ「Knower Mag現役メンズバイヤーが伝えるオシャレになる方法」、ユーチューブ「MBチャンネル」も話題に。年間の被服費は1000万円超! (Xアカウント:@MBKnowerMag)
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