あおる方も罪の重さは分かっているはずなのに、それでも犯してしまうのは理解に苦しみます。
今回の取材で判明したのは、高速道路のイレギュラーな出口構造が原因で発生するケースでした。
免許取り立ての初ドライブ
今回取材に応じてくれたのは、介護用品販売会社に勤める堀口さん(仮名・26歳)。彼は、開口一番に、「まさか、あんな目に遭うとは思ってもいませんでした」と、少し緊張した眼差しで語ってくれました。大学時代は色々と忙しく、今年ようやく自動車免許を取得したとのこと。この日が取得後初めての“ひとりでのロングドライブ”だったそうです。
千葉県に住む大学時代の友人を訪ね、昼過ぎには帰路へ。首都高に入ったのは夕方前で、車の流れは落ち着いており、初心者にとっても走りやすい状況だったといいます。
「基本的には左車線をゆっくり走ってたんですが、三軒茶屋で下りるために、渋谷を過ぎたあたりから右車線に入ってたんです。出口が右にあるから、それが一番自然だと思って」と堀口さん。
交通量は少なく、特に後続車も見当たらなかったといいます。しかし、その静けさは突然破られました。
突然背後に現れた異常な光
「最初は、なんか後ろがやけに明るいなって感じた程度だったんです。だけど、気づいたらミラーがまぶしくて見えないほどで…」バックミラーに強烈なライトを放つ黒塗りの車が、尋常ではないスピードで迫ってきていました。車種はその時点でははっきりとはわからなかったそうですが、明らかに威圧的な存在感を放っていたとのこと。
「何度もパッシングされたので、最初は自分が何かしたのかと焦りました。でも制限速度は守ってましたし、車線変更も急にしたわけじゃない。出口に向かうだけなのに、なぜこんなにあおられないといけないのか、混乱しました」
堀口さんが走っていたのは制限速度ぴったりの80キロ。左車線には大型トラックが数台並走しており、逃げ道はありませんでした。さらに後続車は、1メートルもないほどの車間で迫ってくる有様。
「衝突するんじゃないかと、足が震えてアクセルをうまく踏めなくなってしまったんです」
と、声を震わせながら語ってくれました。
出口でホッとしたのも束の間、まさかの事態に
ようやく三軒茶屋出口に差しかかった堀口さん。ウィンカーを出して右に進路を取り、高速を下りました。内心「これで助かった」と胸を撫でおろした矢先、ルームミラーをのぞくと、信じられない光景が映っていたといいます。「さっきの車が、ずっと後ろにいたんです。しかも出口まで追ってきてるなんて思いませんでした。ゾッとしました」
黒のアルファード。車体は異様なほどピカピカに磨かれ、フロントグリルには金色の装飾が施されていたといいます。
「中年の男性で、サングラスをしていて、ものすごく怖い顔でした。『てめぇ、なにノロノロ走ってんだ!けんか売ってんのかよ!』って叫びながら、僕の車の窓を叩き始めて…。もう、声も出ませんでした」
車内に響く怒号と振動。堀口さんは震えながらシートに張りついていたといいますが、幸運にもタイミングよく信号が青に。反射的にアクセルを踏み込み、その場を振り払うように走り出しました。
無我夢中で警察に被害届を提出
「そのまま一気に世田谷警察署まで走りました。もう、どこでもいいから助けてほしかった」交番に駆け込むと、警察官はすぐに事情を聞き取り、ドライブレコーダーの映像を確認。煽り運転と暴言行為に対して、正式な被害届が受理されました。
数週間後、警察から一報が入り、例のアルファードの運転手が特定・検挙されたとのこと。
「常習的なトラブルメーカーだったみたいです。あの映像が決め手になったと聞いて、ほんの少しだけ救われた気がしました」と堀口さん。
それでも、精神的なダメージは小さくありませんでした。あの瞬間の恐怖は今も鮮明に焼き付いているといいます。
「あの出口を見るだけで、心拍数が上がってしまうんです。だからもう、今後は渋谷出口で下りるようにします。多少遠回りでも、あの場所は通りたくない」
初心者が一歩踏み出したばかりの道で味わった、予期せぬ悪夢でした。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営