日本時間の8月19日に行われた米ウ+欧首脳会談では、ウクライナの安全の保証について協議を進め、米国は最前線に立つ欧州の後方支援を担うことを約束。ただし、トランプ氏は「殺戮を止めて天国に行きたいが、現状では私は天国行きの最下層にいる」とFOXニュースで語るなど、意気消沈気味だ。

ジャーナリストの岩田明子氏は、今回の協議は0.5歩前身と評価しつつ「日本は安倍氏の外交遺産を継ぎ、和平交渉で存在感を発揮すべきだ」と主張する(以下、岩田氏の寄稿)。

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ゼレンスキー大統領「これまででベストの会談」

前代未聞の激しい口論に発展した2月の会談から6か月、再びトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスで対面した。

その3日前にはロシアのプーチン大統領が10年ぶりに訪米したこともあって、直前までピリピリとしたムードが漂っていた。トランプ氏がロシアの代弁者としてウクライナに領土割譲を迫る可能性があるとみられていたからだ。

安倍政権時代の’19年8月、仏ビアリッツで開かれたG7でトランプ氏(第1次政権)が「ロシアを復帰させてG8に戻すべきだ」と発言したことを、私は鮮明に覚えている。トランプ氏は一貫してロシア寄りの姿勢を取ってきた。

だが、今回の米ウ首脳会談は2月と打って変わっての友好ムードに終わった。トランプ氏と昵懇なフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長ら欧州首脳陣も“ウクライナ応援団”として同席した影響が大きかったと考えられる。

「これまででベストの会談」

ゼレンスキー氏が語ったように、前進も見られた。ウクライナの「安全の保証」について協議を進める約束が交わされたのだ。

難航するウクライナ和平で考える安倍元首相の存在感

侵攻からはや3年半になるが、和平に向けて欧米首脳陣らが奔走している間も、ロシアは繰り返し攻撃を続けてきた。仮に、平和条約の調印に向けて進展が見られても、ウクライナにはロシアによる再侵攻リスクがつきまとう。それだけに、NATO(北大西洋条約機構)を中心とした停戦監視軍などの配置なくして、安全の保証はできない。


ただし、その前進は0.5歩程度のものにすぎない。プーチン氏は昨年5月に大統領任期が切れていることを理由に、「ゼレンスキーそのものが非合法」と主張し続けている。トランプ氏が調整役を買って出たロシア・ウクライナ首脳会談が早期に実現する可能性は低いと思われる。

私は「安倍元首相がいたら」と考えざるを得ない。最もプーチン氏の知遇を得た首脳だったからだ。両者の会談は計27回にも及んだ。

トランプ氏も安倍氏に絶大な信頼を寄せていたことは、もはや説明不要だろう。最近、トランプ氏がノーベル平和賞の受賞を望んでいると繰り返し報じられるようになったが、かつて安倍氏にも「どうすれば受賞できるか?」と相談していた。あの歴史的な米朝首脳会談は安倍氏の助言あってのものだった。

そうした“遺産”を生かして、なぜ今、日本は存在感を発揮できないのか? 少なくとも傍観している場合ではない。

“0.5歩前進”のウクライナ和平交渉「なぜ今、日本は存在感を発揮できないのか?」安倍外交が残した可能性とは
岩田明子
<文/岩田明子>

【岩田明子】
いわたあきこ●ジャーナリスト 1996年にNHKに入局し、’00年に報道局政治部へ。20年にわたって安倍晋三元首相を取材し、「安倍氏を最も知る記者」として知られることに。
’23年にフリーに転身後、『安倍晋三実録』(文藝春秋)を上梓。現在は母親の介護にも奮闘中
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