こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

スニーカーのトレンドが、厚底と薄底の両極端に分かれています。ファッションとしてのスニーカーであれば、それは好き好きだと思いますが、歩く、走る、動くといった実際の行動を考えると、どちらがいいのでしょうか?

結論から書いてしまえば絶対的な正解はなく、その人によります。要はメリット、デメリットがはっきりしてるので、相性があります。今回は厚底シューズと薄底シューズのそれぞれの強みと、要注意点を解説します。

すでに痛みがあるなら厚底シューズ

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男性であれば変形性膝関節症、いわゆる「ヒザ痛」が早い方であれば30代から、健康でも40代後半になると……まあ、おっさんになるとヒザは痛くなります。筆者も10代の時のケガから、今でも慢性的に左ヒザ痛に悩まされています。日常生活でイライラするようなら、迷わず厚底シューズを選んでください。どれか迷っているのなら、安定と実績のHOKA「クリフトン10」。幅もレギュラー、ワイド、エキストラワイドの3種類から選べるので、ほとんどの方にフィットします。

今や厚底はたいていのメーカーから販売されていますが、コスパで挙げるならこちら。ウルトラマラソンにも対応しているので、ヘビーに使用しても3~4年は余裕で履けます。ナイキやアシックスなどの「いかにも運動靴」感もありません。クッションが効くのは当然として、底面積がかなり広いので、圧力も分散されます。
同モデルは10代目ですが、全モデルと大幅にアップデートされたのが、カカトからアキレス腱周りの強化です。カカトのボリュームが小さい日本人にも最適で、アキレス腱もやさしく支えてくれるので履き心地はさながらハーフブーツ。ネンザしやすい方でもガンガン歩けます。

スニーカーの最新トレンド「厚底vs薄底」で正反対に。より実用的なのはどっち?
ザムスト「Footcraft STANDARD」。5280円。写真は公式HPより
デメリットとしては、ふかふかに沈み込むので人によってはかえって疲れる方も。自転車のように、ある程度スピードを出して走ると安定するのですが、時間の余裕のない日常生活での「せかせか歩き」程度の中途半端なスピードでは筆者は疲れました。対策は簡単で、硬めのインソールに変えればOK。大型スポーツ店に置かれているZAMST(ザムスト)社の「フットクラフト・スタンダード」シリーズが抜群の相性です。

裸足で砂浜の上を歩き続けると、沈み込んで疲れます。しかし、そこに一枚の板をわたすとすたすた歩けるようになります。これと同じ理屈です。ソフトすぎるインソールは無意味でお金の無駄。硬いインソールを入れると足場がしっかりするので、早歩きや立ち仕事でも疲れません。
HOKAだけではなく、どんなブランドのふかふか系厚底シューズでも応用可能です。

脚力アップなら薄底シューズ。誤解されがちな薄底カテゴリー

スニーカーの最新トレンド「厚底vs薄底」で正反対に。より実用的なのはどっち?
SKINNERS「ムーンウォーカー」。3万1900円。写真は公式HPより
体力、脚力をつけたいなら、薄底です。誤解を避けるために書いておくと、ファッションスニーカーとしての薄底と、機能性スニーカーの薄底はまったく異なります。いわゆる「ロープロファイルシューズ」と呼ばれる、レトロスニーカーでは脚力も体力もそこまではつきません。アディダスのサンバや、プーマのスピードキャットなどが薄底のファッションシューズではなく、最新技術を駆使している米アルトラ社やゼロシューズ社、ナイキの「フリー」シリーズなどがいわゆる「ベアフット(裸足)シューズ」というカテゴリーです。似ていて完全に非なるものなので、分けて知ってください。機能性に特化したベアフットシューズは去年から爆発的に売れていて、人気モデルは最近では入荷即完売ということも。筆者が最近履いているのがチェコのSKINNERS社の「ムーンウォーカー」です。

ベアフットシューズでレザースニーカーのタイプはまだまだ少ないのですが、ビジネスカジュアルでも使えるほど上品な佇まいです。底の厚みが4.5㎜と容赦なく薄い。こんなに薄いとヒザはさらに痛くなるのではと心配になりそうですが、逆です。
人間の体は複雑そうでいながら変にシンプルなところもあり、「底が薄い」と感じると、歩き方が自動的に変わります。足の裏全体で勝手に着地するのと、体幹がきゅっと勝手に引き締まるので、結果として足だけではなくふとももからお尻、そして腹筋までもれなく総動員されます。すると面白いことに、関節が車のサスペンションのように機能し、骨格そのものがクッションになるのです。文章では何を言ってるのか伝わりづらいですが、履いて5秒歩けばわかります。筆者自身もヒザの動きを無駄なく自然に使えるようになったので、今のところ痛みはありません。

ベアフットシューズのデメリットというか注意点はひとつだけ。劇薬です。歩き方、体の使い方がスパルタ式に変わるため、比較的体力のある人でも数日間は筋肉痛や足裏の痛みに苦しめられるでしょう。徐々に慣らす期間が必要です。

迷ったらハイブリッドシューズで解決

スニーカーの最新トレンド「厚底vs薄底」で正反対に。より実用的なのはどっち?
アルトラ「エクスペリエンス フロー 2」。2万2000円。写真は公式HPより
ここまで厚底シューズと薄底シューズのメリット、デメリットを書きましたが、自分には結局どっちが向いているのかわからない方も多いはず。大丈夫です。いいとこどりのハイブリッド版が米・アルトラ社から出ています。
「エクスペリエンス フロー 2」。

底の厚みはHOKAとほぼ差がないのですが、つま先とカカトの高さにほぼ差がないので、歩く、走るには意外に体力が必要です。足裏への刺激はさすがに超薄底のベアフットシューズほどではありませんが、「ゆるやかな坂を踏みしめながら上り続けている感覚」は変わりません。アルトラ社もベアフットシューズの初心者用に推奨しているモデルで、筆者もこれの旧モデルを愛用していますが、つま先にぐっと力が入り、足裏全体で着地できるのがよくわかります。加齢とともに足裏のアーチは落ちていくものですが、いわば足裏の筋トレが勝手にできるのでその心配もありません。「足」だけではなく、「脚」で歩ける感覚がよくわかるモデルです。

ざっくり分けると、故障が多い方には守りに徹した、やや過保護の「厚底」を。もっと脚力、体力をつけたい方には攻めの「薄底」がおすすめです。両方あってももちろん大丈夫。その日の足のコンディションや歩行距離で選ぶのもアリです。

【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。
YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』
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