すかいらーくホールディングスの業績が好調です。2025年1-6月の本業での利益は前年同期間比26.0%増の149億円でした。
すかいらーくは今期通期の事業利益を275億円と予想していますが、上半期の段階ですでに54%を超過しました。
 好調の要因の一つが2024年に買収した「資さんうどん」。関東・関西を中心に積極出店を計画しており、2026年末には現在の80店舗から124店舗に拡大する見込みです。

大量出店を予定する「資さんうどん」。“急拡大後”に待ち受ける...の画像はこちら >>

大阪では27時間列が途切れることがなかった

「資さんうどん」は、1976年に創業者の大西章資氏が知人から譲り受けた北九州市の小さなうどん店が始まり。顧客起点の店づくりが特徴で、早い段階から24時間営業を開始し、100種類以上のメニュー開発にもチャレンジしました。

 名物はスティック状のゴボウの天ぷらをのせた「ごぼ天うどん」。「資さんうどん」は北九州のソウルフードとして親しまれており、2023年に将棋棋士の藤井聡太さんが勝負メシとして「肉ごぼ天うどん」を選んだことが話題になりました。

 2015年に創業者の大西氏が逝去し、後継者問題を機に投資ファンドが株式を取得します。

 2018年に「資さんうどん」の運営会社社長に就任したのが佐藤崇史氏。ソニーに入社した後、ボストン・コンサルティング・グループに転身、ファーストリテイリングの執行役員にも就任したエリートです。その手腕は確かで、2025年にオープンした東京1号店の「資さんうどん 両国店」は開店前から大行列ができました。

 ポイントは1号店のオープン前に3日間限定のポップアップ店をオープンしていたこと。このときも大盛況で、400人以上の行列ができました。
「資さんうどん」は東京ではあまり知られていない存在だったものの、評判が広がってブランドが浸透しました。2023年には大阪に初出店しており、このときも27時間列が途切れることがなかったほどの人気を獲得しています。

なぜ食へのこだわりが強い関西で成功できたのか

 出店エリアによって味の調整を行っておらず、もちろん関西風のアレンジも行っていません。食へのこだわりが強い関西でも成功させることができたのは、キッチンカーでテスト販売を繰り返すという営業活動が功を奏したためでした。

 創業から成長期を経て、投資ファンド、すかいらーくへとオーナーチェンジを繰り返してきましたが、実直さが失われることなく、地道に顧客開拓を進めてきました。

ファミレスと客層が異なる“空白領域”だった

 2025年6月末の「資さんうどん」の店舗数は80。下期は14店舗の出店を計画しています。2026年にさらに30店舗出店して124店舗への拡大を目指しています。

 関東と関西での成功を機に、「資さんうどん」の売上は1.3倍、営業利益は1.4倍に拡大しました。100種類以上という豊富なメニューかつ24時間営業という使いやすさ。客単価800円~900円とインフレ下でも値ごろ感のある価格設定が人気を支えています。

 すかいらーくは「ガスト」や「バーミヤン」、「夢庵」などのファミリーレストンに限らず、カフェ業態の「むさしの森珈琲」、焼肉店「じゅうじゅうカルビ」、から揚げ専門店「から好し」など豊富なブランドポートフォリオを構築しています。

「資さんうどん」は低単価で、ファミリーレストランとは客層が異なる空白領域に位置しています。

業態転換を進めて集客力を強化

大量出店を予定する「資さんうどん」。“急拡大後”に待ち受ける不安要素も
ガストから別ブランドに転換するケースはいまや珍しくない
 実は今年の下期に予定されている14店舗の出店のうち、10店舗は業態転換。既存のレストランを急ピッチで別のレストランに作り替えていることが、今のすかいらーくの転換点を物語っています。
展開するブランド地図を塗り替えている最中なのです。

 主力の「ガスト」は2023年12月末から40店舗純減し、2025年6月末には1240店舗となりました。すかいらーくは2024年12月期に55店舗の業態転換を実施しており、同エリアの顧客の食い合いを指すカニバリズムを解消。客数を6.6%増加させることに成功しました。

「バーミヤン」や「しゃぶ葉」、「むさしの森珈琲」などは店舗数が増えています。その一方で、「ガスト」は緩やかに姿を消しており、店舗数日本一で圧倒的な存在感を保っていたかつての勢いはありません。

 勢いのあるファミリーレストランは、競合の「サイゼリヤ」。2025年5月末の店舗数は1051で、13店舗純増しました。このまま「ガスト」の転換や閉店が進むと、「サイゼリヤ」の店舗数日本一が視野に入ります。

 頑なに値上げをしなかった「サイゼリヤ」が水面下で快進撃を続けているのです。

ソウルフードの矜持を保つことができるか?

「ガスト」は度重なる値上げを行ってきました。それが客離れを引き起こした一因にもなっているでしょう。
その点、「資さんうどん」は低単価であり、一度離れた顧客を取り戻す潜在性を持っています。メニュー数が多いためにリピーターにもなりやすく、ファミリーレストランとも被らないため、「バーミヤン」などとの顧客の食い合いも起こりません。

「資さんうどん」の出店を強化する理由はいくつもあるのです。

 懸念されるのは、店舗数を急拡大してサービス力を維持できるかどうか。メニュー数の多さは顧客にとってメリットしかないものの、オペレーション負荷が高くなります。24時間営業ともなれば、スタッフの獲得も容易ではありません。ソウルフードとしてファンから親しまれてきたブランドは、一度顧客の信頼を失うと、たちどころに客離れが起こるという危険と隣り合わせです。

 店舗を拡大した後の手腕が試されるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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