韓国全体で少子化問題を克服する動きが高まるなか、昨年国内でもっとも出生率が上昇したソウル近郊の仁川(インチョン)市では「100円住宅」政策を行っています。
「100円住宅」政策とは、新婚世帯向けのマンションに1日100円(月額3000円ほど)で住むことができるという斬新な住宅支援策です。韓国国内でも話題となり、抽選倍率は3.9倍から7倍にもなる狭き門でしたが、とある日韓夫婦が当選しました。
今回は、100円住宅に当選した在韓日本人女性であるユウさん(30代)に、100円住宅の概要や、隠れたメリットについて伺いました。
2度目のチャレンジで100円住宅に当選
ーー100円住宅の当選、おめでとうございます。相当な倍率だったのではないでしょうか。ユウさん:ありがとうございます。今回の募集は2回目で、倍率は3.9倍だったと聞きました。
ーーお家の概要を教えてもらえますか?
ユウさん:築年数は4年目で、韓国だと新築アパートという扱いになります。間取りは日本でいう3LDKで、リビングとキッチン、ダイニングのほかに個室が3部屋あります。
個室は8~10畳ほどの部屋が1つと、5~6畳ほどの部屋が2つです。韓国はトイレ付きのシャワールームが2個設置されているマンションが多く、今回選んだ家も2つ付いています。また、風呂場はシャワーのみ備え付けが基本の韓国ですが、ここは浴槽付きです。
大きい部屋には、ドレスルームが付いてます。
ーー日本でいうと、立地はどのあたりのイメージになるのでしょうか。
ユウさん:私の感覚だと、インチョン市は神奈川県と千葉県の間のイメージです。空港があるので千葉県のような雰囲気がありつつ、中華街もあるので横浜みたいなエリアもあります。
地下鉄の急行に乗れば30分ほどでソウルに着くので通勤も可能ですし、実際に私もソウル市内に通っています。横浜あたりから、湘南新宿ラインで新宿や渋谷に働きに行くようなイメージですね。
100円住宅の仕組み

ユウさん:「1日100円」とうたっていますが、実はカラクリがあります。
韓国の住宅には、独特の保証金制度があります。主にマンションに住む際、入居者はオーナーに保証金を一括で預ければ、月々の負担なしで住むことができます。そして、預けた保証金は契約終了時に全額返ってきます。これを「チョンセ(傳貰)」といいます。
ーー保証金を預けることで実質無料で家に住める、ということですね。保証金はちなみに、いくらくらいなのでしょうか。
ユウさん:近頃は保証金が数億ウォン(約数千万円)からと、かなり高額なパターンが多く、若い夫婦は用意できないことがほとんどです。そのため、銀行などからお金を借り入れます。
今回、私たちが当選した100円住宅制度では、その保証金を2億4000万ウォン(約2400万円)を上限とし、市が80%負担してくれます。
つまり、毎月の支払いは3万ウォン(約3000円=1日約100円)ですが、保証金の自己負担分4000万ウォン(約400万円)も自分たちで用意する必要がある、というわけです。
住宅は用意されているわけではない

ユウさん:そうです。また、家探しも自分たちで行わなければなりません。夫婦共働きなので、週末に5件ずつ家を見て回りました。「この家いいな」と思っても、そのときに契約しないとすぐ入居者が決まってしまいますし、新しい住宅は保証金が高めです。
保証金は、市が負担してくれる限度額を超えた分は自己負担となるため、そこも考慮しなければなりませんでした。
ーー100円住宅用の住宅があるわけじゃなくて、どのお家を選んでもいいのですね。
ユウさん:今回私たちが当選したのは、そういうシステムでの募集でした。前回の募集のときは、市が買い取った家を保証金なしで月3万ウォンで住むことができるシステムでした。
これに当選した人は、保証金を用意することなく、本当に1日100円の負担のみで住むことができます。こちらは、私たちが応募したときよりも人気が高く、倍率は7倍を超えたそうです。
ーー保証金を用意しなければならないとはいえ、韓国の住宅価格が高騰する中、格安で住めるのはありがたいことですね。
ユウさん:本当にありがたいです。妹がソウルに住んでいるのですが、私が今度住む家と値段はほぼ一緒なのに、築年数がけっこう経っており、部屋も狭いみたいです。
詐欺に遭うリスク
ーー100円住宅に住むことができるメリットは、ほかにもありますか?ユウさん:国が介入するため、安心・安全といったメリットもあります。100円住宅として申請できる住宅には「オーナーに借金がないか」「家に問題がないか」などの審査が入ります。
オーナーが保証金を使い込んでしまって、引っ越しする際に「次の入居者が入らないと保証金を返還できない」と言われてしまう人は珍しくないそうです。
ーーそれって、詐欺ではないですか?
ユウさん:保証金を元手に投資などで利益を出し、差額で儲けるという側面もあるので、悪意がなくても結果的に保証金をパーにしてしまうオーナーもいます。詐欺にはあたらないみたいですね。
でも、保証金制度があたりまえの韓国では、今住んでいる家を退去し新居に引っ越す際、新しい家のオーナーからも保証金を求められます。
また、私の夫は、独身時代に本当の保証金詐欺に遭ったことがあります。
夫が過去に詐欺に遭ったことも

ユウさん:多額の保証金を横領する詐欺でした。犯人が不動産を装って部屋を又貸しし、お金を奪い取るという手口でした。
犯人は捕まりましたが、盗られたお金は戻ってきませんでした。夫だけでなく団地ごと被害に遭い、被害総額は80億ウォン(約8億円)だったそうです。
それで、自殺を選んだ被害者の方もいます。
ーー詐欺で多額の借金を抱えることになるなんて、耐えられませんよね……
ユウさん:相当大きな事件だったようで、当時夫は被害者代表としてテレビのインタビューも受けたそうです。韓国は不動産の仕組みが独特なので、現地人でも詐欺に遭うことがよくあります。
だから今回、家探しをするうえで夫は詐欺に遭わないかずっと心配していました。たまたま100円住宅制度がスタートし運よく当選したため、夫婦共々とても喜んでいます。
ーー100円住宅は、将来設計を前向きに考える若い夫婦の見方のような制度ですね。保証金制度を巡る詐欺被害を減らせる取り組みとも言えそうです。安心・安全を買える制度として、日本でも取り入れられる部分は参考にしたいですね。
<取材・文/松浦さとみ>
【松浦さとみ】
韓国のじめっとしたアングラ情報を嗅ぎ回ることに生きがいを感じるライター。新卒入社した会社を4年で辞め、コロナ禍で唯一国境が開かれていた韓国へ留学し、韓国の魅力に気づく。珍スポットやオタク文化、韓国のリアルを探るのが趣味。ギャルやゴスロリなどのサブカルチャーにも関心があり、日本文化の逆輸入現象は見逃せないテーマのひとつ。X:@bleu_perfume