とはいえ、東南アジアも一部の場面では日本よりも物価が高いケースが増えた。円安に関係なく、昔から日本より高い価格設定もある。日本人に人気の渡航先のひとつタイも物価が上がっており、観光でも長期滞在でも割安感を持てないシーンもしばしば。そんなタイにおける日本よりも価格帯が高いものをいくつかピックアップしてみた。
宿泊費・食費に対する円安インパクトはかなり大きい
日本人のタイ観光では、どうしても円安の悪影響をどの場面でも感じることになる。絶対的に必要な宿泊費や食費は間違いない。宿泊はシーズンやクラスによって大きく異なるし、安宿を選べば今も十分に低予算は可能だ。高級ホテルは、バーツ建て料金は以前とさほど変わっていないはずだが、結局ここで円・バーツの為替レートが強く影響してくる。
仮に1泊2000バーツだとすると、2025年8月のレートではおおむね9000円。この月の平均は1万円が2150バーツ程度の為替のためだ。在住者にもよるが、長期滞在者は大雑把に1バーツを5円と計算するので、2000バーツはほぼ1万円といえる。
これがパンデミック以前であれば1バーツを3.5円くらいで計算していたので、2000バーツは7000円程度。
さらに、タイ国内の物価上昇もじんわりとインパクトを与えてきて、食費も自然と高くつく。たとえば屋台の平均価格帯で見ると、米粉麺クイッティアオの場合、2000年代初頭は25バーツ程度が普通だったところ、徐々に上がってきてパンデミック前後には50バーツ、2025年に入ってからは60バーツでも驚かないくらいになった。2000年代初頭は1バーツ3円という感覚だったので当時75円レベルだったものが、現在は300円。日本円でタイ観光を楽しむ人にとってはかなり強烈な体感になる。
日本料理は間違いなく日本が一番安い!

かつてのタイはエアコンがついているレストランは高く、ノン・エアコン店は各メニューが安かった。この差が縮まって、高級店にも入りやすくなったともいえるのだ。
中でも日本料理はその中のひとつといえる。2000年代初頭はまともな日本料理店がそもそも少なく、ちゃんとした店は、日本でいうなら高級料亭並みの高さだった。変な店でもタイ料理屋台の数十倍は飲食費がかかったものだ。
2010年ごろからタイは日本料理ブームになり、日本の有名店が多数、バンコクを中心に進出してきた。有名店はその際に日本とほぼ同じ価格設定か、タイでは高級路線にしていることが多い。
とはいえ、2010年ごろの進出の場合、当時のレートでは日本とほぼ同じかちょっと高いだけ。ところが、今となっては有名店のバンコク支店は安くても1500円はくだらない感覚になっている。タイ料理の平均が高くなっているので以前ほど抵抗感はないものの、実質的には日本より高い。
日本の定食チェーンで有名な「大戸屋」は完全に日本と同じ味を再現している。日本料理ブーム以前にバンコクへ進出しているので、当時は価格も日本と大きく変わらず、在住日本人に歓迎された。それがやはり円安の影響で、まったく同じメニューでも今は差が小さいもので日本より数百円は高い。
飲食関係ではアルコールも物価指数的にタイは高い。近隣諸国と比較しても、ビールがとにかく高い。これは酒税の設定が高いからということらしいが、バンコクで生ビールを飲むと、いわゆる中ジョッキが安めでも100バーツくらい、500円はしてしまう。日本の大衆ウイスキーの代表格「サントリー角」も小売店でさえ4000円超という設定だ。
タイと日本では気候も違うので、場合によっては輸入食材に頼らざるをえない。
ITまわりはかなり微妙だが、買うなら日本がいい
タイのパソコンなどIT関係は日本とほぼ同等が多い。高い場合も少なくなく、日本より安いということはほぼない。現在パソコンのブランドは中国が多いが、タイの場合は日本では見たことのないようなブランドもよくある。そういったものはさすがに安い。
中国や欧米の有名企業のものは、日本とまったく同じスペック、型番ということがあまりないので、確実な比較は難しい。アップル社のような世界的に同じ価格の製品は日本とほとんど同じではあるが、ほかのブランドの類似するスペックだとタイのほうが高いものがほとんどといえる。
2010年ごろからタイでもスマートフォンが普及し、日本よりも普及率が高いとさえいわれている。タイは政府が銀行アプリの制作を主導し、今やタクシーや屋台、寺院の喜捨(お布施)でさえもQRコードで支払える。老人であろうとスマホ使用を前提にした政策で、飲食店でも現金不可の店も増えてきているほど。
とはいえ、これもまた中国製の謎ブランドなどがあって、日本よりもメーカーが多く、価格帯がピンキリというのも普及率に関係すると思う。貧困層でも購入できる低スペックのスマホもあるのだ。そういった端末なら、たしかに日本よりもずっと安い。ただ、日本に持ち帰って使うには不便も多いだろう。
他方で、ある程度ちゃんとしたブランドだと、ほとんどは日本のほうが安い。東京だと秋葉原の存在が大きい。iPhoneなどが正規店より安く、同時に中古もあるので、日本のほうがタイより安いのだろう。実際、秋葉原のそういったショップには外国人がたくさん群がっている。
タイでも中古スマホはあるが、有名ブランド、特にiPhoneはあまり値下がりしないので、中古でもそれなりに高い。また、タイではまず見かけない並行輸入の新品も秋葉原などでは売っているので、物によってはタイより5000円から1万円近くも安い。
スマホは厳密には電波使用の承認関連があって、日本ではいわゆる技適マークというものがないといけない。

観光客は買わないにしても、タイは車が高い!

タイの場合、車はとにかく高い。タイ国内で走る日本車で一番多いトヨタを例にすると、近年タイと日本で人気のある『ヤリス・クロス』は日本ではおよそ200万円~(税込)となっている。

一般的には仕事で使う、特にタイでは農作業などでも使用するピックアップ・トラックなどは税率が低く、スポーツカーなど実用性のない車ほど高税率になるとされる。そのため、たとえばポルシェ『718ケイマン』は日本では950万円~であるが、タイでは620万バーツ、すなわち2880万円にもなる。


問題は燃料費。日本だとレギュラー171円ほどが全国的な平均だと思う(執筆時点)。タイは石油公社が価格をコントロールしている。タイでは現在一般的な、日本のレギュラーに相当するガソリンは「ガソホール91」という、ガソリンとエタノールの混合燃料で、この場合はオクタン価が91。これだとリッターあたり32.18バーツ、およそ150円。日本と大差ない。

このように、少なくともタイは日本よりも高いものがたくさんあり、場合によっては日本国内観光よりも支払いが多くなることもある。とはいえ、安いものも少なくない。屋台は在住者目線でいえば昔よりも高額になってしまったとはいえ、日本のタイ料理店で食べるよりもずっと安い。

<取材・文・撮影/髙田胤臣>
【髙田胤臣】
髙田胤臣(たかだたねおみ)。タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に彩図社「裏の歩き方」シリーズ、晶文社「亜細亜熱帯怪談」「タイ飯、沼」、光文社新書「だからタイはおもしろい」などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。YouTube「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中