’25年8月、北海道・羅臼岳で登山者が熊に襲われ死亡した事件は全国を震撼させた。これから行楽シーズンを迎えるだけに、誰もが危険な野生動物と遭遇する可能性はある。
九死に一生を得た人々から、緊迫の体験談を聞いた。

阿鼻叫喚の熊出没事例「幽霊より怖い」

「後ろ!後ろ!」崖で熊と対峙した40歳男性、間一髪で助かった...の画像はこちら >>
 関東以北で死亡事故も多発している熊害だが、間一髪で逃れた事例も紹介する。

 田中優さん(仮名・38歳)は昨年夏、青森県の某心霊スポットを友人と探訪。だが早々に退屈さを覚え、帰ろうとしたとき、風に乗って強烈な獣臭が漂った。

 すると、左手の藪の中から巨大なヒグマが出現。しかも二頭の子熊を連れ、こちらとの距離はわずか20~30m。親熊が子を守ろうとすれば、攻撃性は一気に跳ね上がる。

 すぐに田中さんと友人は路上に駐車した車を目がけて走った。

「幸運だったのは、車がリモコンキーだったので、すぐにドアを開けて乗れた点です」

 無事に乗り込んだ車の窓からは、親熊がすでに1m弱まで迫っているのが見えた。

 無我夢中でアクセル全開にして振り返ると、親熊はなお数十m追いかけてきたという。

「幽霊なんかより熊のほうが1億倍怖かったです」

熊出現は猟銃の出番だからこそ…

 さらに、熊とともに撃たれそうになったというのは山本研さん(仮名・40歳)。

「コロナ前の秋、狩猟免許のある父と叔父の3人で、山梨県の櫛形山にキノコ狩りに行ったときのことです」

 歩幅5㎝程度の崖で、山本さんが列の最後尾を歩いていると叔父の叫び声が響いた。

「後ろ! 後ろ!」

 振り返ると、田代さんの約5m後方に体長150㎝ほどのツキノワグマの成獣がいた。

「頭押さえて伏せろ!」

 次の瞬間、山本さんの父と叔父は熊に向かってライフルの銃口を向けていた。


「下手すりゃ僕が撃たれる。ガクガクと震えながら、熊、崖、銃口という三重苦に耐えましたね」

 結局、熊は崖下を滑り落ちるように下り、姿を消した。

「猟師が不足し、最近の熊は銃口を向けても恐れず平気で向かってくるらしいです」

 やはり、熊遭遇の恐怖は桁違いのようだ。

「接近しない・させない」に勝る対策はなし!?

「後ろ!後ろ!」崖で熊と対峙した40歳男性、間一髪で助かったわけ。“死んだふり”が逆効果になることも
写真はイメージです
 危険動物への対策は数多く語られているが、専門家によれば誤解も多いという。

 北海道で鹿と熊の駆除を行うハンターB氏は、「熊と遭遇したら、その場から後ずさりで逃げるしかありません。死んだふりをしても、20m以内なら逆に熊は興味を持って寄ってきます」と話す。

「大声を出す」も無意味という。

「猟師などは火薬の匂いがするため敬遠されますが、普通の人が大声を出しても『ご飯ですよ』と言っているようなものです。熊スプレーも目に当たらなければ無効ですし、熊鈴は熊が音を覚えてしまっているので逆に危ない。ただ、電子音は嫌うので携帯電話のアラームなどを鳴らすのは効くでしょう」

 また、熊の接近を知らせるしるしに「強烈な獣臭」がある。

「とてつもなく生臭いのですぐにわかります。異様な臭いがしたら、すぐに下山しましょう」

一見大人しそうな魚類もキケン!

 一方、水辺での危険については東京科学大学助教で潜水士の山崎詩郎氏が指摘する。

「水棲生物は基本的に危害を加えない限り襲ってこない。
むしろ鋭い牙やトゲ、猛毒を持つ魚介類に不用意に触れるほうが、実はサメ以上に危険なのです」

 たとえば槍のように尖った口を持つダツは光に集まるため、夜にライトを持つダイバーが刺される事故も。

 ウニの仲間であるガンガゼは強い毒を備え、またイイジマフクロウニのトゲは刺さると呼吸困難を引き起こすことも。

 ダルマオコゼは岩にそっくりな外見のため、誤って手をついた際に毒針に刺され、なかには死亡事例もあるとか。クラゲの毒は比較的弱いが、刺傷後に納豆を食べるとアナフィラキシーショックを起こすこともあるという。

 結局のところ、危険動物への恐怖心にのまれるのではなく、行動を慎む冷静さが生死を分けるのだ。

取材・文/週刊SPA!編集部、イラスト/子原こう

―[[危険動物と遭遇]のリアル]―
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