私は日本ファースト!
「手取りを増やす」政策を掲げて現役世代の心を鷲掴みにする国民民主党の勢いが止まらない。女性問題や候補者選定で逆風も吹いたが、結党5年の新興政党は時代に取り残された氷河期世代を救うことができるのか? 代表にして日本一の政治家YouTuberである玉木雄一郎氏が本音で語った。昨年の衆院選で「103万円の壁の引き上げ」を掲げて議席を4倍に増やし、(※1)参院選でも「手取りを増やす」と訴え続けて躍進した国民民主党。
──参院選では目標を上回る17議席を獲得したのに、「薄氷の勝利」と総括したのはなぜ?
玉木:時代はどんどん進んでいる。それに合わせてアップデートしていかないと取り残されてしまう、という意味合いを込めた総括です。実は、先人の教訓を参考にさせてもらいました。1964年に日本社会党書記長だった成田知巳さんが、党としての体質的欠陥として「日常活動の不足」「議員党的体質」「労組依存」の3つを指摘したのです。当時は池田勇人内閣の所得倍増政策が行き詰まるなど、社会党に追い風が吹いていた。実際、(※4)1963年の衆院選では7議席増やしたのですが、期待していたほどの伸びじゃなかった。その原因は、駅頭などでの地道な政治活動の不足や、国民・党員の声に耳を傾けずに議員の声ばかり大きくなった党の体質、そして支持基盤に依存した選挙活動にあると分析したのです。
──労組依存が一つの課題?
玉木:我が党の支持基盤である連合(日本労働組合総連合会)さんに入っている人だけが労働者ではありませんからね。むしろ、入っていない人のほうが多くて8割くらいいる。
──その“非連合”の労働者の代表格は、非正規雇用が多いとされる就職氷河期世代(40代~50代前半)だと思いますが、(※5)年代別比例得票数を見ると、参政党のほうが支持が厚かった。
参政党さんから学ぶことは、非常に多い

──具体的にどんなこと?
玉木:主に3つの手法についてですね。1つ目は(※6)党員のサブスク化。参政党は他党よりも高い党費を党員から毎月もらっているじゃないですか。党幹部に声を直接届けられるイベントといったメリットを提示しているから多くの党員を獲得できているわけですが、党費を納めることで党員にも「自分たちで参政党を大きくしよう」という政治意識が働くようになっている。
──玉木さんは政治家のなかでは(※7)チャンネル登録者数の多いYouTuberですね。
玉木:選挙ではよく「地盤、看板、カバン」が必要だと言われます。この地盤というのは通常、自分の選挙区のことをいうわけですが、今ではバーチャル空間の「ネット地盤」も加わっている。そのためには自分のチャンネルが必要。一定の登録者がいないと、有名なYouTuberなどとコラボできないんだから。今回の参院選でも「ReHacQ」や中田敦彦さんのYouTubeに出演したことで、山尾志桜里さんなどの候補者選定問題で衰えた風が再び強まった。

玉木:いやいや、皆さんからの支持が一番のご褒美ですよ(笑)。
──ご家族からねぎらいの言葉は? 昨年はプライベートな問題もありましたが……。
玉木:もちろん、家族が一番ですからね!
──話を変えましょうか……。短期的には「103万円の壁」の引き上げで手取りは増えそうですが、もっと増やしてほしい。
玉木:もちろん、控除枠の引き上げは党を挙げて進めます。与党が進めた年収に応じた引き上げでは、現役世代の手取りの増加はわずかなものですから。ただ、それ以上に経済成長戦略が大事。日本人の給料が上がらない最大の原因は日本が経済成長しなくなったから。ところが、500兆円台をうろうろしてきた名目GDPが、ここ数年で620兆円に増えてきた。理由は新型コロナのときに100兆円の財政出動をしたから。
日本ファーストで、国内100兆円投資を

玉木:短期的には減税、中長期的には手取り、投資、教育予算を増やす成長戦略。私は「日本人ファースト」ではないけど“日本ファースト”です。石破政権はアメリカに80兆円も投資するけど、我々なら日本に100兆円を投資する。具体的には北海道・千歳のラピダスのように半導体の生産拠点をつくっていく。半導体をつくるには電気がたくさんいるから、原発の再稼働が必要になってくる。
──それで手取りは増える?
玉木:地方にそうした生産拠点をつくっていくと当然、労働者が足りない。人が足りないと何が起こるかというと賃上げです。構造的に賃上げが起こるよう促していくのが政府がやるべき経済政策です。SNSではアンチの人もたくさんいますけど……我々は(※8)アンチの手取りも増やします! ここ大事(笑)。
──次の衆院選では51議席の獲得を目標に掲げていますが、もっと“上”を目指せるのでは?
玉木:51議席あれば、衆議院で内閣不信任案予算を伴う法案が出せる。今回、なぜ立憲民主は内閣不信任案を出さなかったか。それは、石破総理に解散を打たれるのが怖かったからです。

玉木:私は’22年の国民民主党代表選で、「穏健な多党制」の時代になっていくと主張しました。当時、代表の座を争った前原誠司さんは二大政党制論者で、私も昔はそうだったんだけど、世界的な潮流を見ても多様化が加速していくのは明らかでした。日本は小選挙区と比例区を組み合わせた選挙制度で、二者択一にはなり得ないので。だから、野党第一党に求心力がないと自ずと多党化する。日本でも衆参で過半数を取る政党というのはもう出てこないと思いますね。
──そういう状況でどうやって政権をつくっていくのか?
玉木:我々の政策に賛同してもらえる政党と一緒に進めるんです。あくまで政策本位。与野党の枠を超えてやっていくことで、政界の再編も促していきたい。
──支持を伸ばすための秘策は。
玉木:参院選の候補者選定で一騒動あったので、まず選考プロセスは見直します。石丸伸二さんの「再生の道」がやっていた公開面接が興味深かったので公開することも含め、複数のチェックが入るようにして魅力的な候補者を送り込んでいきたい。東京1区限定で公開面接するというのも面白いかも。
休みがあったらやりたいこと
──選挙が終わっても次の選挙と国会のことを考え続けて忙しそうですが、もしも休みがあったらやりたいことあります?玉木:作曲がしたいですね。あとは動画編集の技術を上げたい。今はAIも使っていろんなことができる。普段は好き勝手に切り取られるだけだから、自分でも動画編集ができるようになりたい。ていうか、これも政治活動の一環か(笑)。
トップクラスの政治家YouTuberから切り抜き職人に? 玉木氏の挑戦は続く……。

1969年、香川県生まれ。東大法学部時代には陸上部で十種競技の選手として活躍。1993年に大蔵省入省。第1次小泉政権時代に行革大臣秘書専門官を経験。’05年に退官して衆院選に出馬するも落選。’09年以降、連続6回当選中。’18年から国民民主党代表に
(※1)参院選
’24年衆院選では7議席から28議席へと増やした国民民主党は、勢いそのままに7月の参院選でも改選4議席から17議席の獲得に成功。比例では自民党に次ぐ762万票を獲得した
(※2)「薄氷の勝利」と総括
8月27日の両院議員総会で、「勝利は“風”に乗ったものにすぎない」「自力をつけるためにリアルとネットのドブ板が必要」などと参院選を総括。次期衆院選では51議席獲得が目標に
(※3)“たまキング”
昨年12月に女性問題で党から役職停止処分を受けた玉木氏について、榛葉賀津也幹事長は「今は一兵卒。かつては『たまキング』と呼ばれたが、たま一兵卒」と表現し、笑いを誘った
(※4)1963年の衆院選
第2次池田内閣で実施された「所得倍増解散」選挙。経済は高成長を続けたが物価高にも襲われるという逆風下の選挙だったため、野党第一党の日本社会党が躍進するかと思われたが、7議席増という結果に終わった
(※5)年代別比例得票数
共同通信が7月20日に実施した出口調査によると、10代と20代の比例投票先トップは国民民主党だったが、40~50代は参政党が国民民主を上回った。30代では参政党が全政党中トップに
(※6)党員のサブスク化
自民党の一般党員の党費は年間4000円だが、参政党は月1000円(運営党員は月2500円)。国民民主も’23年から月4000円の特別党員制度を導入し、更新手続き不要で電子決済できる仕組みを取り入れるなどサブスク化を進めている
(※7)チャンネル登録者数の多いYouTuber
’18年に開設した「たまきチャンネル」の登録者数は61万人。現役国会議員でトップは日本保守党の北村晴男参院議員で67万人。政党のチャンネルとしては参政党が53万人で、国民民主は28万人。国民民主は今年「就職氷河期チャンネル」も開設した
(※8)アンチの手取りも増やし
今回の参院選中にABEMAに出演した玉木氏が使ったフレーズで、SNS上でバズることに。なお、選挙終盤には参政党の塩入清香氏も「アンチの生活もよくします!」と似たフレーズを連呼していた
取材・文/小川匡則 撮影/菊竹 規 写真/産経新聞社
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―