みなさんは「暴露系インフルエンサー」をいくつ知っていますか?
X、YouTube、TikTokなど、様々な戦場で裏情報の拡散を行う暴露系インフルエンサーたちは、今日も誰かの秘密や失態を求めて、広く情報を集めています。現代社会に巣くう闇の情報屋とでもいえるでしょう。
2025年9月10日、アイドル情報を中心に暴露を行う「DEATHDOL NOTE」の「中の人」が暴露され、物議をかもしました。
DEATHDOL NOTEは、人気マンガ『DEATH NOTE』のパロディ形式をとった暴露インフルエンサーで、主にアイドルの私生活情報を専門に発信していました。
ですが、アイドルグループ「iLIFE!」メンバーの暴露投稿を行った際には、これが全くのデマであったため逆に謝罪に追い込まれるなど、その信ぴょう性には疑念を抱く方も少なくなかったようです。


大抵の情報はネットで得られる現代において、検索しても出てこない「誰かの秘密」は過去最高に熟しきった味わいを醸している。だからこそ、暴露で稼ぐ人々が出てきたのでしょう。
しかし、これは非常に短絡的かつ刹那的な発想です。この流れの先には、地獄が口を開けて待っている。
「暴露と裏切りの快感」の危険性について、考えます。
暴露がバズる理由
新規情報を拡散しているのは、新聞も暴露も同じ。ですが、前者はバズりにくく、後者はバズりやすい。なぜならば、「知りたいけれど、限られた人しか知らない情報」を「自分は知っている」と優越感を与えるものであり、「誰かに教えたい」と感じさせる刺激的なゴシップが大半だからです。
ですが、両者は同じものではない。新聞やニュースは誰かの価値判断を助ける記事がほとんどであり、その取材には両者間の「信頼」があります。
互いの約束を守ることで信頼の質と量を高め、より深い情報を得ることができるようになる。だからこそ、次に出る記事の情報はよりディープになり、質も向上する。価値は徐々に高まっていきます。
一方で、暴露系が発信する内容は、本来秘匿されるべきだった情報であり、情報提供元は、常に自らの「信頼」を切り売りしながら情報を売っている。
基本的には情報提供源は使い捨てで、互いに一度きりの関係性が前提でしょう。記事の質は担保されず、刹那的なゴシップ性にのみ人は群がります。
新聞が暴露系の記事を出さないのは、取材する価値がないからです。その情報を出しても、広がりがなく、ただ感情の表面をなでるだけで、日本経済や世界経済を揺るがすような大規模の影響を各方面に及ぼすものではない。
「扱えない」のではなく、「扱う価値がない」からこそ、誰もやらない。
裏切りがはびこる社会の末路
そして、裏切りは早い者勝ちであり、先に裏切ったほうが得をしてしまいます。裏切りの例は更なる裏切りの早期化を呼び、最終的には誰も他人に情報を漏らさない、人を信用しない社会へつながるでしょう。
これは友人関係などでは収まらず、共同体や社会の崩壊をも引き起こしかねない事態であり、明らかに反社会的な行動です。
仮に今後も暴露の連鎖が続けば、やがて誰も知らない人を信じなくなる世界にたどり着くでしょう。
自分の知っている人や、信頼している人からの紹介など、「一見さんお断り」な会社やグループが増えるはずです。
「ブロック信頼圏」が建設され、一部の限られた人のみで、情報が回るようになる。
もちろん、ここからも暴露者は出るでしょうが、そのたびにブロックから密告人は排除され、ブロック内の信頼関係はより強固になります。
こうなると、最終的に待っているのは、血縁や地縁を重視する旧時代的な社会であり、いくら能力が高くても、コネがなければ出世できないディストピアです。
そして、こうなってから一番割を食うのは、暴露に喜ぶような人、すなわち信頼圏の外にいる人々。刺激的な情報に夢中になっているうちに、自分の足元はゆっくりと崩れだしています。
「誰かの不幸」を味わう危険性と中毒性
現代社会では、「裏切った者勝ち」になりがち。ですが、本当に重要なのは「信頼できる仲間」でしょう。人気マンガ『LIAR GAME』では、ウソと裏切りを誘発するようなゲームが展開されながらも、作中のテーマは「人を信用することの重要さ」でした。
同じく人気マンガ『ドラゴン桜2』では、「性格の悪いやつは受験に勝てない」と、個人のみでの成長の限界と、他者を裏切るような安易な発想しか出ない想像力の限界を指摘していました。
SNSでキラキラした誰かの生活ばかりが流れてくるのに、いつまでも自分の暮らしは楽にならない。
石川啄木は、必死に働いても生活が楽にならない悲哀を「働けど働けど猶我が生活楽にならざりぢつと手を見る」と歌に詠みました。行き詰まったとき、ついつい手を見てしまう。自分が価値を生み出す根源だからでしょう。
いまは手の代わりにスマホを見てしまう。
無料で甘受できる無限の娯楽のシャワーに身をゆだね、現実でも、自らの無力感でもないバーチャルな世界に目をそらす。
そうして、毎日の労苦に耐える自らを精いっぱい労ってやる。ですが、本来住んでいるのはスマホでアクセスできる仮想空間ではありません。
顔も知らない誰かの不幸は、確かに天上の蜜の味がするのでしょう。
ただ、それが孕む毒の危険性と中毒性には、自覚的になったほうがいいのかもしれません。
<文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)