田口和明さん(仮名)は、近くに座っていた泥酔男性からダル絡みされてしまったというが……。
泥酔男性が周囲にダル絡み
名古屋を過ぎたあたりの新幹線車内。祖母の葬儀から帰京途中だった田口さんは、斜め前の席に座った男性の異変に気づいた。50代くらいの男性が、ビールの空き缶をテーブルに並べながら、独り言をつぶやき始めたのである。
「最初は気にも留めなかったのですが、やがてこちらを振り返り、『なあ、どこまで行くんだ?』と声をかけてきました」
スマホを見ていた田口さんは相手にしなかったが、男性が「おい!」と怒りをぶつけてきたのだ。
「急に語気を強めて『無視してんじゃねーよ!』と言いながら睨みつけてきました」
男性の暴言は次第にエスカレートしていった。「生意気だな」「お前、仕事できねえだろ」など意味不明な言葉を投げかけられた田口さんだが、面倒に巻き込まれたくはない。できるだけ視線を合わせないようにしてやり過ごそうとした。
周囲の乗客もこの状況に気づき始めていた。誰も積極的に介入しようとはせず、多くの人が視線を逸らし、車内の空気は一気に重苦しいものになった。
葬儀からの帰路という疲れた心身で、さらなるストレスを抱え込むことになった田口さん。この不快な状況がいつまで続くのかとウンザリしていたところ、事態は思わぬ方向へ展開する。
突然の出来事に悲鳴があがる
「しばらくすると男性は席を立ちあがり、フラフラと千鳥足で通路を歩き始めました。その足取りは危なっかしく、体を支えきれない様子でした」酔いが回った男性は、ついに限界を迎えた。
「やがて『うっ!』と声を漏らしたかと思うと、そのまま通路に倒れ込むようにして嘔吐してしまいました。あまりの突然の出来事に周囲から悲鳴があがり、近くの乗客が慌てて車掌を呼びに走りました」
この騒動に駆けつけた車掌と駅員によって、男性は新横浜駅で下車させられることになった。周囲の乗客からは「いい歳して情けないな」という呆れ声も聞こえてきた。田口さんは、怒りよりも疲労感のほうが強かったという。
車内に残された吐瀉物の処理に追われる駅員の姿を見て、なんとも言えない気持ちになった。
「最終的に、その男性がどうなったのかはわかりません。ただ、駅員に支えられながら連行されていく背中はどこか哀れでした。ただ、酒に飲まれるとはこのことかと、決して他人事ではないと感じましたね」
田口さんにとって、この出来事は公共マナーの大切さを痛感させられる忘れがたい経験となった。
<取材・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。