SNSの利用者数は増加する一方で、もはや国民のほとんどがそれらの情報サービスの恩恵を受けていると言っても過言ではありません。
 一方、SNSにまつわる様々な問題が露呈していることも大きな問題となっています。


 そのSNSが良好だった二人の関係を裂くきっかけとなりました。一体何がおこったのでしょうか。
 
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出会いは「乗り鉄」から

 都内の本社に異動となった細川さん(28)は、入社時に配属された研究職から営業サポートチーフという大役を任され、最初は緊張の連続だったといいます。

 そんな中、本社で出会ったのが1歳年上の営業担当・木村さんでした。

「まさか会社に”乗り鉄”仲間がいるとは思いませんでした」

 昼休みの雑談をきっかけに意気投合した二人は、休日になると連れ立って全国各地の鉄道旅に出かけました。

 車窓に広がる景色を楽しみ、珍しい車両を追いかけ、駅弁を味わう時間。社会人になってから友人に恵まれず孤独を感じていた細川さんにとって、木村さんは特別な存在でした。

「一緒に電車を待っているだけで楽しかった。マニアックな話題でも分かり合える人って、なかなかいないですからね」

 鉄道が二人の距離を一気に縮め、細川さんは公私共に木村さんと楽しい日々を過ごしたといいます。

インスタで広がった世界

 そんなある日、木村さんが何気なく細川さんに提案したそうです。

「せっかく撮ってるんだし、インスタに上げてみたら?」

 細川さんは学生時代に写真同好会に所属し、撮影と文章表現に自信がありました。半信半疑で始めたアカウントは、瞬く間にフォロワーを集めます。

 走行中の列車やノスタルジックな駅舎を切り取った写真、そこに添えられる旅情あふれるキャプション。それらが鉄道ファンだけでなく幅広い層に支持され、わずか3か月で1万人に達したそうです。


「『この景色に癒されました』なんてコメントをいただくと、本当に励みになりました」

 しかしその頃から、木村さんとの距離が少しずつ変わっていきました。以前のように頻繁に出かけなくなり、社内でもそっけない態度を取られることが増えたのです。

「最近、ちょっと避けられてるのかな……」と細川さんは感じるようになりました。

嫉妬が生んだ影

 そのころから細川さんのアカウントに、根も葉もない中傷が書き込まれるようになったのです。

「『キセルはやめません?』とか、『未成年と遊んでるの見苦しい』とか……。読むたびに胸が締め付けられました」

 最初は無視しようとしましたが、コメントは増える一方で、次第に心を蝕ばまれていった細川さん。

 そんなある日、久しぶりに二人でローカル線の旅に出かけた時です。到着が近づいたころ、木村さんがトイレに立った際、スマホを席に置き忘れたそうです。

 何気なく目をやった細川さんは、見覚えのあるアイコンを画面に発見しました。それは嫌がらせコメントを投稿してきたアカウントと同じものでした。

「まさか……と思いました。スクロールすると、見覚えのあるコメントが残っていて。頭の中が真っ白になりました」

 裏切られた衝撃と怒りで、細川さんの心は揺れ続けたと言います。


行動を起こした結果まさかの事態に

 その日、細川さんは何とか感情を押し殺し、旅を最後まで続けました。けれど心の中では、何度も「なぜ?」と問い続けていたといいます。数日悩みぬいた末、彼は決断しました。木村さんのスマホを撮影した画像を、自身のアカウントに投稿したのです。

「こういう書き込みはどうかと……」という短いコメントを添えて。

 すると、不思議なほどに嫌がらせは止みました。同時に、木村さんは会社に顔を見せなくなり、やがて「一身上の理由」で退職したと伝えられました。

「友情って、こんなに脆いものなんだと痛感しました。裏切られたことは辛かったですが、あのとき行動を起こさなければ、自分はもっと壊れていたと思います」

 細川さんは少し間を置き、こうも付け加えました。

「でも、鉄道は嫌いになれません。むしろあの出来事があったからこそ、これからはもっと自分の目で景色を見て、自分の言葉で伝えていきたいと思うんです」

 “いいね!”という数字に翻弄され、友情が崩れた出来事は苦い経験でした。しかしそれは同時に、細川さんが一人の発信者として歩み出すための試練でもあったように思えました。


<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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