2009年の「AKB48 第六回研究生(9期生)オーディション」への合格をきっかけに芸能界入りした横山由依さん(32歳)。2015年12月8日から2019年3月31日まで2代目AKB48グループ総監督を務め、2021年のグループ卒業以降は、俳優としての活動を軸に活躍しています。

「毎日ベッドで泣いていました」…横山由依(32)が語る、AK...の画像はこちら >>
 11月7日(金)からは明治座を皮切りに上演される、黒澤明監督と三船敏郎さんが初めてタッグを組んだ名作映画の舞台版『醉いどれ天使』に立ちます。そんな横山さんに、役作りに始まり、「鎧を着て強く見せていたけれど、実は傷ついていた」という“自身がもがいていた時期”について聞きました。

 また、そんなときに救ってくれた親友・大家志津香さんとのエピソードも語ってくれました。

縁を感じる舞台『醉いどれ天使』

——舞台『醉いどれ天使』の出演が決まったときの感想からお願いします。

横山由依(以下、横山):
蓬莱竜太さんの脚本ということと、黒澤監督の作品が原作と聞いて、とても楽しみでした。2019年、AKB48に所属していたときに、舞台『仁義なき戦い~彼女(おんな)たちの死闘篇~』で博多座に立たせていただいているんです。映画版の監督が今回の舞台の演出をされる、深作健太さんのお父様の深作欣二監督なので、そういった意味でも深作さんとご縁があると感じました。

——深作さんにそのお話は。

横山:
深作さんが知ってくださっていました。今回の舞台のアクション監修をされている渥美博さんが、舞台『仁義なき戦い~彼女(おんな)たちの死闘篇~』のときにアクションで入られていたんです。そのこともあって、深作さんのほうからお話してくださいました。

ぎんは強い女性でかっこいい

——舞台『醉いどれ天使』は、戦後の混沌とした時代を舞台に、人々の葛藤を描いています。横山さんは主人公の若きやくざ・松永(北山宏光)と同郷の幼なじみで、彼に想いを寄せる“ぎん”を演じます。どんなことを軸にしたいと考えていますか?

横山:
ぎんは強い女性だと思っています。
自分の夢にまっすぐ向き合ってきた人で、そこがまず強いと思います。そして戦争によって挫折を味わうことになります。でも悔しさや悲しさを乗り越え、愛情が深くなっている。自分に悔しい経験があるからこその強さというか、筋が通っていて、希望や夢を持っている人に、諦めてほしくないと思っている。とにかく自分のことにまっすぐな人も素晴らしいですが、今まで自分の夢に割いていた想いを大事な人に向けられることも素晴らしいですし、とても難しいことだと思います。ぎんにはそれができる。かっこいいなと思います。

「毎日ベッドで泣いていました」…横山由依(32)が語る、AKB時代の“リーダーの重圧”と「救われた“親友”の一言」
横山由依さん
——ぎんは強いとのことですが、横山さん自身はどうですか?

横山:
結婚して自分の家族ができたので、そういう意味では強くなれたと感じています。弱いところを見せられる人ができたので。自分でもここが弱いんだと向き合えるし、それを口にすることもできる。自分の弱さを知るという強さを得た気がします。グループにいたときは、鎧を着て強く見せていたけれど、実はすごく傷ついていた。
そのことに気づいてもいなかったのだと感じます。今はひとつひとつのことに、しっかり反応できていると思います。

2代目総監督就任にあたり混乱も

——AKB48時代は、2代目総監督を務めました。

横山:
初代総監督の高橋みなみさんから「次期総監督になって」と言われて、そこから1年ぐらいはバトンタッチ期間のような感じでした。高橋さんもいて、私は「次の総監督」。グループとしても総監督の交代というのは、そのときが初めてのことでしたし、どこかふんわりした立場で、グループを仕切るにしても、高橋さんがやるのか私がやるのか、立ち位置がよくわからない状態でした。

「毎日ベッドで泣いていました」…横山由依(32)が語る、AKB時代の“リーダーの重圧”と「救われた“親友”の一言」
横山由依さん
——それは大変そうですね。

横山:
正直、混乱していました。いざ高橋さんが卒業して、自分が総監督になってみると、想像以上に大変でした。私にとっての理想のリーダー像は、たかみなさんでした。みんなに背中を見せて引っ張って、MCをやるといつも名言を出す。大事なときにみんなを叱ることもできる。

——リーダー像を高橋さんの姿で固めてしまった?

横山:
そうなんです。
そこに合わせにいってしまって、「全部やらなきゃ」「たかみなさんにならなきゃ」と思っていました。でもたとえばコンサートでMCをやると、締めのコメントもだらだら何を言っているかわからなくなってしまう。メンバーよりも先に運営側の決定事項を知っていたりもするので、メンバーという立場だけでなく、運営側のことも見えてくる。グループやメンバーが大好きだから総監督になったはずなのに、だんだんメンバーの気持ちがわからなくなっている自分がいました。

泣いていた自分を救ってくれた親友・大家志津香

「毎日ベッドで泣いていました」…横山由依(32)が語る、AKB時代の“リーダーの重圧”と「救われた“親友”の一言」
横山由依さん
——間に立つのはきついですね。

横山:
メンバーにご飯を誘ってもらっても、レッスンのときに言った言葉で、みんなが嫌な思いをしていないかなと考えてしまうと、一緒にワイワイできないなと断ってしまったり……。たかみなさんに頼るという手段も、そのときの自分には恥ずかしくてできなくて。ひとり家に帰ってベッドで泣いていました。休みの日にはカーテンも開けたくなかったです。

——かなり追い詰められているのが伝わってきます。

横山:
すべてが空回りしてしまって、自分の醸し出している空気も重かったりトゲトゲしていたんじゃないかと。そんなとき、メンバーの大家志津香ちゃんとふたりで話す機会がありました。

——大家さんは親友だとか。


横山:
地方から出てきた同士で、もともと仲良くしてもらっていました。そのときは、みんなとご飯も行かずに距離を取っていたのですが、なにかのきっかけで一緒にご飯に行くことになって、そのまましーちゃんの家に行ったとき、飲みながら「もうイヤだ」と泣いてしまったんです。そのときしーちゃんが「大丈夫だよ。ゆいちゃんはこうやってやってきているし、大丈夫。いっぱいいっぱいなら頼っていいよ」と言ってくれて。すごく優しくて、とても救われました。

——ステキなお話です。

横山:
先ほど家族ができて自分の弱さが出せるようになったとお話しましたが、このときも大きなポイントでした。私はたかみなさんになろうとしていたけれど、そうじゃなくて、私は私でしかない。たかみなさんになろうと思ってもなれないし、ならなくていいんだ。「自分でいいんだ」と。そこからすごく楽になりました。


自分を取り戻してまた心から笑えるように

「毎日ベッドで泣いていました」…横山由依(32)が語る、AKB時代の“リーダーの重圧”と「救われた“親友”の一言」
横山由依さん
——前向きになれるきっかけがあって本当によかったですね。

横山:
そこからはMCなども自分で全部やるのではなく、上手なメンバーに振り分けたりしていきました。それから、なぜ、たかみなさんが私に総監督をと思ってくれたのかなと考えてみたんです。私はレッスンや楽屋にいるときも、いつも楽しくて笑っていた。だからだったのかなって。なのに一時は、心から笑うことができなくなってしまっていました。でも楽になったことで、また笑えるようになって、すると後輩もどんどん心を開いてくれるようになりました。

——「自分でいい」と思えた結果ですね。大家さんとは、その後の卒業や結婚といった人生の大きな転機も同時期に体験しています。

横山:
そうですね。しーちゃんも私もこの間、結婚式をしました。式の準備が大変だった話を一緒にしたりして、お互いにライフステージが変わっていっていると実感します。しーちゃんはAKB48のときから、ずっと自分の本音を話せる存在だったので、この先、お互いのライフステージが重ならなくても、しーちゃんがいてくれてよかったと思える存在だと思います。


AKB48時代の経験は、今の自分のすべて


「毎日ベッドで泣いていました」…横山由依(32)が語る、AKB時代の“リーダーの重圧”と「救われた“親友”の一言」
横山さんが出演する舞台『醉いどれ天使』
――改めて、アイドルとしての活動から、いまの自分の財産になっているのはどんなことですか?

横山:
全部です。舞台を好きになったのも、「ステージという空間をお客さまと共に」という秋葉原の劇場からスタートしています。私は人が楽しんでくれたり、明日からちょっと頑張ろうかなと思ってもらえるような活動をしたいと思っていて、それはアイドル時代から変わりません。だれかの人生に影響を与えたり、私の活動をきっかけにして何かが生まれることがある。それをグループ時代に肌で感じられたというのは、すごく大きいです。

——すごいことです。

横山:
今はファンの方と常に会えるわけではありませんけど、舞台を観に来てくださる方のお顔を見られると「元気でよかったな」と思います。そうした“人と人とのつながり”のエネルギーが集まっている場所が、劇場だと感じています。改めてAKB48時代の経験は、今の自分のすべてになっていると思っています。

——『醉いどれ天使』でも、また舞台空間を共有できますね。

横山:
はい。しーちゃんも私が出ている舞台はほぼ観てくれていて、今回も来てくれると言っていました。楽しみです。

<取材・文・撮影/望月ふみ ヘアメイク/熊谷美奈子 スタイリング/林峻之>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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