今回は、“譲る気持ちを忘れてしまった人たち”に出会い、思わず苦笑してしまったという2人のエピソードを紹介する。
一瞬の隙を狙う“座席争奪バトル”
朝の通勤電車が苦手な田辺沙織さん(仮名・20代)。
「ぎゅうぎゅうに押し込まれて、息をするのもやっと……。でも、座席の前に立てた日は“今日は運がいい”って思うんです」
その日も、目の前に座る男性が降りる気配を見せ、ようやく“座る”順番が回ってきた。
「男性が立ちあがった瞬間、『よし、次は私』と身構えたんです。でも、その一瞬の隙にやられました」
横から勢いよく割り込んできたのは、元気なおばあさんだった。
「まるで“スライディング”みたいでした。え?って思っている間に、もう片足が座席の前に入っていました」
そのとき、さらにもう一人、隣からハイヒールの音を響かせて女性が現れたそうだ。
「ブランドのバッグを振り回して、『私が座る!』って感じで突っ込んできて、もうカオスでしたね」
足を踏まれて終わった朝の通勤ラッシュ
狭い車内は、たちまち小さな“戦場”になったという。
「おばあさんは肘でぐいぐい押してくるし、OLはバッグで防御してくるし。しかもその真ん中に私がいるので。動けないし、足を踏まれて痛いし、なんかもう笑えてきました。朝から『何しているんだろう』ってなりました」
最終的に席を勝ち取ったのは、おばあさんだったようだ。
「勝者の顔でした。OLは舌打ちしていましたけど……。私は、足を踏まれただけで終わり。『次こそは座る』って思って諦めました」と田辺さんは苦笑した。
「早く降りろ」とつぶやく男性
「イヤホンで音楽を聴いていたんですが、途中で妙な声が聞こえてきました」
耳を澄ますと、小さな声で「早く降りろ」とつぶやく男性が……。
「空耳かと思いましたが、何度も繰り返していて怖くなって男性を見たんです。そしたら、目の前に座っているおばあさんをずっと睨んでいました」
おばあさんは、うつむいたまま動かなかったという。
「たぶん聞こえていたと思います。怖くて顔を上げられなかったのかもしれません」
周囲の乗客も気づいていたようだが、誰も声を上げなかった。そのとき、松下さんは“あること”に気づく。
「おばあさんのカバンには定期券が入っていたんですけど、降りる駅は“終点の一つ手前の駅”だったんです。ほぼ最終駅まで座っているのは確実で、男性は知らずにずっと文句を言い続けていました」
沈黙を破ったひと言…
数駅が過ぎ、車内の空気が重く沈んだとき、スーツ姿の男性の言葉が響き渡ったという。
「静かにしてもらえませんか!」
その一言がすべてを変えた。
「一瞬で空気が変わりました。男性は舌打ちしたけど、それ以降は黙っていましたね。みんなホッとしたようでした」
松下さんが降りる際、おばあさんは前を向いていたそうだ。
「顔を上げて、少しだけ表情が和らいでいたんです。声を上げた男性が“ヒーロー”に見えました。私も次に同じような場面に出くわしたら、声を出してみようと思います」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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