日本のアニメーションが空前のブームに沸いています。劇場版「名探偵コナン」は3年連続で興行収入100億円を突破、「鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」は日本映画史上初の全世界興行収入1000億円の大台に乗せました。

 しかし、テレビアニメを中心に製作費は高騰しており、当たり外れのリスクが大きくなっています。今の状況はモバイルゲーム業界とよく似ており、バブル崩壊の懸念もあります。

「アニメ業界」はバブル崩壊した「モバイルゲーム業界」の二の舞...の画像はこちら >>

動画配信サービスの台頭が追い風に

 帝国データバンクによると、2024年のアニメ制作市場は前年比4.0%増の3621億円で過去最高を更新しました。2023年は24.7%も増加していましたが、さらに数字を伸ばしました。

 テレビや映画だけでなく、動画配信サービスが台頭したことで需要が旺盛に。アニメ制作会社が海外企業と取り引きしている割合は45.2%で、2023年比で4.4ポイント増加しています。NetflixやAmazonなどアメリカのプラットフォーマーと契約する制作会社が増えているのです。

 ただし、アニメの放映本数は2016年の361本をピークに減少しており、2023年は300本でした。2023年のアニメ制作市場はおよそ3482億円。ピークの2016年は2000億円台でした。つまり、1本あたりの製作費が上昇していることになります。

労働環境の改善が進んだ一方で製作費は高騰

 かつての一般的な30分アニメは1話1000万円から1500万円程度とされ、現在は作品規模等で幅があるものの、2000万円から3000万円規模に上昇しているとの見方が多く、13話で1億円台だった製作費が2億円台後半から4億円近くまで達してしまうのです。

 アニメ制作は膨大な人が関わるため、費用の大半は人件費。かつてアニメ制作は“やりがい搾取”などと呼ばれ、低賃金で働いていたことで有名でした。
最近はアニメ制作者の平均年収は上昇しており、少しずつ労働環境は改善されつつあります。つまり、制作費が上がっていることは業界にとってポジティブな側面が大きいのです。

 一方、アニメはテレビ放送だけでなく、動画配信、映画化、マンガ化、DVD販売、ゲーム化、キャラクターグッズ販売など収益化の手段は多様化しており、ヒットIPの影響力は増しています。ハイリスクハイリターンなビジネスに拍車がかかっているのです。

 恐ろしいのは、制作費の高騰に対するアニメ需要が失われること。ヒット確率が下がり、制作費の回収ができずに企業の投資意欲が減退するという、悪循環を招きます。

東映アニメーションは「5年で700億円の投資」

 東映アニメーションが、フラッグシップ作品に高めるべく、様々な企画を展開すると意欲的な発言をしたアニメに「ガールズバンドクライ」があります。テレビ放送は2024年4月ですが、長期に渡って根強いファンに支持され、今年9月23日に武道館ライブを行いました。

 この公演の1万2000枚のチケットは完売し、大盛況の末に終了。総集編映画が公開され、完全新作映画の制作も決定しています。

 アニメはフルCGで作られており、演奏シーンはプロのバンド演奏をモーションキャプチャーで記録。ギターのコードを正確に抑えるなど、凄まじいまでの労働量が投下されました。SNSでは1話で億単位の資金を投じたなどとも噂されています。


 しかも、このアニメは声優がバンド演奏を行っており、2021年にオーディションを開催。バンド作りから始めるという長期プロジェクトで、相当な手間をかけました。

 結果としてDVDは累計で10万規模に達したと複数メディアで報じられ、武道館ライブ、総集編と新作映画の公開が決まるなど、見事なヒットIPとなりました。海外でも人気を博し、2025年8月に台湾ライブを行っています。

 東映アニメーションはIPを創出するため、戦略的な投資を行ってきました。2031年3月期を最終年度とする中期経営計画では、5年で700億円程度の作品投資の計画を発表しています。つまり、力強いアニメ需要に応えるようにして、企業が大規模な投資を行っているのです。

スタジオジブリが大規模なリストラを実施したワケ

 一方、アニメ作品の大型化は諸刃の剣とも言えます。かつてのスタジオジブリが、これによって苦境に立たされました。

 ジブリは「もののけ姫」から多額の製作費をかけるようになり、「千と千尋の神隠し」や「ハウルの動く城」のようなメガヒットに恵まれているうちはよかったものの、50億円以上の製作費を投じた2013年公開の「かぐや姫の物語」は興行収入が30億円に届きませんでした。

 2014年にジブリは制作部門を解体、大規模なリストラを実施しました。これ以降はプロジェクトごとに人を集める方式をとるようになります。

 そしてこのころはアニメ不況とも言える時代でした。
販売用DVDは2005年を境に低迷しはじめ、レンタルも緩やかに縮小。2014年ごろからは販売、レンタルともに市場が縮小していたのです。

需給バランスが崩れたモバイルゲーム市場

 バブルが終焉し、状況が一変した業界にモバイルゲームがあります。

 特に新興系企業への影響が深刻。「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」で一時代を築いたKLabは4期連続の営業赤字。オンラインクレーンゲーム「トレバ」をヒットさせたサイバーステップは5期連続の営業赤字です。「ブレイブフロンティア」シリーズのgumiは、当面オリジナル作品の開発は行わないことを決定しています。

 モバイルゲームも大作主義が進んでいました。オリジナル作品の開発は長期化し、数億円規模の予算が投じられるようになったのです。しかし、国内のモバイルゲーム市場は停滞し、ヒットする確率が落ちてしまいました。供給過多状態に陥ったのです。

 アニメの視聴では「〇話切り」という言葉があります。
シリーズの途中で見るのをやめることです。こうした言葉が氾濫するのも、作品が飽和状態になっていることを示しているかのようにも見えます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
編集部おすすめ