世界最大級のコンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニーが人員削減に踏み切る――。このニュースが今、アメリカのビジネス界で大きな波紋を広げています。

​報道によれば、同社は今後1~2年をかけて、全社の約10%規模の人員削減を検討しているとのこと。これまでレイオフといえば、GAFAMを筆頭とするテクノロジー業界の「成長の副作用」として語られるのが常でした。しかし、今回のマッキンゼーの動きは、それらとは少し意味合いが違うように感じられます。

​なぜなら、コンサル業界はこれまで「不況に強い」と言われてきたからです。企業が苦境に陥ったときこそ、組織改革の助言者として呼ばれるのが彼らの役割でした。その助言者自らが人員整理を余儀なくされた事実は、コンサル業界そのものの前提が、今まさに変わりつつあることを示唆しています。

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​■アメリカ内の「自業自得」という冷ややかな視線

​このニュースに対し、アメリカ現地の反応は驚くほど落ち着いています。というより、少し冷ややかと言ったほうが正しいかもしれません。

​米掲示板サイトのRedditやXを覗くと、

「これまでレイオフを“推奨”してきた側が、ついに自分たちの番になった」
「コストカットを助言するプロが、自分たちを切る状況に陥るなんて」
「この業界は、自分で責任を取らないから信用を失っている」

といった皮肉めいたコメントが多く見られます。アメリカにおいてコンサルタントは、しばしば「実務を担わずに提言だけを行う外部の人」と見られる側面があるため、こうした反応が起きているのでしょう。

​さらに現地で注目されているのは、今回の削減がバックオフィスやテクノロジー部門を対象にしている点です。マッキンゼーは社内にAIツールを導入し、かつて若手コンサルタントが担っていた調査や資料作成を自動化し始めているようです。

これは単なる景気後退の余波ではなく、「AIがコンサルタントの業務を代替し始めた」という、ビジネスモデルの大きな転換点と捉えられています。


​■「エリート」の日本、「実行を重んじる」アメリカ

​私がこの騒動を見て改めて感じたのは、日米での「コンサルの位置付け」にある強烈な温度差です。

​日本に帰国すると、今でも書店の目立つ場所にはコンサル流の思考法を説く本が並んでいます。就職市場でも、外資コンサルは「頭のいいエリート」の代名詞です。

加えて日本では、外資コンサルに対して「スマートで高給取り」というイメージがいまだに強く残っています。論理的で、無駄がなく、若いうちから高い報酬を得られるーーリスクを最小化しながら、合理的に成功できる“わかりやすい成功モデル”として消費されてきた側面もあるでしょう。

一方、私がキャリア・アドバイザーを務めるワシントン大学をはじめ、米国のトップスクールの潮流はまったく異なります。

​米国、特にシアトルのようなテックハブでは、GAFAMを筆頭とするテクノロジー企業が優秀な人材を惹きつけています。優秀な層ほど「自らプロダクトを作り、世界を変える」ことに最高の価値を置く。彼らにとって、コンサルはあくまでアドバイザーであり、「自ら実行(Execution)をしない人たち」と、少し距離を置いて見られることすらあるのです。

​かつてMBA生の王道だったコンサルや投資銀行は、今や唯一の選択肢ではありません。現在のMBA生の多くが熱望するのは、テック企業のプロダクトマネージャー(PM)や、急成長スタートアップでの「実践的な役割」です。

​■コンサルは「最強の修行の場」なのか?

マッキンゼーの人員削減に「自業自得」の声。アメリカで”コンサル人気が冷え込む”意外な理由
マッキンゼーやアクセンチュアなど大手コンサルファームでは人員削減が相次いでいる(画像/adobe stock)
なぜこれほどまでに差が出るのか。そこには日米の「若手の裁量権」の違いがあるのではないでしょうか。

​日本では、伝統的大企業に入っても意思決定に関わるまでには時間がかかります。
そのため、若いうちから経営層と対峙できるコンサルは、「最強の修行の場」として非常に人気があります。

​しかし米国では、若くてもテック企業やスタートアップで巨大なプロジェクトを動かし、直接インパクトを残せる環境があります。ぼくがアメリカで一緒に働く仲間は20代と若いですが世界中で使われるプロダクトを作るのに奔走しています。わざわざ「修行」のためにコンサルを選ぶ必要性が、日本ほど強くないのです。

​特にシアトルは「ビルダー(作る人)」の街です。MicrosoftやAmazonのように、自分たちでインフラを構築し、動かす文化が根付いています。こうした環境では、「コンサルに行くのは、まだやりたいことが決まっていない人だ」という見方をされることさえあります。

​さらに、近年の「入社延期(Delayed start dates)」問題も影響しています。マッキンゼーを含む大手が入社時期を1年近く遅らせる措置を連発したことで、「実力がつくテック企業へ行こう」という「コンサル離れ」が加速しているように思います。

​■生き残るのは「正しい戦略」を「実装」できる人

​では、コンサルという職業はこのまま消えていくのでしょうか。私はそうは思いません。ただし、求められる能力は劇的に変わるはずです。

​今、企業が本当に求めているのは「正しい戦略を語る人」以上に、「その戦略を、実際にシステムとして動かしてくれる人」です。


​その象徴が、データ分析・AIプラットフォームのパランティア(Palantir)です。彼らは報告書を置いて帰るのではなく、クライアントの現場に入り込み、エンジニアと連携してAIを業務に「実装」し、成果が出るまでコミットします。

​AIによって資料作成などの知的作業が効率化された今、価値を持つのは抽象論ではありません。現実のプロセスを書き換え、形にできる力です。

​■日本企業が抱える「自浄作用」という課題

​マッキンゼーのレイオフは、日本企業にとっても示唆に富んでいます。

​日本でいまだにコンサルが「エリートの象徴」とされる背景には、日本企業が自ら変革を主導しきれず、意思決定を外部に頼らざるを得ないという構造的な課題があるのかもしれません。同時に、若者が「作る側」として熱狂できる産業を、十分に育ててこられなかった現実も浮かび上がります。

​マッキンゼーの人員削減は、単なる一企業のリストラではなく、「考えるだけで価値が出る時代」の節目を象徴しています。

「頭がいい」だけの人はもうそこまで価値がないのです。

​これからの時代に問われるのは、企業も個人も、「自ら手を動かし、実体のある価値を社会に生み出せるか」。その一点に尽きるのではないでしょうか。

【福原たまねぎ】
シアトル在住。
外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。X:@fukutamanegi
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