’24年に京都市を訪れた外国人観光客(インバウンド)数は1,088万人と過去最高を記録し、’25年もそれを上回るペースでインバウンドが訪れている。今や京都の経済を支えるのは「外国人」と言っても過言ではない状況だが、観光地ではトイレ使用をめぐるマナー問題も勃発している。
特に人の多いエリアでは、トイレを利用不可としているコンビニが相次いでいるというのだ。日本を代表する観光都市で、何が起こっているのか。現地を取材してみると、観光客の利用がコンビニに偏り、店側が悲鳴を上げている構図が見えてきたーー。

「トイレはご利用いただけません」こぞって利用拒否の意思表示を行うコンビニ

八坂神社、知恩院、清水寺と、京都屈指の観光名所が集中する祇園・東山区エリア。区内を歩いていると、ちょっとした「異変」が目に留まる。

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「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
インバウンドで混雑する清水寺周辺
一つは、海外観光客(インバウンド)の多さだ。日本人より西欧系、アジア系、イスラム系などとすれ違うことが多く、まるで海外にいるかのような錯覚を覚えるほど。

「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
清水五条駅付近にあるコンビニ。店の入口に「トイレは、お貸ししておりません」との掲示が
「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
八坂神社前から続く大和大路通り。コンビニだけでなく交番も「トイレは貸していません」との貼り紙を掲げていた
もう一つの異変が、路上沿いにあるコンビニの掲示だ。「店内にトイレはありません」「トイレはご利用いただけません」ーー多くのコンビニが、「トイレ貸出拒否」の貼り紙を店内外に掲げているのだ。東山区内で10数軒の店舗をまわってみたが、8~9割は貸出不可。中には配送用の箱をトイレ前に重ね、バリケードを作っている店もあるほどだった。

トイレを貸してあげたいのはやまやまだけど

「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
京阪本線清水五条駅付近にあるコンビニでは「ベンチで寝ないで下さい!」「長時間の居座り、飲酒、足、杖の投出しお断り致します!」など、トイレ以外も含むマナー注意書きが何枚も貼り出されていた。なぜ店側はかくも過敏になるのか。レジで名刺を差し出し、取材希望の旨を伝えると、店員は日頃から溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように「トイレを貸してあげたいのはやまやま。
意地悪したい訳じゃないんです」と話し始めた。

「使ったからには買い物ぐらいして行ってほしいのに、インバウンドの場合、用だけ足して帰ってしまう人が半分以上。あとは日本人も含めてトイレを汚される、壊される、吐かれることが何度もあった。本部は修繕費を負担してくれへんから、その度ごと、店側が何十万円も支払っているんです。トイレを貸したら貸したで『汚い』とカスタマーハラスメントまがいのクレームを受けることもあり、結果マイナスにしかならへんと(やめた)」

インバウンドの恩恵を受けて商売が成り立っているのだから、店側はもっと寛大な姿勢であってもいいのではないかーーそんな声も聞こえてきそうだ。しかし、事態はそう単純ではない。

京都はトイレマナー問題の「最先端地域」

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株式会社KICKsの代表取締役・山本健人氏。一橋大学を卒業後、アマゾンでの勤務を経て京大院に入学した
「インバウンドによるトイレマナー問題について、国内でも最も深刻な状況に置かれているのが京都。他の観光地の問題も先取りした、いわば『最先端地域』と言えるでしょう」

こう指摘するのは、京都を拠点に観光事業を手がける株式会社KICKsの代表取締役・山本健人氏(34)だ。

’23年から2年間、京都大学経営管理大学院に在籍。卒業研究として京都市中心部のコンビニチェーンを約半年間歩き回り、トイレの貸出状況を調べた。その結果、トイレの貸出を不許可としていた店舗は、354店舗中74(「夜間のみ閉鎖」など時間帯の区別を設ける場合を含む)。市内でも特に観光客が多い四条河原町では、23店舗中のうち16店舗がトイレを閉じていたという。

なぜ観光地のコンビニほど、トイレの閉鎖率が高いのか。
山本さんによれば一つには、文化の違いを背景とした「トイレトラブル」が関わっているという。

「地域や文化の違いによって、トラブルの内容に差があります。西欧人の場合は便器にまたがって破損させる、中国やインドなどではトイレットペーパーを流さない習慣があるため、紙をゴミ箱に捨てて帰ってしまうといった傾向があり、トラブルが多発しています。多くのコンビニはフランチャイズ方式のため、修理代や清掃代は加盟店側が負担することになる。その結果、『トイレを閉鎖した方が売上が増える』という認識がオーナー間で広がり、どこかの店舗がトイレを閉じれば、近隣の店舗もそれに続くという連鎖が起きやすくなっています」

駅のトイレは有料に。トイレ難民化する一般客

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改札内のトイレ利用には入場料金が必要であることを示す、清水五条駅改札の掲示
地域によっては駅のトイレに観光客が立ち入れず、その分の需要をコンビニが引き受けていることもある。今回取材を行った京阪本線三条駅・清水五条駅はどちらも改札外にトイレがなく、「駅構内の利用には入場料金が必要です」と掲示がなされていた。三条駅付近のコンビニ店員は、こう訴える。

「(三条駅の)改札外にはトイレも椅子もなくて、一般客も困っています。特にトイレに入れない観光客は、うちの店を目がけてやって来る。『トイレはどこ?』と質問されることがあまりに多いため、少し前までは仕事にならない状況が続いていました。店員に断りなくトイレを使ってしまうインバウンドも多く、何度も詰まりが起きて、今は貸出を不可にしています」

この点について、京阪電車の運営元である京阪電気鉄道株式会社に確認を取ったところ、同社広報からは「現時点では、三条駅・清水五条駅への『改札外トイレ』の設置予定はございません。
ただしトイレの設置場所については、駅の構造等を勘案し、決定しています。観光客によるトイレ利用を防ぐ狙いはありません」と回答があった。

「トイレ情報のDX化」で、特定の店舗に偏る負担を軽減する

民間の事業者に集中しがちな負担を、地域や行政の側で引き受けようとする動きもある。同じく東山エリアの古川町商店街で副理事長を務める鈴木淳之さんは、「うちの商店街は、東山の中心地から少し離れており、それほど観光客は多くないので、各店ごとに頼まれたら貸し出す体制を取っている。中心地に比べれば、汚損被害を受けることも少ない」と話す。

京都市では市が維持・管理を行う公衆トイレのほか、観光客が多く付近に無料トイレがないエリアの民間施設について「観光トイレ」と認定。年額22万を上限に、維持管理費用の一部を助成する取り組みを行っている。

「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
清水五条駅付近でトイレ貸出に対応するセブンイレブン東山五条店。店内に「東山トイレマップ」と題するQRコードが貼り出される

「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
「TOIMAP」での地図表示。近隣のトイレが表示され、「洋式トイレ」「男性用」「女性用」など用途別にトイレを絞り込むことも可能だ
近年力を入れているのは、トイレ情報のDX化だ。’24年からは、京都市が管理・維持を行う公衆トイレ69か所・観光トイレについて、いずれも京都市情報館のHP上にて「公衆トイレマップ」として公開を始めた。東山区でもトイレマップの作成を行ってきたが、’25年12月からはKICKsが提供するトイレ情報提供サービス「TOIMAP」を導入。地域のコンビニなどに掲示されたポスターのQRコードを読み込むと、観光客が使える最寄りのトイレが地図上に表示される。「アクセスログを見れば、負担が集中するトイレや利用が多い国が見えてくる。データを元に、行政とも連携して利用が偏る店舗の負担を軽減していきたい」と山本さんは話す。


誤った使い方で便器が汚されるケースも

「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
‘25年9月7日、清水五条駅付近の五条大橋西詰公衆トイレ。インバウンドがオストメイト対応トイレの使い方を誤り、便器を汚してしまった可能性があるという(写真=京都市役所提供)
「結果マイナスにしかならへん」多くが“トイレ貸出拒否”…外国人観光客が殺到する京都でコンビニ店員が語った苦悩
’26年1月15日、錦市場付近の蛸薬師新京極公衆トイレ。近くの飲食店で購入したと思われる食べ物やゴミがそのまま放置されていた
京都市の公衆トイレの維持・管理を担当する環境政策局の樫村貴之係長は言う。

「昔に比べると件数は減ってきたものの、誤った使い方によって便器が汚されることは今もあります。近年では、ゴミや食べたものがそのまま放置されてしまうといったトラブルも増えています。ただ、公衆トイレを閉鎖することは考えていません。コンビニ事業者からは善意でトイレを貸し出しているにも関わらず、利用者から高圧的なクレームを受け、心理的負担を感じるといった話も聞いています。特効薬はないものの、行政として必要なケアは行っていくつもりです」

’26年春、京都では「帝国ホテル京都」、シンガポールを拠点とするラグジュアリーホテル「カペラ京都」など、名だたるホテルが開業を控え、消費額の大きいインバウンドの流入加速が見込まれている。「おもてなし」の美名のもとに特定の事業者が「泣き」を見る構造が生まれていないかを見直すタイミングが訪れている。

山本健人(やまもと・けんと)
株式会社KICKs代表取締役。一橋大学卒。アマゾンジャパンでのDX担当を経て、京都大学MBA在学中の2024年にKICKsを創業。米国公認会計士、行政書士。自身が外出時に、トイレに困った経験から「トイレ不安」の解消を志し、京都市内354カ所のトイレ調査を敢行。
アカデミアとビジネスの視点でトイレDXを推進する

<取材・文・撮影/松岡瑛理>

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
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