「トイレはご利用いただけません」こぞって利用拒否の意思表示を行うコンビニ
八坂神社、知恩院、清水寺と、京都屈指の観光名所が集中する祇園・東山区エリア。区内を歩いていると、ちょっとした「異変」が目に留まる。
トイレを貸してあげたいのはやまやまだけど
「使ったからには買い物ぐらいして行ってほしいのに、インバウンドの場合、用だけ足して帰ってしまう人が半分以上。あとは日本人も含めてトイレを汚される、壊される、吐かれることが何度もあった。本部は修繕費を負担してくれへんから、その度ごと、店側が何十万円も支払っているんです。トイレを貸したら貸したで『汚い』とカスタマーハラスメントまがいのクレームを受けることもあり、結果マイナスにしかならへんと(やめた)」
インバウンドの恩恵を受けて商売が成り立っているのだから、店側はもっと寛大な姿勢であってもいいのではないかーーそんな声も聞こえてきそうだ。しかし、事態はそう単純ではない。
京都はトイレマナー問題の「最先端地域」
こう指摘するのは、京都を拠点に観光事業を手がける株式会社KICKsの代表取締役・山本健人氏(34)だ。
’23年から2年間、京都大学経営管理大学院に在籍。卒業研究として京都市中心部のコンビニチェーンを約半年間歩き回り、トイレの貸出状況を調べた。その結果、トイレの貸出を不許可としていた店舗は、354店舗中74(「夜間のみ閉鎖」など時間帯の区別を設ける場合を含む)。市内でも特に観光客が多い四条河原町では、23店舗中のうち16店舗がトイレを閉じていたという。
なぜ観光地のコンビニほど、トイレの閉鎖率が高いのか。
「地域や文化の違いによって、トラブルの内容に差があります。西欧人の場合は便器にまたがって破損させる、中国やインドなどではトイレットペーパーを流さない習慣があるため、紙をゴミ箱に捨てて帰ってしまうといった傾向があり、トラブルが多発しています。多くのコンビニはフランチャイズ方式のため、修理代や清掃代は加盟店側が負担することになる。その結果、『トイレを閉鎖した方が売上が増える』という認識がオーナー間で広がり、どこかの店舗がトイレを閉じれば、近隣の店舗もそれに続くという連鎖が起きやすくなっています」
駅のトイレは有料に。トイレ難民化する一般客
「(三条駅の)改札外にはトイレも椅子もなくて、一般客も困っています。特にトイレに入れない観光客は、うちの店を目がけてやって来る。『トイレはどこ?』と質問されることがあまりに多いため、少し前までは仕事にならない状況が続いていました。店員に断りなくトイレを使ってしまうインバウンドも多く、何度も詰まりが起きて、今は貸出を不可にしています」
この点について、京阪電車の運営元である京阪電気鉄道株式会社に確認を取ったところ、同社広報からは「現時点では、三条駅・清水五条駅への『改札外トイレ』の設置予定はございません。
「トイレ情報のDX化」で、特定の店舗に偏る負担を軽減する
民間の事業者に集中しがちな負担を、地域や行政の側で引き受けようとする動きもある。同じく東山エリアの古川町商店街で副理事長を務める鈴木淳之さんは、「うちの商店街は、東山の中心地から少し離れており、それほど観光客は多くないので、各店ごとに頼まれたら貸し出す体制を取っている。中心地に比べれば、汚損被害を受けることも少ない」と話す。京都市では市が維持・管理を行う公衆トイレのほか、観光客が多く付近に無料トイレがないエリアの民間施設について「観光トイレ」と認定。年額22万を上限に、維持管理費用の一部を助成する取り組みを行っている。
誤った使い方で便器が汚されるケースも
「昔に比べると件数は減ってきたものの、誤った使い方によって便器が汚されることは今もあります。近年では、ゴミや食べたものがそのまま放置されてしまうといったトラブルも増えています。ただ、公衆トイレを閉鎖することは考えていません。コンビニ事業者からは善意でトイレを貸し出しているにも関わらず、利用者から高圧的なクレームを受け、心理的負担を感じるといった話も聞いています。特効薬はないものの、行政として必要なケアは行っていくつもりです」
’26年春、京都では「帝国ホテル京都」、シンガポールを拠点とするラグジュアリーホテル「カペラ京都」など、名だたるホテルが開業を控え、消費額の大きいインバウンドの流入加速が見込まれている。「おもてなし」の美名のもとに特定の事業者が「泣き」を見る構造が生まれていないかを見直すタイミングが訪れている。
山本健人(やまもと・けんと)
株式会社KICKs代表取締役。一橋大学卒。アマゾンジャパンでのDX担当を経て、京都大学MBA在学中の2024年にKICKsを創業。米国公認会計士、行政書士。自身が外出時に、トイレに困った経験から「トイレ不安」の解消を志し、京都市内354カ所のトイレ調査を敢行。
<取材・文・撮影/松岡瑛理>
【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
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