あまり見かけない検査項目も、状況によっては有用
人間ドックのオプションとしては、大腸がん対策として大腸内視鏡(大腸カメラ)が最も推奨されるほか、体内をくまなく検査する腹部超音波(エコー)や胸部CTも一般に比較的よく知られている。それとは逆に、通常あまり見かけないような「レア物」受診オプションもあるのだろうか。
「レア物≒『どこでもやっていない』ということは、裏を返せば『医学的根拠が乏しい』場合もあるので注意しましょう。ここでは医学的に有用性が高いものの、設備や手間の問題で導入施設が限られている『隠れた名検査』をご紹介します」
ここで石岡院長が例示したオプションは以下のようなものだ。
(1)DWIBS(ドゥイブス)検査(全身がん検査)
MRIを使って全身のがんを探す検査。「PET検査」と似ているが、被曝がなく、注射(造影剤)も原則不要なのが最大の特徴。また、PET検査が苦手とする泌尿器系や前立腺がんの発見に優れている。
(2)大腸CT検査
「大腸カメラはどうしても怖い」という方向け。CT撮影データを3D処理し、仮想的に大腸内を観察する。(※ポリープ切除はできない)
(3)MRA(脳血管撮影)
脳の「血管」だけを立体的に映し出す。くも膜下出血の原因となる「未破裂脳動脈瘤」を見つけるには必須。
(4)骨密度検査(DEXA法)
微量なX線を使って、「腰椎(腰の骨)」と「大腿骨近位部(足の付け根の骨)」の密度を直接測定する世界標準(ゴールドスタンダード)の検査。
(5)ABI検査(足関節上腕血圧比)
手と足の血圧を同時に測るだけで、「血管の詰まり具合」や「血管年齢」が分かる。
(6)アルコール遺伝子検査
お酒を分解する酵素のタイプを調べる。自分の体質や肝臓がん・食道がんのリスクを知り、上手にお酒と付き合うためのヒントを得られる。
人間ドック受診を検討中の医療機関で、こうしたオプションが設定されていたら要注目である。身体の不調や悩みなどと勘案し、より精密な診断結果が欲しいなら選択しても良いだろう。
バリウム検査よりも胃カメラの方が推奨
ところで、人間ドックはコースやオプションにバリウム検査(胃部X線検査)が含まれていることも少なくない。会社の健康診断などに取り入れられていることも多いが、このバリウム検査が「ツライ」「苦手」という読者も多いのではないだろうか。一度受けたことがある人は思い返してほしい。バリウムと一緒に発泡剤を飲まされ、ゲップをこらえたまま四方へ傾斜する台に必死でしがみ付き、バリウムとガスで張り詰めて苦しい腹部を機械でこね回され……。「私たち消化器内科医で、自分の検診にバリウムを選ぶ人間は、まず皆無です。巷では『負担が大きいし、受けても無意味』という意見もあるようですが、これは医学的見地から見ても、かなり的を射ていますね」
医学界で多くの経験・知見を重ねてきた石岡院長がここまで語るのには、理由がある。バリウムは他検査と比べて、決定的に検査精度の差があるのだ。海外の事例だが、韓国で25万人を対象に行われた調査によると、5年間に1度でも胃カメラ検査を受けた人は、胃がん死亡率が47%減少。
「早期胃がんは、わずかな色変(赤み)として現れます。影絵しか見ないバリウムでは見逃されやすく、発見できても『影が映るほど病状が進行してから』になりがちです。日本は非常に検査技術の高い技師が多いので、多少は成績が上がるでしょうが、それでも『カメラで47%減に対して、バリウムはわずか2%減』という圧倒的な差は無視できません。」
また、石岡院長は「現代人の体内検査は胃袋だけ見ても不十分」と指摘する。現代はピロリ菌感染者が減少し、昔ながらの胃がんリスクは減少傾向の一方、食の欧米化や逆流性食道炎の増加で食道がん・十二指腸がんのリスクが上がっているのだ。
「バリウム検査はあくまで胃だけ見る検査です。胃カメラのように、口から胃の経路にある喉と食道、胃のすぐ先にある十二指腸までくまなく観察することはできません。胃しか見ないバリウム検査は、多角的なリスクケアが必要な現代のニーズに合わないのです」
このため、バリウムと胃カメラを同時に受けるメリットも無い。厚生労働省の指針ではバリウムが「毎年受診」、胃カメラなら「2年に1回」が推奨されているが、食道がんリスクの高まる40代ならば、守備範囲の広い胃カメラの方が適切である。
バリウム検査が他検査に悪影響を与えることも
加えて、検査後の体内残留バリウムは、レントゲンなどで骨のように白くクッキリ写り込む。このため、バリウム検査の直後や同日に腹部CTを行うと、正確な診断ができなくなってしまうのだ。「しかも大腸カメラの直前だと、腸内に残った白いバリウムが視界を遮り、検査自体が不可能になってしまうことも。仮にこれらの検査を組み合わせる必要がある場合は、バリウムから1週間程度空けて、便と共に完全排泄されてから別日に受けるよう、スケジュール作りにご注意ください」
上記のような欠点の多いバリウム検査は、なぜなくならないのか。
「現在のような高精度の胃カメラが普及する以前から続く『風習』として残っている側面もありますね。仮に会社側が用意した無料コースがバリウムしかないのであれば、受けないよりはマシです。しかし、もし数千円の追加料金で胃カメラに変更できるなら、迷わず変更してください」
ちなみに、バリウム検査そのものの身体的負担を何とか減らすコツは無いのだろうか。
「指示に全力で従うことが一番です。体に力が入ると胃が収縮してしまい、余計に時間がかかったり、再撮影になったりします。割り切って、技師の指示通りにスピーディーに動くのが、結果的には最良ですね。どうしても辛い方は、鎮静剤を使用した内視鏡検査(胃カメラ)なら嘔吐反射(オエッとなる感覚)が劇的に少ないので、その実施施設を選んでください」
人間ドックを安く受診したい時は「必要なものだけ」がベスト
ここまでは人間ドックのオプションをある程度自由に選べる場合のコツを石岡院長に質問してきた。だが、オプション選びに先立つものは受診コスト=お金である。勤務先の企業や団体で受診補助制度があれば良いが、そうした制度のない企業や個人事業主について、費用負担を下げるコツはあるのか。「会社の補助がない場合、賢くコストを下げるには、以下の4ステップを確認してください!」
(1)国民健康保険の「補助金」を申請する(個人事業主向け)
個人事業主などで国民健康保険(国保)に加入している場合、一部自治体は人間ドックの補助金や助成金を用意している。
(2)協会けんぽ等の補助を確認する(中小企業の従業員向け)
会社が加入している公的健康保険(協会けんぽ等)から補助されるケースがある。ホームページ等で確認するか、勤務先の担当者に「保険組合からの補助はないか」などと聞いてみるとよい。
(3)施設の「割引制度」や「時期」を狙う
一部の施設では、混み合う土日よりも平日を安く設定しているほか、受診者が減る閑散期に割引キャンペーンをしている場合もある。親子や夫婦、パートナーと2人で申し込むと「ペア割引」が適用される施設も多い。
(4)「アラカルト(お好み)」で賢く受ける
必要(不必要)な検査方法を賢く自己判断して、必要最低限のコストに抑える方法。工夫すれば最もコスパが良くなる。
なかでも石岡院長は(4)を強く推奨しており、院長自身も毎年フルコースを受けるのではなく、このスタイルで健康管理をしているという。会社員であれば年一回の法定健診で血液検査や胸部レントゲン、場合によっては腹部エコーやバリウムまで無料というケースは少なくない。この診断結果をベースに、法定検診と重複しない検査だけ単独(アラカルト)で受けるのだ。
「私の場合は、毎年必ずチェックする項目と、『大腸カメラは3年ごと』『脳ドックは5年ごと』というように間隔を空けるものを明確に分けています。『親族に脳卒中が多いから脳ドックは頻繁に』『膵臓癌は早期発見が難しいから小まめに検査』など、リスクが高い分野は頻度を上げ、低いものは間隔を空けましょう」
しっかりと知識をつけて「自分に必要な検査だけを選び取る」こと。
世界有数の「NingenDock」がAI技術でさらに進化
「当院にも海外赴任の方が一時帰国中に受診されたり、海外籍の方が人間ドックのため来日ということが多々あります。欧米では、健康な人がCTや内視鏡などを受けるには、主治医の厳しい審査か、日本円で数十万円もの出費が必要。対して日本では、誰もが数万円程度で、自分の意志で高度な検査を受けられます。これほど予防医療へのハードルが低い国は他にありませんよ」
特に重要な胃カメラ・大腸カメラについて、日本人医師の技術と診断能力は世界トップ。欧米では見逃されてしまうような微細な病変も、日本の内視鏡医は見つけ出すことができるという。日本の人間ドックは些かサービス過剰な面はあれど、自分の命は自分で守りたいという時に、世界で最も恵まれた環境なのだ。
一方、石岡院長は今後の懸念として「健康格差」拡大を指摘する。医療用コストと情報リテラシーが健康を左右し、人生への投資として主体的に人間ドックを受ける層は健康寿命を延ばし続け、逆に、最低限の自治体検診だけに頼る層は病気リスクに晒され続けるという二極化が進むのだ。また、日本国内に定住する外国人増に伴い、言葉の壁や医療制度の違いが障壁となることも考えられる。
「何も考えずとも、国や会社が健康を守ってくれる……という時代は終わりつつあります。今後は自分の病気リスクを自分で把握し、必要な検査を自分で選ぶという、いわば『医療のパーソナライズ化(個人への最適化)』が寿命と直結する時代になるでしょう」
このパーソナライズ化の鍵が、国内外で社会構造と文化を急速にアップデートしつつあるAI技術だ。
「今後の人間ドックは全員一律のパッケージ型に代わり、AIや遺伝子解析などの技術を駆使したオーダーメイド型が普及するでしょう。私が以前在籍していた『がん研有明病院』のような専門施設でも、膨大な症例データをベースに『がん発症予測AI』の開発が進行中です。この技術が普及すれば、遺伝子データ・生活習慣・過去の検診結果をAIが解析し、『あなたは大腸がんリスクの数値が高いので、毎年カメラを』『このがんは低リスク、検査は5年に1度でOK』などと提案できるようになりますよ」
これまで人間ドックは「今の状態」を確認するだけだったが、AIがシミュレーションするのは「数年後の未来」。科学的根拠に基づいて検査内容を最適化し、「あなたに一番の人間ドックコース」を提示して高精度に病気予防するコンシェルジュAIの登場が期待されるという。
重要なのはヘルスリテラシーとコミュニケーション
「何のために受けるのかも考えず、会社や病院から提示されたパッケージをただ受ける思考停止的な受診は終わりにしましょう。一番大切なことは、人間ドックを『受けて安心するだけのイベント』にしてはいけないということです」これからのシビアな時代、健康管理における最大の武器は二つあると、石岡院長は最後に語った。一つ目はお金でも最新医療でもなく、個々人の「ヘルスリテラシー(健康を選ぶ力)』。自分がどんな人生を送りたいかの目標やキャリアプランから逆算し、必要な検査項目を自分で考える力が欠かせないのだ。
そして二つ目は、人間ドックの検査前や結果通知後に、その内容を家族やパートナーと話し合うことである。
「10年後、20年後にどう在りたいか。もし病気が見つかったらどうするか。健康のために何を変えるか。そのような、普段はあまり話さない『家族としての未来像や価値観』をすり合わせるうえで、人間ドックは絶好のチャンスです。人間ドックが人々の健康だけでなく、家族との絆や人生設計を強固にする『きっかけ』になることを、心から願っています」
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そろそろ「2025年度分の人間ドック申込期限」が迫っている。忙しさにかまけて、つい流れ作業で受ける病院を決めてしまうかもしれない。しかし人間ドックの検査結果は、時に今後の人生を大きく左右する。転ばぬ先の杖と肝に銘じて、後悔がないようじっくり考えたいものだ。
<取材・文/デヤブロウ 画像提供/日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2~3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草~上野近辺、池袋周辺、中野~高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw
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