「この値段、本当に大丈夫なのか?」
物価高が続くなか、あまりに安すぎる飲食店や小売店が、いま各地で静かに増えている。刺し身が驚くほど安い居酒屋、原価が合うとは思えない海鮮メニュー──その裏で起きているのは、単なる企業努力ではない。
極限まで削られた仕入れコストの先に、違法行為やグレーゾーンが顔をのぞかせるケースも出始めているのだ。

昨年11月、東京・勝どきの人気居酒屋で起きた「魚のアラ窃盗事件」は、その象徴だった。“安さ”を追い求めた末に何が起きているのか──激安の裏側に潜む危うい実態を追った。

行きすぎたコスト削減の末に…

盗んだアラがカマ焼きに、釣った魚は高級料理に…記者が見た“格...の画像はこちら >>
安値の実現のためには極限まで仕入れコストを圧縮することが最重要課題。しかし行きすぎたコスト削減の末、結果的に逮捕者を出す事件が昨年11月に起こった。

東京・勝どきの居酒屋「楽笑」は、刺し身など海鮮が安くておいしいと評判の店。だが、同店の中国籍女性が豊洲市場から「魚のアラ」を盗んだ容疑で逮捕されたのだ。アラは「カマ焼きにして客に提供していた」という。まさに禁じ手のコストカットだが、豊洲市場は関係者以外立ち入り禁止。仲卸フロアへの入り口には警備員が常駐する。果たして、そんな“仕入れ”が可能なのか。水産物の流通に詳しい日刊食料新聞の木村岳氏は、こう明かす。

「魚を買いにきたふうを装えば入れちゃいます。
実際、仲卸のなかには顔なじみの一般客がいるような店もある。市場内に入ってしまえば、アラが捨てられる廃棄物集積場は施錠されていないので、持ち去ることは可能でしょう」

「今はちゃんと買って仕入れている」

記者は「楽笑」の味と価格を確かめるため、勝どきを訪れた。平日の19時半頃だったが8割方席は埋まっており、入店後も客が途絶えず、事件の後も人気は衰えていない。

メニューを見ると、シマアジ刺しが800円、大盛りネギトロが650円、生カキは1個300円と、確かに海鮮が安い。ボリュームも多く、刺し盛りを頼むと通常の居酒屋の3~4人前はあろうかと思われる立派な舟盛りが、2300円と激安だ。鮮度に不安を感じながら口にすると、歯応えもよく旨い! そして盗んだアラを材料にしていたというカマ焼き(鮭)も300円と安いが、普通においしかった。

店員に話を聞くと、「カマも、今はちゃんと買って仕入れている。やっぱり定番だからメニューから外してはいません。もともとウチには団体客がついていたけど、あの一件以来、他の店に流れてしまった。団体客は、なかの一人が反対すれば、みんな店に来ない。結果的に売り上げは落ちてしまってます」

被害額はわずか210円(時価)

盗んだアラがカマ焼きに、釣った魚は高級料理に…記者が見た“格安飲食店”の異常な仕入れ
“摩天楼”が立ち並ぶ勝どき駅から徒歩5分ほど、昭和にタイムスリップしたかのような佇まいで出迎えてくれた
警察によれば、盗んだアラは約30㎏。だが、被害額はわずか210円(時価)。1kg当たり7円の計算だ。

「移転前の築地市場内には、売れ残りの魚をまとめて買い取ってすり身にする工場がありました。
昔は、魚のアラや売れ残りなど、店先に並ばない魚の流通ルートが存在したのです」(木村氏)

さらに、昔の築地市場では、魚のアラはゴミとして店先の樽などに集められ、近隣の住民や飲食店が持ち帰っても、咎められなかったという。

釣った魚を料理店に卸す在留中国人も!?

市場を通すことは、すなわち“コスト”が発生する。なかにはそれすらも回避しようとする者たちもいる。中国のSNS・小紅書(RED)には、「西川口で釣った魚、買う人いる?」「1kg500円」などと、釣果を自慢する写真とともに購入を持ちかける書き込みが多数存在する。ある投稿に対して、即座に中華料理店のアカウントが購入意思を示した。

この魚を客に提供しているのか。真偽を確認するため、記者は東京・豊島区の中華料理店に向かった。平日20時頃、20人ほどの先客がいるが、日本人は記者の他におそらく1組。残りは中国人だろう。メニューを見ると一皿400円の料理もあり格安だが、SNSを介して一般の釣り人から仕入れたと思しき料理は載っていない……。

盗んだアラがカマ焼きに、釣った魚は高級料理に…記者が見た“格安飲食店”の異常な仕入れ
中国のSNS「小紅書」のタイムラインには釣果を報告する投稿とともに、購入を持ちかける書き込みが多数見られる


中国人向けの“裏メニュー”

盗んだアラがカマ焼きに、釣った魚は高級料理に…記者が見た“格安飲食店”の異常な仕入れ
「同胞が釣った新鮮な魚が食べたい」という要望に、店主は日本語の上手な娘と2人で丁寧にメニューを説明してくれた
「この店に来れば、埼玉や東京で同胞が釣った新鮮な魚が食べられると聞いたんだけど」

中華料理店には不似合いなヴィトンのモノグラム柄のエプロン姿のママに尋ねると、「アルヨ!」と元気な返事が返ってきた。そして一旦奥に下がった彼女から渡されたのは、記者の手元にあるものとは別のメニュー。ザリガニ、すっぽん……日本人にはなじみのない料理が並ぶ。店内を見渡すと、中国人客のテーブルにはこのメニューが配されている。
まさに“裏メニュー”だ。どうやら、「烤鱼(焼き魚)」が在留中国人から買った食材を使った料理らしい。

供されたのは、チヌ(クロダイ)を焼き、香草と煮込んだ一品。麻辣湯のようなスパイシーな香りと山椒の痺れる辛さが癖になる。おいしい! 値段は3980円だが、前出の木村氏によれば、このサイズのチヌの一般流通価格は2000~3000円ほど。飲食店での相場を考えれば、かなり割安だろう。高単価の商品の仕入れ値を下げることで、店の利益が最大化される構図だ。しかし、こうした“仕入れ”は違法ではないのか。

仕入れの違法性は?

「趣味で魚や貝を取る遊漁者でも、切り身や刺し身にして売る場合は、食品衛生法に基づき保健所の営業許可がなければ違法です。でも、釣った魚をそのまま売るなら許可は不要。実際、地方の沿岸部にある飲食店の店先で『釣った魚買います』という貼り紙を見たこともあります。ただこうした販売を継続的に行っていると判断されれば、“商売”となり違法の疑いが濃厚。
密漁ということになります。ただ、日本では遊漁への規制が緩く、あいまいなのが実情です」

こうした背景があるからか、仕入れ値ゼロで海産物を入手する密漁は後を絶たない。誰もが驚く安値実現の裏には、ときにグレーゾーンギリギリの攻防も存在するのだ。

盗んだアラがカマ焼きに、釣った魚は高級料理に…記者が見た“格安飲食店”の異常な仕入れ
サラリーマンのビジネスバッグほどの大きさはありそうな耐熱容器に入れられた立派な“チヌ”。ボリュームも迫力も満点だ
【日刊食料新聞社代表取締役 木村岳氏】
生鮮食品流通の専門全国紙で、築地市場時代から卸売市場を精力的に取材、執筆。市場関係者から知己も多く、情報の精度に定評
盗んだアラがカマ焼きに、釣った魚は高級料理に…記者が見た“格安飲食店”の異常な仕入れ
日刊食料新聞社代表取締役の木村岳氏
※週刊SPA!2月10日号より

取材・文/週刊SPA!編集部

―[物価高なのに[異様に安い店]を直撃![激安]の裏側]―
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