時代遅れも甚だしい研修だった
「体育会系のITベンチャーでした。入社前から絆を深める名目で何度も飲み会が開催されていましたが、入社後に待っていたのは時代に逆行する軍隊式の研修合宿でした」合宿初日にスマホを没収され、朝から企業理念を絶叫。午後は連日、チーム制のマラソンで走行距離を伸ばしていく過酷な内容だった。外部の鬼教官が目を光らせ、少しのミスも許されない。優しかった人事スタッフまでが豹変し、厳しい態度で新人を追い詰めていた。
理不尽な鬼教官に一括
合宿3日目、ついに限界が訪れる。マラソン中に20代の女性社員が路上に崩れ落ちた。肩で息をする彼女に、教官は「貴様1人の甘えで全員1キロ追加だ! やる気がないなら消えろ!」と罵声を浴びせた。その静寂を破ったのは、別の班の男性社員・村田(仮名)だった。彼は教官に詰め寄り、「社員の体調も考えないで何が研修だ!」と胸ぐらを掴まんばかりの勢いで一喝。さらに驚くべき行動に出た。いきなり教官を突き飛ばし、へたり込む彼女を衆人環視の中で抱き寄せたのだ。
そのまま2人で退職してしまった
村田は彼女に「大丈夫だよ。こんな奴らの言葉に従わなくていい。僕が君を守るから」と囁いたという。「あまりの展開に周囲はポカンとしていました。教官が『規律を乱すな!』と怒鳴りましたが、村田は完全に無視。陶酔しきった様子で抱きしめ合っていました。そして村田は『俺たちは刑務所に入れられたわけじゃない!』と叫び、呆然とする教官たちを尻目に、彼女の手を取って宿泊施設へ戻っていきました」
2人はそのまま人事に退職を告げて去っていった。実は入社前の懇親会ですでに交際しており、社風が合わなければ早期に辞める相談をしていたという。村田にとって、ここは彼女に良いところを見せるための最高の舞台だったのだ。
さらなる造反を恐れたのか、その後の研修は一変した。「気温の上昇」を理由にマラソンは中止され、予定になかった親睦会が開催されることに。厳しかった人事も手のひらを返し、新人を労う姿は明らかに狼狽していた。
「間近で見た身としては、なんとも言えない体験でした。結局、軍隊式の研修は、僕たちの代を最後に廃止されました」
かつての過激な研修は、思わぬ「愛の暴走」によって幕を閉じたのである。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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