単身世帯の増加に伴い、“孤独死”の件数も年々増加傾向にある。こうした背景から、近年注目を集めているのが「特殊清掃」という仕事だ。

 では、この特殊清掃という業種は、新規参入しやすいビジネスなのだろうか。

 都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに、詳しい話を聞いた。

参入ルートは主に3パターン

孤独死で需要増の“特殊清掃ビジネス”…参入は簡単でも「9割が...の画像はこちら >>
 鈴木さんによると、特殊清掃への参入方法は大きく分けて3つほどあるという。

「ハウスクリーニング業者が業務の延長で手がけるケース、産業廃棄物業者が事業として領域を広げるケース、そして町の便利屋がサービスの一環として対応するケースが一般的です。私たちのように、最初から特殊清掃を軸に参入するのは比較的珍しいと思います」

 では、いまからでも新規参入しやすい業種なのだろうか。

「参入自体はしやすい業種だと思います。というのも、資格がなければ始められないといった制限がないからです。ただし、そこからどれだけ専門性を高められるか、きちんとした品質で仕事を納品できるかはまったく別の話になります」

 さらに鈴木氏は、業務の専門性についてこう続ける。

「弊社の場合は“衛生環境の復旧”を担う仕事です。建築や住宅に関する知識はもちろん、空気や臭気に対する科学的な知見も必要になります」

“始めやすいが続かない”業者も多い現実

 特殊清掃は参入のハードルが低い一方で、継続してビジネスとして成立させるには高い専門性が求められる。

「『誰もやらなそうな仕事だから儲かるのでは?』と考えて参入し、途中で挫折する企業も少なくありません。実際に『オゾン脱臭機などの機材を購入したが撤退するので買い取ってほしい』と連絡をいただいたこともあります。ただ、弊社はアフターケアの観点からも正規の販売代理店ルートでの購入を徹底しているため、お断りしました」

 鈴木さんが働いているブルークリーン株式会社は、現在、創業8年目。しかし、軌道に乗るまでの道のりは決して平坦ではなかった。


「最初の1~2年は完全に手探りでした。専門性を高めるため、アメリカでABRA(American Bio-Recovery Association)というライセンスを取得しに行ったんです。特殊清掃は“死体処理”のようなイメージを持たれがちですが、海外の知見に触れることで、自分たちの認識も大きく変わりました」

 資格取得を通じて、特殊清掃の専門性の高さを改めて実感したという。

「知識がないと、“オゾン脱臭機を使えば臭いは取れます”といった単純な提案になりがちです。しかし実際には、状況に応じて細かく薬剤を使い分ける必要があります。業者側に知識がなければ、お客様が適切なサービスを受けられません」

 さらに、こう振り返る。

「当時はそれが最善だと思っていましたが、現場経験を積むほどに、特殊清掃の奥深さを痛感しました。“本当の安心”を届ける責任の重さを知っているからこそ、日々の研鑽と知識の更新を何よりも大切にしています」

成立するのは“都市部中心”という現実

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特殊清掃
 また、特殊清掃はどの地域でも成立するビジネスではない。

「人口が集中し、単身世帯が多いエリアでなければ安定して仕事を取るのは難しいです。東京、名古屋、大阪、福岡といった都市部であれば一定の需要はありますが、地方では厳しいケースが多いでしょう」

 その理由についても説明する。

「地方では家族で暮らしているケースが多く、孤独死自体が少ない傾向にあります。また、仮に発生しても家族で対応することも多い。そのため、業者に依頼する場合でも、町の便利屋が一部サービスとして請け負う形が主流になると思います」

都心と地方で異なる“特殊清掃の常識”

 実は、特殊清掃に対する考え方は地域によって大きく異なるという。

「都内の場合、孤独死が起きた現場を清掃し、その後は再び賃貸物件として貸し出すケースが多いです。
一方で地方では、孤独死があった家はそのまま解体してしまうことも少なくありません」

 その背景には、“誤解”もあると鈴木さんは指摘する。

「“臭いが取れないから解体するしかない”という認識が広まっている地域もあります。しかし、適切に清掃と復旧を行えば、再び住める状態に戻すことは可能です。こうした正しい知識は、もっと広まるべきだと考えています」

 鈴木さんは実際に、不動産業者や介護事業者向けにセミナーを実施し、特殊清掃の理解を促す取り組みも行ってきたという。

適切に対応できる業者が増えなければならない

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特殊清掃の現場
 今後、特殊清掃に参入する業者が増えた場合、仕事の取り合いになることはあるのだろうか。

「特殊清掃は発生後、できるだけ早く対応することが重要です。その意味では、業者が増えること自体は良いことだと思います。ただし、現場の健康リスクを正しく理解し、適切に対応できる業者が増えなければ、本質的な問題解決にはつながりません」

 ブルークリーンでも一時期フランチャイズ展開を行っていたが、現在は新規募集を停止している。

「私たちの掲げる『世界基準の衛生復旧』という高度な品質を、すべての現場で均一に提供することを最優先に考えました。規模の拡大を追うよりも、一軒一軒の現場に対して私たちが納得できる最高水準のクオリティを維持することを選んだ結果です」

“業界標準”がないという課題

 さらに、日本ではまだ特殊清掃の明確な基準が整備されていないという課題もある。

「現在、研究機関と共同で特殊清掃のスタンダード作りを進めています。業界全体の基準ができれば、技術レベルの底上げにもつながるはずです」

 特殊清掃ビジネスは、“誰でも始められる”一方で、“誰でも続けられる仕事ではない”という現実も浮かび上がった。孤独死が増える時代だからこそ、特殊清掃という仕事の重要性は今後さらに高まっていくだろう。


<取材・文/山崎尚哉>

【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦
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