ドジャースの佐々木朗希が、日本時間31日のマリナーズ戦に先発する。前回のメッツ戦では、100マイルに達した速球はわずか1球だったが、7回を3安打1失点、9奪三振に抑えた。

 デーブ・ロバーツ監督は、メジャー自己最速の101.8マイル(約163.8キロ)を計測したヤンキース戦より「さらに良かった」と評価した。なぜ、前回ほど球速が出なかった登板の方が高く評価されたのか。

球速以上に評価された「先発投手」としての完成度

 その評価は、単なる球速差だけでは説明できない。メッツ戦では、ヤンキース戦とは違う形で、先発投手としての価値を示していた。

 現地時間17日のヤンキース戦で、佐々木は100マイル以上の速球を21球投じ、5回3分の2を1失点(自責点0)に抑えた。メジャー自己最速も記録し、規格外の出力を見せた登板だった。

 一方、7日後のメッツ戦で100マイルに届いたのは、わずか1球。それでも今季最多に並ぶ7イニングを投げ、6回には3者連続三振を奪うなど、終盤にかけて内容は上向いた。

 ヤンキース戦は、速球の出力が前面に出た登板だった。一方でメッツ戦は、その速球の脅威を土台にしながら、スプリットとスライダーで打者の狙いを外した登板だったといえるだろう。

100マイルよりも武器になったスプリットと投球術

 100マイルを投げられることと、メジャーで安定して勝てることは同義ではない。長いシーズンでは毎回すべての球が走るわけではなく、その日に使える球でどうアウトを重ねるかが問われる。

 メッツ戦で軸になったのは、代名詞のスプリットだった。速球と似た軌道から鋭く落とし、スライダーも交えながら、メジャー自己最多となる21個の空振りを奪った。


 メッツのアンディ・グリーン暫定監督は、低めの球を追わないよう対策していたと明かしている。それでも打者は、ストライクゾーンからボールゾーンへ落ちるスプリットを見極められなかった。

 ヤンキース戦が「速いとわかっていても打てない」投球だったとすれば、メッツ戦は「落ちるとわかっていても止まれない」投球だった。力だけで押し切らず、球種の組み合わせで狙いとタイミングを外したのである。

 佐々木を巡っては、7月上旬に投球前の動作から球種を読まれている可能性が指摘され、メッツ戦ではグラブが大きく見える変化も話題になった。ただ、好投の理由をそこだけに求めるのは早計だ。

 重要なのは、速球、スプリット、スライダーを使い分け、前回ほど球速が上がらない中でも打者を抑える形をつくった点にある。投球動作の修正も、配球と制球がかみ合ってこそ初めて結果につながる。

ロバーツ監督が評価した「試合をつくる力」の進化

 2つの登板の違いは、試合後半の内容にも表れていた。ヤンキース戦では圧倒的な出力を見せた一方、降板は6回途中だった。

 対してメッツ戦では、ロバーツ監督が4回から7回をこの日のベストだったと振り返った。「何かを探しながら投げているようには見えない」とも語り、フォームを気にする段階から、打者との勝負に集中できる段階へ進んだと評価している。

 先発投手に問われるのは、最高球速そのものではない。
打線が2巡目、3巡目に入っても、その日の球威と球数に応じて投球を組み立て、試合を壊さないことだ。

 佐々木が規格外の球を持つことは、すでに知られている。メッツ戦で新しかったのは、その球が前回ほど走らなくても、7回まで試合をつくる形を示したことだった。

先発ローテーション争いで示した確かな存在感

 ドジャースの先発事情を踏まえれば、その意味はなおさら小さくない。

 離脱中のブレーク・スネルは現地時間29日、ドジャース傘下1Aオンタリオの試合に先発し、4回60球を投げて1安打、9奪三振を記録した。メジャー復帰の時期はまだ確定していないものの、先発ローテーション復帰へ向けた調整は一段階進んだといえる。

 先発陣が今後そろえば、ローテーションを再編する可能性はある。ただ、佐々木は7月上旬の不振から内容を立て直し、首脳陣に先発として計算できる材料を示し始めている。

 だから、マリナーズ戦は居場所を守るためだけの登板ではない。ヤンキース戦とメッツ戦で得た評価を継続的な信頼へ変えるための登板になる。

 マリナーズ打線は今季、メジャーでも得点力に課題を抱え、三振も少なくない。佐々木がメッツ戦で示した投球を再現できるかを測るには、興味深い相手といえるだろう。

マリナーズ戦で問われる好投の「再現性」

 ヤンキース戦で示したのは、佐々木朗希にしか投げられない出力だった。
メッツ戦で示したのは、その球に頼り切らなくても、先発として7回まで試合をつくれる可能性である。

 次に問われるのは、どちらが本来の姿なのかではない。この2つを1つの投球に落とし込み、別の日にも繰り返せるかだ。

 一時的な好投で終わらせず、ローテーションの一角を安心して任せられる投手になるために、マリナーズ戦は、その再現性を見極める重要な一戦となるだろう。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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