今年4月にテレビ東京で放送された『最強大食い王決定戦2026春』のテーマは、「現役ファイターが過去のレジェンド記録を破る」。事実、過去のレジェンドらが残した記録は次々に更新され、大食い界における技術革新を強烈に印象付けられた。

そんななか、燦然と輝いているのはラーメン60分勝負での35杯という金字塔だ。同大会の2020年優勝者・MAX鈴木が残した杯数で、この記録に関しては今回の『大食い王』でも破られていない。

そのMAX鈴木に、今年の『大食い王』を総括してもらった。それだけでなく、大食い界の過去と未来、テクニック論、大食い能力を伸ばすためのトレーニング方法なども今回は語っていただいている。

まずは、今大会で優勝を果たした“超食い”Ryuに対する評価を聞いてみた。

「牛丼2杯で満腹」だった男が「1時間でラーメン35杯」完食で...の画像はこちら >>

本命“超食いRyu”の圧倒的な成長

――今大会の優勝者であるRyuさんの戦いぶりはどう分析されましたか?

MAX鈴木:初登場から段階を経て順調に強くなっていき結果を残したんだな、というのが正直な印象ですよね。

――『大食い王』でのこれまでの戦績は、2024年準決勝敗退、2025年準決勝敗退、2025年秋が3位。惜しい順位が続いていたRyuさんですが、今大会の優勝は予想できましたか?

MAX鈴木:もうグリグリの本命というか、Ryuさんとカワザイルさんの2人が本命・対抗のどちらかかなという感じでした。「今年の有馬記念はこの2頭が抜けているね」というイメージです。

――大食いファンの間でも「戦績には表れていないものの、胃袋の容量はRyuが一番なのでは?」という声が多かったです。

MAX鈴木:容量のマックス値だけで言うと、僕はRyuさんではないと思うんですよ。今回は決勝で負けちゃいましたけど、過去の優勝歴もあるていねい木下さんが頭一つ抜けていると思うんですね。ただ、総合力でいえばRyuさんを本命視していました。


――Ryuさんのどこが秀でていたのでしょうか?

MAX鈴木:勝てない日々が続いているけれどある程度現場慣れもしてきて、着実に実力の階段を上っているだろうと。本人もそろそろ結果を出したいだろうし、タイミングもすべて良かったんじゃないかと思いますね。

――Ryuさん本人は「今が自分は一番強い。圧倒的なところを見せたい」と口にしていましたが、MAXさんから見てRyuさんの成長を感じた理由は?

MAX鈴木:今、大食いはSNSやYouTubeで個人発信できるので、周囲からも実力がなんとなくわかるんですね。本人の発言だったり、配信でやっている内容を見て「明らかに強いな」というのはわかりやすく見えてきました。

あと「この人、強烈になにかを意識しているんだろうな」というのは雰囲気でわかるんですよ。なんの目的もなく「遊びでやってます」という人とは違い、「明らかに結果を出したいんだろうな」という、その思いは彼が一番強かったです。

自分のラーメン記録を抜いてほしかった

――今回の『大食い王』の決勝はラーメン対決でした。今大会は「現役ファイターが過去のレジェンド記録を破る」というテーマが前面に押し出されており、決勝でRyuさんが弾き出した記録は32杯でした。つまり、MAXさんのかつての記録である35杯には届かなかった。この記録はご自身で盤石だと思いますか? それとも、じきに破られる?

MAX鈴木:破られないといけないんじゃないかなと思います。記録って抜いてこそ価値があるじゃないですか? 僕の気持ちとして「抜かれたくない」というのはまったくなくて、「抜いてほしかったなあ」が正直な気持ちですね。

――いっそのこと。


MAX鈴木:記録はただの記録であって別に固執してるわけでもないし、自慢するつもりも毛頭ないし、ただの結果なんで。ただ、業界が盛り上がってほしいというのはすごくあるので「ああ、抜かれなかったのか。抜いてほしかったな」というのはありました。

現役の第一線で戦っていた頃の自分でも、同じことを思うと思います。なぜなら、もしもRyuさんが俺の記録を超えて「36杯食べました」という結果を見せたら「人間はここまで行ける可能性があるのか」「ほかの人が行けるんだったら、俺だって37杯食べられる」と思うことができる。見方として、僕はそういう感覚です。

白田・小林の時代には未だ追いつかず

――今大会はレジェンド記録が打ち破られる展開が続出しました。しかし決勝のラーメン対決を例に挙げると、過去の大会では「スープ完飲」が必須だったルールが今は「スープを飲まない」に改変されています。つまり、今と昔の記録を単純比較するのはフェアではない。それでもやはり、大食いのレベルは全体的に上がっていますか?

MAX鈴木:まさにおっしゃる通り、今と昔の記録をそのまま比較することはできません。ただ、レベルの底上げは確実にされていると思います。

しかしですよ? 過去に追いつけてはいないですね。僕の師匠であるジャイアント白田さん。
あと、小林尊さん。「ドクター西川」こと射手矢侑大さん。そして、キング山本さん。この4人は、僕のなかで「神4(かみフォー)」なんです。おそらく、日本国内でこの人たちを抜ける人は今後も出てこないですね。

――その4人のレベルには今も追いついていない!

MAX鈴木:僕がラーメンを35杯食べて記録を塗り替える前は、射手矢さんが最高記録を保持していたんです。だからと言って「MAXは射手矢より強いのか?」と問われたとしたら、そんなことは1ミリも思わない。記録だけじゃない部分もあるし、数ある記録のなかラーメンを抜けただけだし、さっきおっしゃったようにルール改変もあったので単純比較はできない。

たしかに、昔と比べると全体的な実力はむっちゃくちゃ上がってます。だけど、2000年代に隆盛を極めた第2世代あたりのレベルには到底達していないですね。

――今のところ、白田さんや小林さんたちが活躍していた時代がピーク。

MAX鈴木:圧倒的にあそこです。
たぶん、抜かれることないと思いますよ。日本の大食いの歴史であれ以上の時代が来ることはないです。胃袋の容量に関してもそうだし、選手が粒揃いなのもそうだし、実力もそうだし、キャラもそうだし……すべてにおいてじゃないですか? スポーツとしてフードファイトに取り組んでいるけれど、華もあったしエンターテイメントの要素も含めてすごかったです。

抜群の存在感を誇った伝説・菅原初代

――お亡くなりになりましたが、女王戦では菅原初代さんが抜群の存在感でした。

MAX鈴木:女性だったら菅原さんは頭二つくらい抜けてますよね。アンジェラ佐藤さんは今も現役でバリバリですけど、彼女に聞いてもきっと同じ答えが返ってくると思います。

――女子のなかで菅原さんは別格というイメージがいまだにあります。

MAX鈴木:神4も僕のなかではそういうイメージです。「だいぶ違うよね」という。

――つまり、大食いの全体的なレベルは上がっているけども、その4人はいまだ突出した存在ということですね。

MAX鈴木:「突出しすぎている存在」と言ったほうが正しいですね。それは変わらないと思います。変わってくれたら、めちゃくちゃ楽しい未来が待っていると思いますけど。


――「突出しすぎている存在」が1人でも出れば、その1人に引っ張られてライバル的な存在が2人、3人……と、後に続く期待感もあります。

MAX鈴木:それはあるんじゃないですか? 白田さんも当時、ライバルの重要性についてすごくおっしゃっていました。「あいつには負けない」「いや、俺はあいつには負けない」というガツガツ感、あのギラギラした感じが今はない気がする。

――2000年代はギラギラしてましたもんね。

MAX鈴木:してましたよねえ。でも、理由はわかるっちゃわかるんですよ。賞金でいえば、当時放送されていた『フードバトルクラブ』(TBS)が1000万円。それって、若い人からすると人生が変わり得る金額じゃないですか? そういうのもあるだろうし、時代の流れも関係していると思います。

でも、Ryuさんは今、新時代の扉に手をかけている状態だと思うんです。それを開いてバーン! となったらまた変わってくるかもしれないですよね。「うわあ!」と感化されて影響を受け、刺激を受けた人たちが後に続いていく可能性はなくはないと思います。でも、それでも2000年代の頃のレベルで盛り上がるのは、宝くじで2000兆円当てるぐらいの確率だと思います(笑)。


大食い王者になるまでの独自の練習法

――以前、『チャンスの時間』(ABEMA)にMAXさんが出演された際、「もともとは牛丼の並盛2杯でお腹いっぱいだった」と告白していたのは驚きました。つまり、トレーニングを積んで大食いできる体になったということ。一体、どうやって鍛えたのでしょうか?

MAX鈴木:大食いのトレーニングってスポーツ科学のように明確にデータ化されたわけでもないし、全員が「なにをやっていいかわからない」というところから始める人体実験なんですね。

ただ、ざっくり言うと流れとして第1段階と第2段階があります。まず、第1段階は胃袋を広げる。簡単に言うと、お米や麺など水分で広がりやすい炭水化物系を入れ、「ああ、もうお腹いっぱいだな」と感じた後にお水やジュースなど水分を入れて胃の中で膨張させます。

それで胃拡張をして「これで大会に優勝できる容量をつくれたな」と思ったら、第二段階として食材への対応力をつけます。ラーメンの早食いを想定したならば、箸を持つ練習をする。手首に重しを着け、箸で濡れタオル持ち上げる練習をしたり。だって、ラーメンって本当に手首がつりますから!

あと、熱さに慣れる練習もあります。僕が『大食い王』で新記録を出した年は、でき上がったラーメンをさらにレンジでチンしてから食べるトレーニングに励んでいました。でも、そんなの熱くて食えないんですよ! だからもう、本番がラクで仕方なかったです。本番が一番ラク!

一定のペースを維持するには?

――「重しを取ったらこんなにラク」って、『ドラゴンボール』みたいですね(笑)。そういったトレーニング法とは別に、試合中に実践する大食いのテクニックも興味深いです。

MAX鈴木:もちろん、あります。たとえばラーメンの場合、ちっちゃい小口で食べてペースは一定を心がけます。というのも、ラーメンは熱いので一気に口に入れて「アツアツアツ!」とあわてて水を飲んじゃうのは、めちゃくちゃロスタイムなんです。いかに機械のように一定のペースで食べ進めるかが大事。

それには理由があり、大食いは「制限時間内にこの食材をどうやって完食しようか」と考えながら食べる競技なんんですね。自分のペースを掴んでいると「今のペースはちょっと遅いな。じゃあ、少し速めよう」とか、臨機応変に対応できるんです。そこで「アツアツアツ!」とかやってると、自分のペースがわからなくなる。

でも、自分のペースを保っていれば「この速さならイケる」「今はオーバーペースだからちょっとペースを下げよう」など、調整ができるんですね。だから、いかにストロークを一定にするか……という意味での小口です。

――なるほど! ほかの食材でもそういうテクニックはありますか?

MAX鈴木:かなりの咀嚼が必要な食材に関しては、奥歯で噛まずに前歯で噛む。俗に、「ハムスター食い」と呼ばれているテクニックです。天ぷらやお肉、ラーメンの具材のチャーシューや分厚い角煮を食べるときに使う技ですね。

奥歯で噛むと顎全体をめちゃくちゃ使うから、めっちゃ疲れるんです。そして、試合開始5分後ぐらいにこめかみがバグり始めます。それって致命的じゃないですか? 顎が機能不全になると噛めなくなるから、ごっくん飲み込むことしかできない。無理やりごっくん飲み込んだら、胃のなかで“下手なテトリス”をせざるを得なくなるんです。大食いは、噛んで細かくした状態で“上手いテトリス”をすると有利なので。

胃の容量を無駄にしない“噛み方”が

――食材をテトリスのように胃のなかに収める! その考え方はフードファイターならではです。

MAX鈴木:“下手なテトリス”をするとトレーニング第1段階でせっかくつくった胃の容量が使えないので、過去の練習も無意味なものになってしまいます。

そこでどうしたらいいかと言うと、前歯なんですね。鉛筆削りみたいに食材を前歯でガーっと細かくすると顎を使わないから、こめかみが疲れないんです。

――そんな練習をしているんですか(笑)。

MAX鈴木:そんなちまちま食べるのはリスぐらいしかいないと思うけど(笑)。手前で食べると顎が疲れないんですよ。

ラーメンを食べるテクニックとして、ほかに「天地返し」というのもあります。スープの底にある麺を具のうえに乗せて、その状態でラーメンを食べ進める技です。

ラーメンの最大の敵は、なんといっても“熱さ”です。これをどうすれば和らげられるか? 熱い状態で食べるペースを上げようとすると口内に水分を入れなければならない。結果、胃の容量が圧迫されます。我々の考えとしては水分をなるべく入れず、食べ物だけで胃の容量を満タンにしたい。となると、水を使えないじゃないですか? 水を使わないためには、なるべく冷ます必要がある。

そこで「天地返し」を繰り出すと、麺の表面が空気に触れて熱が逃げやすくなります。それと同時に、麺を乗っけたチャーシューなどの具材は麺から降りてくるスープでくた~とふやけて食べやすくなるんです。

要は、生野菜を食べるか鍋ものの白菜を食べるかの違いですね。「天地返し」をすると具材が温野菜みたいに柔らかくなる。鍋ものって食べやすいじゃないですか? それが目的です。

<取材・文/寺西ジャジューカ>

【寺西ジャジューカ】
1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレス、ドラマ評。『証言UWF 最後の真実』『証言UWF 完全崩壊の真実』『証言「橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言1・4 橋本vs.小川 20年目の真実 』『証言 長州力 「革命戦士」の虚と実』(すべて宝島社)で執筆。
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