そうした悩みの中でも、少し変わった事例が「電気の盗用」です。近年もコンビニの屋外コンセントを無断で使い炊飯器で調理していた男が逮捕されるなど、たびたび報じられています。電気は刑法上「財物」とみなされ、窃盗罪(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象になります。
今回紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソード。東京都下の郊外で中古戸建てを購入した男性が、裏に住む穏やかな老夫婦から電気を盗まれていた話です。後半では、いまの暮らしだからこそ気になる屋外コンセントの話や、意外と長い“盗電”の歴史にも、そっと触れていきます。
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掘り出し物の戸建てと、穏やかな隣人たち
スーパーなどで捕まった万引き犯が「つい軽い気持ちでやりました」などと言い訳をする場面を報道などで目にすることがありますが、窃盗行為はれっきとした犯罪であるのは言うまでもありません。今回は、隣人から”電力”を窃盗された信じられないエピソードです。一体どのような状況だったのでしょうか。
「新築が理想だったんですけどね。駅にも近いし、築10年ならいいかなと思って」
そう話すのは、東京都下のある郊外に中古戸建てを購入した森本さん(仮名・42歳)です。
裏手には、細い旗竿地に暮らす老夫婦が住んでいました。昔からその地に住んでいるというだけあって、年季の入った趣のある外構に加え、庭には菜園や小さな池まであります。
そんな老夫婦はとてもフレンドリーで、引っ越し間もない頃から野菜をもらったり、近所のお店情報などを教えてもらったりと、良好な関係を築いていたといいます。
「ほんとうに引っ越してきて良かったと思っていました。あのことが発覚するまでは……」
雑草刈りで見つけた“違和感”
発覚のきっかけは、ある休日の草刈りでした。「入居以来、仕事も忙しくて、裏側の通路の雑草が伸び放題になってたんです。やっと時間ができたので、気合を入れて一気にやろうと」
通路の両端は隣家との境界でもあり、うっそうと茂った雑草は膝丈以上に伸びていたといいます。1日では終わらず、翌日も作業を続けた森本さん。ところが、2日目の作業中、ある“違和感”に気づきました。
「外壁のコンセントに、見慣れないケーブルが刺さっていたんです。しかも、そのコードが地面に潜ってるんです。
ケーブルを辿ると、それはフェンスの下をくぐり、裏の家の池の岩場のあたりへ。さらに奥へと続いたその先には、池の浄水機や照明があったといいます。
「どう見ても、うちの電源を引いて使っていました。入居時には気づかなかったけど、たぶん僕が住み始めた時点で、すでに通電されてたと思います」
「それ、窃盗罪ですよ」証拠を突きつけた日
考えた末、森本さんは直接、裏の老夫婦のもとを訪ねることにしました。証拠写真を見せると、老人はすぐに青ざめ、深々と頭を下げたそうです。
「『すみません、もう、年寄りの浅はかな考えでした…』と何度も繰り返していました。でも、これは明らかに“窃盗”なんですよ」
森本さんは「場合によっては警察に相談することも考えている」と、それとなく伝えました。すると、老人は自ら反省の意思を示し、森本さんの提案で誓約書を書くことを受け入れたといいます。
「一応、穏便に済ませたつもりですが、正直ショックでしたね。信頼してたご近所さんだったので」
池の鯉と庭の明かりが消えたその後
「ある日ふと池を見たら、鯉がいなくなってました。
加えて、夜になると見えていた裏の家の明かりも、やけに暗くなったように感じると森本さんは話します。
「なんだか、あの日以来裏のお宅に活気がなくなりました。そりゃそうですよね。煌びやかな明かりや風情のある池の演出は全てウチの電気で再現されてたのですから。夜なんか、まるで人が住んでいないような感じの暗さになりました」
今では、老夫婦との関係もぎこちなくなり、お裾分けもぱったり止まったとのこと。
「近所づきあいって難しいですよね。お互い様の精神がある反面、今回みたいにルールを破られると、やっぱり気持ちが切れちゃう」
森本さんは今後、別のコンセントにも防犯対策を講じる予定だと語っていました。
<取材・文/八木正規>
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■屋外コンセントは、意外と無防備な“電源”かもしれない
森本さんが被害に遭った外壁のコンセント。じつは近年、こうした屋外コンセントを取り巻く環境は、少しずつ変わってきているようです。屋外照明やガーデニング用のポンプ、電動工具、高圧洗浄機、そして電気自動車(EV)の充電まで――屋外で電気を使う場面は、以前より増えてきました。EVの普及台数自体はまだ限定的で、マンション住まいの多い日本ではすぐに当たり前になるとは言いにくいものの、戸建てを中心に「家の外に、常時使える電源がある」という状態は、ゆっくりと一般化してきているように見えます。
便利になればなるほど、屋外の“電源”は生活の一部として身近になっていきます。だからこそ、「誰でも触れる場所にある」という前提を、一度立ち止まって意識してみてもいいのかもしれません。
■直接話す人は、意外と少ないという現実
冒頭で紹介した#9110には、じつにさまざまな声が寄せられているといいます。ストーカーや悪質商法のような深刻なものから、騒音、境界、ゴミ出し、駐車といった、日々の暮らしのなかの悩みごとまで。事件と呼ぶほどではないけれど、黙って耐えるにはしんどい――そんな“あいだ”の困りごとを抱えている人が、それだけ多いということなのかもしれません。今回の森本さんの一件も、まさにそのグレーゾーンにあった話と言えそうです。一方で、ご近所トラブルが起きたとき、当事者同士が「直接話し合う」を選ぶ人は少数派で、多くは我慢したり、管理会社や自治体を挟んだりと、なるべく距離を取る形で処理するのが主流のようです。
森本さんが選んだ「証拠写真を撮る→直接訪ねる→誓約書を書いてもらう」という手順は、警察沙汰にはせず、しかし言うべきことは言うという、なかなか現実的な落としどころだったのかもしれません。おだやかに済ませたつもりでも、関係がぎこちなくなってしまうところに、ご近所トラブルの難しさが表れています。
■じつは“明治時代”から続いている、盗電の歴史
つまり、電灯が家庭に普及しはじめた頃から、“人の電気をこっそり使う”人は、すでにいたということになります。
「お互い様」で成り立ってきたご近所付き合い。信頼関係が続くうちはいいけれど、一度ボタンを掛け違えると、元に戻すのはなかなか難しいもの。あなたの家の外構コンセント、この週末にでも、そっと確認してみてはいかがでしょうか。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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