みなさんは、「成功」するために何が必要だと感じますか?
お金でしょうか、それとも社会的地位、もしくは圧倒的な美貌……。その答えは千差万別でしょうが、例えば「学歴」と答える人がいてもおかしくないですよね。
なぜなら、日本は圧倒的な学歴社会だから。
いい大学を出られれば、一流企業に勤められて、東京都心のタワマン暮らしも視野に入る。
だからこそ、中学受験から必死になって子どもを駆り立てる親御さんが出現するわけです。
ですが、実際に東大に入ってみると、そこまでよいものでもないと気付きます。
「せっかく栄光を手にしたはずなのに、なんだか満たされない」
そこで、東大に入ってからうつになる方が急増しているそう。
今回は東大生200人にアンケートを取り、複数人の「東大うつ」の方へ実際に取材もされた『東大うつ』著者の西岡壱誠氏にお話を伺います。
東大で「うつになる」2タイプ
ーー東大生でうつってどんなタイプの人が多いんですか?西岡:2パターンあります。ひとつは自分より頭のいい人の存在に気づいて勝てないことに絶望してしまった人。
もうひとつは、東京大学というゴールにたどり着いてから次に何をすべきか目標を見失ってしまう人です。
ーー「大学はゴールではない」なんてよく言われることですが……。
西岡:東大に来ることがゴールになっている人は一定の割合で存在します。
「頑張った。東大に来た」から、次に何をするかが重要だとよく言われますが、彼らにはその次の目標がない。
だから、就職活動の段階になると「何がしたいか」がわからず、思い悩みますし、思うような結果も出なくて精神を病んでしまう人がいます。
ーー自分の軸が定まっていないんですね。
西岡:もう一つのタイプはもっと深刻です。
「勝負に負けてうつになる」人なんて、あまりいないでしょうが、彼らは上澄みの世界しか知らないから「上の下から抜け出せない」ことに心を病んでしまう。海外ではこれを報じた「ネバー・イナフ(never enough)」という本が出ています。
どこまで足しても幸せになれない。一生「満たされない(never enough)」状態のことを指します。
いつまでも「東大の平均」を意識してしまう
ーー世間一般から見れば十分満たされているように見えますが……。西岡:彼らも、別に負け組ではないんです。
例えば年収にして500万とか600万とかもらえるような企業に就職していく。
でも、彼らの同級生を見渡すと「初任給で700万」とか「30代で1000万突破」なんてのがゴロゴロいる。
年収500万といえば、全国平均より上ですから、立派なんです。でも、彼らは「全国平均」ではなくて「東大生の平均」と戦ってしまうから、満たされない。
ーー全国平均と比べようと思いなおしたりはしないのでしょうか?
西岡:逆です。東大生の平均値と戦ってしまうのではなく、「世界の平均値を見誤っている」のです。
彼らは中学受験とかで幼いころからハイグレードな仲間たちと結ばれています。東大や京大はもちろんのこと、東京科学大学とか旧帝大とか医学部医学科とかしかいない。
いわゆるFランなんて、まずいません。だから、「世界の平均」が実際よりも異常に高く出てしまうんです。
「高学歴まみれ」で育つ弊害
ーー自分たちが上澄みなのは、彼らも承知しているのでは?西岡:頭ではわかっていても、感情では納得できません。
我々も覚えがあることですが「見える世界」の中で平均・常識を推し量ってしまいますよね。
「年収300万円で、平均より少ない」と嘆く人に対して「いや、アフリカの家庭を見てみてよ!」と声をかけても慰めにはならないでしょう。
いわゆる相対的貧困という状況ですが、彼らにとって、東大生や医学部生しか存在しない環境が「世界」なんです。
ーー「高学歴なのに」というより、「高学歴だからこそ」なんですね……。それでは、「東大うつ」にならないためには、どのように育てていけばいいのでしょうか?
西岡:敢えて千尋の谷から突き落とすことをお勧めします。つまり、「高学歴まみれ」な状況から、引きはがしてみるのです。
ハイソな方々に囲まれて、それを当たり前だと認知しているところに、ゆがみが生じている気がしてなりません。確かに中高一貫校のほうが、みな行儀よく、頭もよくて、物腰も柔らかい「上品な」同級生と安全に過ごしていける確率は高いでしょう。
ですが、私はあえて今の時代だからこそ「公立中学校」への進学をお勧めしたい。東大進学者のほとんどは中高一貫校であり、東大への道は確かに細く不確かなものになるでしょうが、それよりも大事なものをはぐくみながら大人になれるはずです。
無菌室で育った子供たち
我々は「東大なのにうつ」と捉えてしまいますが、彼らにとって「東大」は当たり前のこと。つまり、彼らからすれば「普通にうつ」でしかない。
それは、それまでの人生で非常に高いレベルの正解を出し続けることを求められ、それに応え続けてきた能力と環境によって生み出されるものでした。
無菌室で育てられたがゆえに、他者に対する免疫が異常に低くなってしまう。
「子どもが傷つかないように」と至れり尽くせりの待遇を与えたくなりますが、そこをこらえるのが真の親心なのかもしれません。
<取材・文/布施川天馬>
―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―
【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。
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