のん(33)がフジテレビの夏ドラマ『Tokyo middle 30』(22日スタート、水曜午後10時)に準主演する。主演は仲里依紗(36)
地方から上京した高校の同級生3人が、35歳になった現在を描く。3人を仲、のん、深川麻衣(35)が演じる。
「本名が使えない」「独立めぐる確執」…のんが13年間も地上波...の画像はこちら >>

『あまちゃん』以来13年ぶりの連ドラ復帰

 のんはNHK『地震のあとで』(2025年)に声のみ出演し、TBS『キャスター』(同)には若手研究者役でゲスト出演するなど、単発の地上波ドラマには時折出演してきた。もっとも、連続ドラマへのレギュラー出演は、出世作となったNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年度前期)以来13年ぶりとなる。

 この物語の中心となる3人はきらきらしているわけではなく、すぐ隣にいそうな存在。3人とも東京に行けば夢がかなうと信じていたが、現実は甘くなかった。

 主人公の佐倉麻紀(仲)は颯爽と働くキャリアウーマンを目指していたが、思いがけず妊娠したため、美容外科医と結婚。現在は専業主婦で5歳の1人息子を育てているが、キャリアへの未練が捨てきれない。  

 山地遥(のん)は根拠もなくミュージシャンとして成功すると思い込んでいたが、今はアパレルショップの店長。お金は貯まらず、恋人もいない現状には大いに不満だが、地元には絶対に帰りたくない。

 もう1人の永野薫子(深川)は公立小学校の教師をしている。大学を卒業したら結婚し、子供を2人生み、世田谷のマンションに住むと決めていた。堅実なようで、地に足の付かない人生設計を立てていた。
実際には現在も独身。恋人と4年同棲しているものの、プロポーズはない。

 特別に華やかなわけでも、うらやましい存在でもない3人だが、どこか愛おしく、関心を引かれる。彼女たちが地方からの上京組の最大公約数のような存在だからだ。

 さらにそこには多くの35歳が抱える共通の焦燥や迷いが透けて見えるためである。それは若さという特権の喪失と、押し寄せる現実に対する戸惑いだ。

“普通の女性”を輝かせる、のんの特別な力

 のんはどこにでもいそうな女性を、特別感のある存在として演じられる。山地遥は格好の役柄だろう。好例は『あまちゃん』における天野アキである。地味でパッとしない少女が、内面は変わらないまま、みんなを照らすアイドルになっていった。

 のんは役柄の幅が広い。阿部寛(62)と共演した映画『カラスの親指』(2012年)では、恵まれぬ環境に生まれたことを呪わず、詐欺師たちの仲間になるたくましい少女に扮した。同『さかなのこ』 (2022年)の役柄はさかなクンがモデル。
並外れて魚が好きで、その思いだけで生きていく女性だった。社会のレールからはみ出しそうになっても、純粋な思いだけで生き抜いた。

 のんには苦手な役柄が見当たらず、コミカルな役もシリアスな役も説得力を失わずに演じ分ける。自分自身が持つ強さや弱さ、陽性の部分や生真面目な面を、作品ごとに大きく増幅して役柄に投影させるからだろう。

 ドラマ・映画界には貴重な存在だ。しかし、13年にわたって地上波連ドラへの出演がなかった。2015年から24年までの10年間は地上波単発ドラマへの出演もない。   

 その発端が以前所属していた大手芸能事務所「レプロエンタテインメント」との独立をめぐる確執だったことは広く知られている。どうして確執が生じ、その影響が長期化したのか。もう1度振り返ってみたい。

本名を名乗れなくなった独立騒動の深層

 2015年1月、のんが個人事務所「三毛andアザラシ」を設立したことが明らかになった。背景には、レプロ社側との方針の違い、演技指導を受けていた演出家への心酔があったとされる。

 当時の報道によると、レプロ社側は個人事務所設立などを契約違反と指摘した。
さらに「彼女が仕事を拒否している」と主張。だが、のん側は「事務所が仕事を入れてくれない」と反論した。双方の言い分が対立し、のんは事実上の活動休止状態になる。

 そのまま事務所とのんの契約は2016年7月に終了する。のんは独立したが、その際に芸名を本名でもある「能年玲奈」から、「のん」にあらためた。仕事で本名が使えなくなったことに対し、世論は猛反発したが、これには商標法の問題が絡んでいたとみられる。

 芸能事務所の多くは新人をデビューさせる際、特許庁に芸名を商標登録する。権利は芸能事務所が持つ。本名を芸名として登録する場合は、本人の承諾が要るから、のんも承諾していたことになる。

 なぜ商標登録するかというと、第1の理由は芸名を第三者に使用されないようにするため。別人がその芸名を名乗って活動したり、芸名を勝手に使った商品が発売されることを防ぐためだ。ブランドの権利を守るという発想はほかの業種と同じである。


 ほかにも理由はある。芸能事務所側には、その芸名を名乗る俳優、歌手は自分たちがつくり上げたという自負がある。ノウハウや育成費、営業費などを注ぎ込むからだ。このため、独立や移籍をした場合、その芸名での芸能活動をしてもらいたくないという考え方である。

 芸名をめぐる確執は、実は珍しくない。たとえば2014年には加護亜依(38)の当時の所属事務所・威風飄々が、前所属事務所・メインストリームの持つ芸名の商標権を取り消す審判を特許庁に起こした。

 その結果、退所済みだったメインストリーム側が商標を使用していないとして、取消しが認められた。ただし、審判がどうなるかはケース・バイ・ケースだ。

テレビ局がのん起用を避け続けた理由

 のんが地上波ドラマに長く出られなかったのは、テレビ局側の事情による。まずレプロエンタテインメントが大手なので、のんを起用すると、同社のほかの所属俳優との出演交渉に影響が出る可能性がある。それを心配し、のんを使わなかった。

 民放の場合、レプロ社の所属俳優が出ているCMのスポンサーの存在も気にする。スポンサーがのんの出演を嫌がることを懸念するのだ。


 ほかの芸能事務所も関係する。俳優らの独立に否定的な芸能事務所は、のんとの共演を歓迎しない。共演者がいないとドラマは成立しないので、テレビ局側は大いに気にする。

 では、のんはどうして地上波ドラマ界にカムバックできたのか。2019年、公正取引委員会がジャニーズ事務所に対し、SMAPの元メンバー3人をテレビに出演させないよう圧力をかけた疑いがあるとして注意した。まず、この動きが影響した。

 独特のルールで運営されてきた芸能界に公的機関が関与し始め、考え方を見直さざるを得なかった。ほかにも大きな理由はある。Netflixなど配信動画会社の台頭だ。

配信ドラマで証明した実力と地上波復帰への道

 のんは地上波ドラマへの出演が途絶えていた2018年、LINEアプリの連ドラ『ミライさん』に主演する。翌19年10月にはYouTube Japan公式チャンネルで公開されたドラマ『おちをつけなんせ』に主演した。監督と脚本も兼ねた。
桃井かおり(75)が共演したこともあり、話題作となった。

 2025年4月にはNetflixの大作ドラマ『新幹線大爆破』に準主演級で出演。大量の爆弾を仕掛けられた東北新幹線の運転士を演じた。なんとか乗客たちを守ろうと懸命に操縦桿を握る姿が観る側の胸を打った。

 同9月にはABEMAのドラマ『MISS KING』にも主演。数々の配信作品に出るようになった。テレビ界と違って歴史が浅く、しかも極めてビジネスライクな配信業界は芸能界の事情はほとんど気にしない。

 配信作品で活躍する俳優を放っておくのは地上波ドラマ界にとって損にしかならない。配信作品で活躍する俳優を使わないのは不自然である。かくしてテレビ局による芸能界への過度な気遣いは大きく後退した。そもそも、のんがどうして地上波ドラマに出ないのか知らない世代の制作者も増えている。

 のん本人は地上波ドラマ出演が途絶えたことを悩んだ様子はない。「自分って、自覚しているよりももっと強靭な精神を持っていたんだなって自分を称えています」(マイナビニュース、2025年2月28日)

 こうも言っている。「何者でもないときから根拠もなく自分に自信があって。だから強いのかなと思います」(同)

 素顔ののんには、『Tokyo middle 30』の山地遥と重なる部分が少なくないようだ。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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