では、夏休みを迎えた子どもたちはどうでしょうか。
週末の公園遊びや家族旅行など、良かれと思って選んだ「熱中症対策ドリンク」が、知らないうちに子どものむし歯リスクを高めている可能性があります。事実、歯科医院ではこの時期、むし歯リスクの高まった子どもたちを診る機会が少なくありません。
今回は、保護者が知っておきたい「夏休みのむし歯対策」を歯科医師の視点から解説します。
なぜスポーツドリンクがむし歯のリスクを高めるのか
スポーツドリンクは、運動時の水分や電解質補給に役立つ飲み物ですが、多くの商品には糖が含まれています。この糖が、むし歯の原因菌のエサになることが問題です。むし歯菌は糖をエサにして酸をつくり出し、その酸によって歯の表面は少しずつ溶かされ、むし歯が進行していきます。本来であれば、唾液の働きによって溶けだした歯の表面は修復されます。しかし、スポーツドリンクを少しずつ何度も飲んだり、長時間かけて飲み続けたりすると、唾液の働きが追い付かず、むし歯ができやすい状態が続いてしまいます。
子どもの歯は、生えたばかりの頃はエナメル質がまだ十分に成熟していません。永久歯も生えてから数年かけて唾液中のミネラルを取り込みながら強くなっていくため、大人の歯に比べてむし歯になりやすい特徴があります。
つまり子どもにとっては、「飲み物の酸」と「糖」のダブルパンチで歯に負担がかかることになるのです。
さらに、夏休みは生活リズムが乱れやすく、歯磨きがおろそかになったり、寝る前にジュースやスポーツドリンクを飲んでしまったりすることも少なくありません。こうした習慣が重なることで、むし歯のリスクはさらに高まります。
角砂糖8個分!? 意外と知らない「子ども用ドリンク」の落とし穴
例えば、500mLのスポーツドリンクには、商品にもよりますが角砂糖約7~8個分に相当する糖が含まれているものもあります。子どもは一度に飲み切らず、何度も口にすることが多いため、糖が口の中にとどまる時間も長くなりがちです。また、乳酸菌飲料やフルーツジュースなどもたくさんの糖が含まれているため、「体によさそう」というイメージだけで選ぶのではなく、糖の量や飲む頻度にも目を向けることが大切です。
診療をしていると、「寝る前に乳酸菌飲料を飲ませています」という保護者の方に出会うことがあります。しかし、寝ている間は唾液の分泌が減るため、糖が口の中に残りやすく、むし歯のリスクが高まります。寝る前のジュースや乳酸菌飲料は避け、水やお茶を選ぶ習慣をつけましょう。
「ダラダラ飲み」が引き金に。夏休みに激増するむし歯リスク習慣
大人がデスクワーク中にスポーツドリンクを「ちびちび飲み」することでも、歯が酸にさらされる時間が長くなり、酸蝕歯のリスクが高まります。この「少しずつ何度も飲む」という習慣は、子どものむし歯でも大きな問題になります。夏休みは学校がない分、生活リズムが乱れやすい時期です。「今日は特別だから」と、ついジュースやアイスを口にする機会が増える家庭も多いでしょう。しかし、その「少しの油断」が積み重なることで、むし歯のリスクは高まります。
特に注意したいのが、「ダラダラ食べ」「ダラダラ飲み」です。夏休みは家でゲームや動画を見る時間が増え、ジュースやお菓子を手元に置いたまま、少しずつ口にし続けてしまうことも少なくありません。これは、むし歯菌に何度も栄養分を与え続けることになり、むし歯のリスクを高める原因になります。大人の「ちびちび飲み」が酸蝕歯につながるように、子どもの「ダラダラ飲み」はむし歯のリスクを高める習慣なのです。
また、夏休みは夜更かしや朝寝坊などで生活リズムが崩れやすく、歯磨きを忘れたり、ジュースを飲んだまま寝てしまったりすることもあります。寝ている間は唾液の分泌が減るため、むし歯菌が活動しやすくなります。「夜はむし歯ができやすい時間」と覚えておくとよいでしょう。
スポーツドリンクは「飲まない」のではなく「飲み方」が大切
一方で、公園遊びや室内で過ごす程度の活動であれば、水やお茶で十分なことも少なくありません。大切なのは、「必要なときに、必要な量を飲む」ことです。「熱中症対策だから」と毎日飲ませ続ける必要はありません。
また、スポーツドリンクを長時間かけて少しずつ飲み続ける「ちびちび飲み」は避けましょう。子どもの場合も同様で、水代わりに持ち歩いて何度も飲む習慣は、むし歯のリスクを高めてしまいます。飲んだ後は水やお茶を飲んで口の中を流したり、帰宅後は歯磨きをしたりするだけでも、むし歯予防につながります。
熱中症対策も、むし歯予防も。歯科医師おすすめ「夏休みの3つのルール」
①水分補給は基本的に水かお茶を選ぶ
普段の水分補給は水やお茶を基本にし、スポーツドリンクは長時間の運動や大量に汗をかいたときに取り入れるようにしましょう。
スポーツドリンクを飲んだ後は、水やお茶を飲んだり、外出先でも水で軽くブクブクうがいをしたりするだけでも、口の中に残った糖分や酸を洗い流しやすくなります。
また、スポーツドリンクを飲む時は、ストロータイプの水筒などストローを活用するのも一つの方法です。飲み物が歯に直接触れる時間を減らしやすくなります。
②おやつの時間を決める
「食べたいときに食べたいだけ」ではなく、「時間と量を決めて食べる」ことがポイントです。前回の記事でもお伝えしたように、飲み物をちびちび飲みする習慣は歯に負担をかけます。子どもの場合も同じで、ジュースやスポーツドリンクをダラダラ飲みすると、むし歯菌に何度も糖分を与え続けることになります。
子どもたちには、「歯にも休み時間が必要だよ」と教えてあげると分かりやすいでしょう。
③寝る前の歯磨きだけは必ず行う
一日の中でも特に大切なのが就寝前の歯磨きです。寝ている間にむし歯はつくられます。寝ている間は唾液の分泌が減るため、むし歯菌を含むお口の細菌が活動しやすくなります。夏休みは夜更かしや朝寝坊で生活リズムが崩れやすい時期ですが、「寝る前だけは必ず歯を磨く」というルールを家族で決めておくと安心です。
また、フッ素の配合された歯磨き粉を使用することで、さらにむし歯予防に効果的となります。
夏休み明けも笑顔で過ごすために
夏休みは子どもにとって思い出がたくさんできる楽しい期間です。その一方で、生活習慣が変わることで、むし歯のリスクも高まりやすい期間でもあります。スポーツドリンクやアイスを「禁止」する必要はありません。大切なのは、飲み方や食べ方を少し工夫し、毎日の丁寧な歯磨きを続けることです。夏休みの過ごし方を少し見直すだけで、子どもの歯を守ることにつながります。新学期を健康な歯で迎えるためにも、この夏の過ごし方に少しの工夫を取り入れてみてください。夏休み中は学校歯科健診もありません。気になることがあれば、新学期を迎える前に歯科医院でチェックを受けるのもおすすめです。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari
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