この時期、テレビやスマホを開けば、「新幹線の自由席は乗車率120%」「高速道路で数十キロの大渋滞」といった帰省ラッシュのニュースが飛び交っています。
医師という職業上、お盆休みでの帰省にはほとんど縁がなく、個人的にはあまり実感がないのですが、毎日のように流れてくる映像や渋滞情報を見ているだけで、なんだかこちらまで疲れてきそうになります。


帰省時の新幹線や高速道路の大渋滞で「体調を崩してしまう人」が...の画像はこちら >>
せっかくの帰省や旅行にもかかわらず、体調を崩してしまったという話もよく聞きます。

ただし、体調を崩す原因は、単に「人が多い」「移動時間が長い」だけではありません。前半は新幹線や電車でついやってしまう「寝不足」と「スマホ動画」、後半は運転時の「水分控え」に潜む落とし穴を紹介します。

寝不足で乗ると、揺れに弱くなる?

帰省前日は、仕事を片づけ、夜遅くまで荷造りをして、翌朝は早起き。「どうせ新幹線で寝るから」と睡眠を削りがちですが、実はこの埋め合わせ、あまり賢明でないかもしれません。寝不足のまま揺れる乗り物に乗ると、酔いや疲れが強くなることがあるからです。

アメリカのブランダイス大学の研究チームが、睡眠不足と「乗り物の揺れ」が体に与える影響を調べた面白い研究を紹介します。参加者に「十分な睡眠をとった状態」と「睡眠不足の状態(1日4時間睡眠を2日間)」の両方を経験させ、その後、乗り物酔いを起こしやすい横揺れの中で、吐き気や反応速度などを比べました。

結果は興味深く、睡眠不足の状態で揺れにさらされると、十分眠った時に比べて、頭痛や吐き気などの「乗り物酔い」の重症度が上昇し、注意力も低下したのです。さらに、人間には本来揺れに慣れる能力があるのですが、「乗り物酔いへの適応力(慣れ)」までもが、寝不足によって鈍ってしまうことも分かりました。

つまり、「寝不足のまま電車や新幹線に乗る」ことは、乗り物酔いや体調不良のリスクを上げかねないわけです。「到着したら妙にぐったりする」ことが多い人は、単なる移動疲れだけでなく、もしかしたら慢性的な睡眠不足や疲労が背景にあるかも?

車内で動画を30分見続けると?

帰省時の新幹線や高速道路の大渋滞で「体調を崩してしまう人」がやりがちなこと。“動画視聴”と“水分控え”に要注意
※写真はイメージです(画像生成にAIを使用しています)
そしてもう一つ、移動中の手持ち無沙汰についやってしまうのが、スマホでの長時間の動画視聴です。これも、車内で気分が悪くなる見過ごせない引き金です。

最近、台湾の研究チームが、台湾を走るMRT(日本でいうJRや地下鉄)でスマホを使用して動画を視聴した際の影響を調べた研究があります。
男女40人に、15分間と30分間、それぞれ「座った状態」と「立った状態」でスマホの動画を見てもらい、「疲労度」や「乗り物酔い」のレベルを測定しました。

結果、座位、立位関わらず、視聴時間が30分になると、15分の時と比べて、吐き気、疲労、めまい、頭痛などの症状が顕著になり、乗り物酔いの症状も急に悪化することが分かりました。揺れる車内では、体の三半規管は「揺れ」を感じているのに、目は手元の固定された小さな画面を見つめ続けています。この「視覚と体の感覚の強烈なズレ」によって脳が混乱し、めまいや吐き気といった症状を引き起こすと考えられています。

日本の新幹線は優秀で揺れもほぼないため、この研究がそのまま当てはまるわけではないですが、それでも車内での長時間の視聴は控えた方がよさそうですね。特にこの研究では「立ったまま30分」の動画視聴で症状が一番強く出たため、満員車内で立ったまま見続けるのは要注意です。

渋滞が怖くて水を控えると、運転ミスが2倍?

帰省時の新幹線や高速道路の大渋滞で「体調を崩してしまう人」がやりがちなこと。“動画視聴”と“水分控え”に要注意
※写真はイメージです
次に、車で帰省する人がやりがちな落とし穴です。大渋滞でトイレに行けなくなるのが怖くて、出発前から水分を控える。これは思い当たる人も多いのではないでしょうか。

イギリスのラフバラー大学は、健康な男性11人を対象に、軽い脱水が「長時間の単調な運転」にどう影響するかを調べました。前日から水分を十分にとる日と、大幅に控える日の両方を設け、翌朝、高速道路を2時間運転してもらいました(実際の研究では、高速道路を再現したシミュレーターです)。水分を控えた日は、体重が平均1.1%減る程度の「軽い脱水」でした。

たった1%なら大したことがないように聞こえます。
ところが水分を控えた条件では、本人が感じる集中力は約40%、目の覚めている感覚も約50%も低下していました。

そして水分を控えた状態での運転は、十分水分をとった状態と比べて、車線のはみ出しやブレーキの遅れといった事故につながりかねないミスの回数が、なんと2倍以上(平均47回から101回へ)に増加したのです!

このエラーの頻度や判断力の低下度合いは、「血中アルコール濃度0.08%(日本の酒気帯び運転の基準上回るレベル)」の状態で運転した時や、極度の睡眠不足の時と“ほぼ同等”であると推定されています。つまり、渋滞でのトイレを我慢するために水分を控えての運転は、酒気帯び運転と同じくらい判断力が鈍る可能性があることになります。

なぜ、わずかな水分不足でここまで脳のパフォーマンスが落ちるのでしょうか。実は、体が脱水状態になると脳の組織自体がわずかに萎縮してしまいます。その萎縮した状態で無理に集中力を維持しようとするため、脳が過剰なエネルギーを浪費するため、脳がすぐに疲弊しミスを連発すると考えられています。

実際の交通事故の因果関係を直接調べたわけではないので、飲水制限だけで事故のリスクが上昇するとは言い切れませんが、渋滞を恐れて水を控える習慣は安全ではないかもしれません。

帰省を元気に終えるために

新幹線など公共交通機関で移動するなら、前夜はしっかり眠ること、車内での動画視聴は30分ぶっ通しを避け、15分ほどでいったん目を離し、遠くの景色を見るなどして感覚のズレをリセットすることが大切です。気分が悪くなってからではなく、「なる前」に休むのがコツです。

車で移動するなら、水分補給を削るのではなく、こまめにサービスエリアやパーキングエリアへ。必要なら携帯トイレを準備しておけば、「飲むのが怖い」という不安も減らせます。

長距離の移動は、ただでさえ体力を奪います。
「眠る・画面から目を離す・水を飲む」の3つを忘れずに。自宅に元気で戻るまでが、帰省です!

<文/岡本宗史>

【参考資料】
Kaplan J, et al. The influence of sleep deprivation and oscillating motion on sleepiness, motion sickness, and cognitive and motor performance. Auton Neurosci. 2017;202:86-96.
Chen YL, et al. Visually Induced Motion Sickness During Smartphone Use in Moving Metro Carriages: Effects of Posture and Viewing Duration-A Randomized Crossover Study. Healthcare (Basel). 2026;14(12):1707.
Watson P, et al. Mild hypohydration increases the frequency of driver errors during a prolonged, monotonous driving task. Physiol Behav. 2015;147:313-318.

【岡本宗史】
東京大学大学院医学系研究科を修了後、埼玉県のクリニックにて実臨床に従事。「健康・エイジングケア」に関する知見を、医学的視点から紐解き、メディアやSNSを通じて多角的に発信している。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」評論家 等。
Instagram:@soshi_okamoto
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