推し活、家族、仕事、治療――長年続けてきたものを手放すには、未練や罪悪感、費やした時間とお金への執着がつきまとう。だが、時に“続ける”ことで、人は身動きが取れなくなる。
自分を守り、次へ進むための「やめどき」はどこにあるのか。人生を左右する大きな決断をした人の実例から、その見極め方を探る。

「推しじまい」を決断する人が増加中

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「人生に彩りを添える」として推し活を推奨する声が高まる一方で、推し活をやめる「推しじまい」を決断する人も増えているという。なぜ、楽しいはずの推し活をやめたいと思うのか。推しじまいを支援するサービス「推し葬儀」を執り行っている大阪のバー「なんば白鯨」のオーナー、B・カシワギ氏は語る。

「ちゃんと“卒業式”をしてくれる推しなら、最後に本人と話をして気持ちに区切りをつけられるかもしれない。でも実際には、突然の引退で推し活を強制終了させられる人が大半です。最後を見届けられないとファンは気持ちの消化不良を起こすので、それを浄化させる場所として“推し葬儀”が利用されています」

なんば白鯨では毎日さまざまなイベントが開催され、引退した推しに祈りを捧げる人などが頻繁に顔を出す。その多くが、アイドルやメイドカフェ嬢の推し活経験者だ。

「もともと通常の“葬儀”の辛気くささに疑問を持っていて、人の死をシリアスにしすぎるのが嫌だという考えがありました。けれど、本当の死者の葬儀を明るくやるのは不謹慎と言われかねない。ならばと、祭壇をDIYして『推しキャラ専用葬儀場 アマガラス』を作ってみたんです。そうしたら、予想以上に3次元界隈での需要が大きいことがわかりました」

別れの儀式は「思い出のパッケージ化」

カシワギ氏は、別れの儀式を「思い出のパッケージ化」と表現する。

「これまでで最も印象的だったのは、ラブドールの葬儀。
ドールを棺桶に入れて、本職の僧侶に読経してもらったら、普通の人間のお葬式を目の当たりにした感覚になりました。その“喪主”が語っていたのは『機械的に処分するのは心苦しいので、美しい形で見送ってあげたい』ということ。

この経験を通して感じたのは、推し活そのものは葬儀を区切りにして終えたとしても、ファンにとって推しはずっと推しのままなんです。だから美しい形で送り出して、推し活の思い出だけを残そうとする。葬儀はそのための装置です」

ストーカー化した推し活のやめどきとは

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不幸にならない[やめどき]の正解

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ラブドールの葬儀も行った。持ち主は「仕事で海外赴任になったが実家には置いておけないから」と別れを決めた。「この角度からまだ見ていたいです」と、終了のギリギリまで粘っていたという
推しへの愛が強すぎて、身を滅ぼしかけた人もいる。

「推し活はしょせん“消費活動”にすぎず、刹那的な快楽だと自覚していました。でも、あまりに入れ込みすぎて彼の活動が私の人生を左右している感じがして、やめるにやめられなかったんです」

そう語るのは、俳優・横浜流星の熱烈なファンだったコラムニストの山野萌絵氏だ。推し活を「消費」と割り切るクールな姿勢を見せる半面、その資金を得るためにJKリフレなどの性的サービス店に身を投じるほどの入れ込みぶりだった。

「’14年から’18年までトータル4年間、横浜さんのファンをしていました。出演舞台は100公演以上見に行ったし、ドイツで開かれた映画祭にも日本から唯一参加して声をかけてもらった。本人だけでなく、彼の俳優デビュー作ともいえる戦隊ヒーロー時代の共演者からも私は認知されており『また流星に会いに来たの?』と声をかけられるほどでした。

イベントがあれば滞在先のホテルを特定することから始まる私の“消費”は、もはやストーカーに近かったかもしれない。だからこそ、横浜さんの一挙手一投足によって精神状態が大きく左右される日々で、激しくハマると同時にファンをやめたいなとも思っていました」

そんな“沼すぎる”推し活の日々にも転機が訪れた。


転機となった出来事

「横浜さんに限らず、私が過去やってきたような推し活は、まだ売れ切っていないタレントを近距離で応援できる余白があるものがほとんど。だから横浜さんが有名になればなるほど、自分が思うファン活動とズレが生じていったんです。

大きな決め手となったのは、彼が’19年にドラマ『初めて恋をした日に読む話』に出演して“ゆりゆり”役として誰もが知る売れっ子になったこと。このブレイクによって横浜さんが『若手俳優から芸能人になった』と感じたんです。その瞬間、すとんと気持ちがラクになれて、横浜さんへの執着を断ち切る決意ができました」

そこから徐々に横浜さんのイベントに足を運ばなくなっていったという山野氏。やめたことで頭の中がクリーンになる感覚を覚え、新たな“推し”にも目が向くようになったという。

「その後、若手俳優3人、旧ジャニーズ事務所のジュニア、舞台の若手俳優、メンズコンカフェ、バンドマンなどさまざまな人にハマって。もともと短期集中でドカッと時間とお金を使って満足するタイプなので、我を取り戻したような感覚があります」

楽しいはずの推し活も、のめり込みすぎると自分自身を苦しめるストレスにもなりうる。「推しじまい」とは、自分を取り戻すために必要な行為なのかもしれない。

【コラムニスト 山野萌絵氏】
’19年より商業連載をスタート。オタクへの造詣が深く本人もオタクを公言している。現在は同人誌の頒布やnoteの執筆を中心に活動中

宿泊するホテルまで特定…“推し活”を「やめたいのにやめられない」女性が執着を断ち切れた瞬間
コラムニストの山野萌絵氏
※2026年9月2日号より

取材・文/週刊SPA!編集部

―[不幸にならない[やめどき]の正解]―
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