もちろん登板数や期間は異なる。それでも千賀滉大(メッツ)の今季を追うと、「先発からリリーフに回ったから復活した」だけでは説明できない変化が見えてくる。
先発からロングリリーフへ転向しても続いた苦戦
2023年には12勝7敗、防御率2.98、202奪三振を記録し、新人王投票2位、サイ・ヤング賞投票7位。メッツのエース格となった千賀だが、その後は故障に悩まされ、今季は先発8試合で0勝7敗、防御率9.66と苦しんだ。そこで6月下旬、メッツは千賀をブルペンへ配置転換する。ただし、ここでいきなり現在のような「9回の1イニングを任される」という役割に収まったわけではない。
当初は複数イニングを任されることもあった。ブルペン転向後、ロングリリーフとして投げた4試合を調べると、計12回で9失点、防御率6.75。少なくとも、先発を外しただけで劇的に成績が改善したわけではなかった。
ただ、その4試合をイニングごとに見ると興味深い。
4試合中3試合では、登板した最初のイニングを無失点で終えていた。ところが、その3試合はいずれも次のイニング以降も続投し、そこで失点している。
サンプルはわずか4試合。これだけで「千賀は回跨ぎが苦手」と決めつけることはできない。それでも少なくともこの期間には、最初のイニングを抑えたあと、続投した回に失点するケースが続いていた。
「1イニング限定」の起用で防御率が劇的に改善
そして8月、メッツは千賀を基本的に1イニング限定で起用するようになる。すると11試合、10回1/3を投げて自責点2、防御率1.74。5度のセーブ機会もすべて成功した。これだけで1イニング起用が好転の原因だったとは言い切れないが、千賀の成績が大きく変わった時期と、役割がさらに絞られた時期が重なっているのは確かだ。
しかも8月の11試合のうち、10試合が9回の登板だった。長い回をつなぐ役割から、試合終盤の1イニングを任される投手へ。求められる役割が、かなりはっきり変わった月でもある。
フォーシームとフォークで約9割を占める大胆な配球
では、その時期に投球の中身はどう変わっていたのか。まず目につくのが、配球の大胆な“引き算”だ。フォーシームとフォークを合わせた割合は6月の55.4%から、7月の71.1%、8月には89.7%まで上昇した。しかも8月の11登板を試合ごとに見ると、すべての試合でこの2球種が全投球の8割を超えている。
先発なら、同じ打者と2度、3度対戦することも考える必要がある。一方、1イニングなら多彩な球種を長いイニングにわたって見せる必要性は薄くなる。実際の千賀も、この時期は力のあるフォーシームと代名詞の「ゴーストフォーク」に大きく比重を寄せていた。
球種の絞り込みとともに上昇したフォーシームの球速
変わったのは球種だけではない。フォーシームの平均球速も、6月から8月にかけてじわりと上がっている。6月の96.1マイル(約154.7キロ)から、7月96.4マイル(約155.1キロ)、8月96.7マイル(約155.6キロ)という推移だ。もちろん、この推移だけで「1イニングになったから球速が上がった」とは言えない。コンディションの変化など別の要因も考えられる。ただ、短いイニングでの起用へ変わっていった時期に、使う球が絞られ、フォーシームの平均球速も上昇していたことは事実だ。
つまり、千賀の好転を単純に「リリーフ転向」と片づけるのは少し違うのだろう。ロングリリーフでも苦しんだあと、1イニング中心の起用になった時期に、配球は2つの武器へ大きく寄り、速球の出力も上がった。その複数の変化が重なったことが、現在の好投を考えるうえで重要な手がかりになりそうだ。
好成績でも「守護神が天職」とは言い切れない理由
もっとも、これだけで「千賀の天職は守護神」と結論づけるのも早い。8月23日にはメジャー移籍後初めて2日連続で登板したが、フォーシームの平均球速は95.4マイル(約153.5キロ)に留まり、サヨナラ本塁打を浴びた。1イニング限定で好結果を残していることと、連投を求められるクローザーとして安定して働けることは別の話である。
現在9回を任されている背景には、本来の守護神デビン・ウィリアムズが右肩を痛めて離脱している事情もある。
連投の適性や、本格的に守護神として定着できるかはまだ別の論点だろう。それでも、先発でもロングリリーフでも苦しんだ千賀が、1イニング中心の起用とともに別の顔を見せ始めた。そこに今の千賀の面白さがある。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。
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