【インタビュー】映画『襲名』團十郎が歌舞伎衣裳でヴェネチア国際映画祭レッドカーペットに登場
(左より)三池崇史監督、市川團十郎、市川新之助 (C)Kazuko Wakayama

第83回ヴェネチア国際映画祭「アウト・オブ・コンペティション部門」に正式出品されたドキュメンタリー作品『襲名』を手掛けた市川團十郎と三池崇史監督が、現地時間9月3日に團十郎の子・市川新之助と共にレッドカーペットに登場。日本メディア向けの囲み取材が行われた。



レッドカーペットで團十郎は、歌舞伎演目『男伊達花廓(おとこだてはなのよしわら)』の江戸一番の男伊達である御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)の衣裳で登場。世界各国から集まったたくさんのメディアを前に、今回のために制作した「成田屋」と書いた和傘を差し、背中に尺八を背負った江戸一番の伊達男として、レッドカーペット上で堂々の見得を切った。



カンヌ・ベルリン・ヴェネチアの世界3大映画祭のレッドカーペットを歌舞伎の衣裳で歩くのは史上初の試み。全世界のメディアに向けて歌舞伎の魅力を発信、衣裳の艶やかさ、そして團十郎の粋な一挙手一投足に海外メディアを魅了する史上初のレッドカーペットとなった。



【インタビュー】映画『襲名』團十郎が歌舞伎衣裳でヴェネチア国際映画祭レッドカーペットに登場

市川團十郎、三池崇史監督 インタビュー

──ヴェネチアにやってきての感想はいかがでしょうか。



三池監督 久しぶりに、16年ぶりぐらいになるんですね。それまではよく来ていたので、この作品『襲名』で戻ってくることができて嬉しいです。さっき主催者の方とご挨拶したんですが、この作品をすごく気に入ってくれていて。「ものすごく美しい作品だ。今までやってきた血が出たりするのを全部リセットしたね」と褒めてもらいました。でも、みんなにとにかくこの2人(團十郎・新之助)を見てもらう、目撃してもらう。それがこの作品の自分にとってはテーマなので、上映がすごく楽しみです。



團十郎 国際映画祭に参加したのは初めてなんですけど、ヴェネチアというイタリアのこの街は元からすごく好きで。幼い時から父・12代目團十郎と一緒に来ていて思い出がたくさんある土地でもあります。みんなと一緒に作っていった作品で、こういうヴェネチアという土地にお招きいただけて、しかもそれが父も関わる作品で、そこに孫にあたる新之助も一緒に来ることができるというのはご縁があるのかなと感じています。街を歩いていると父のことや、あとは妻と新婚旅行でイタリアに来た時のことをいろいろと思い出しながら時を過ごしています。新婚旅行がイタリアだったんですね。一緒に泥温泉に行ったり、レストランでイタリア語で注文した思い出など、懐かしい思い出がたくさんあります。



新之助 初めてのヨーロッパでヴェネチアに来させていただきました。初めて出演させていただいた映画で、国際映画祭に招待されてこのヴェネチアに来させていただくというのはすごく貴重な機会で、すごく嬉しくて。あと、ヴェネチアは街からすぐ近くが海面なので、空港とかもいつもの景色と違って、水上タクシーとかもあってすごく楽しいです。



──このあとのレッドカーペットで團十郎さんは歌舞伎の『男伊達花廓(おとこだてはなのよしわら)』の衣装で登壇されるそうですね。



團十郎 本当はこれ(紋付袴)で行きたいんですけど(笑)、歌舞伎役者ということと、『襲名』が歌舞伎のドキュメンタリー映画ですので、今回は歌舞伎役者というものを世界に押し出していこうということで。ちょっと大変なんですけど、これから白塗りして衣装をつけて。

本当は嫌なんですけど(笑)、世界の方々に歌舞伎という文化やその伝承、継承というものがこういう世界観であるよということが少しでもお目に留まるように、暑い中準備します。



【インタビュー】映画『襲名』團十郎が歌舞伎衣裳でヴェネチア国際映画祭レッドカーペットに登場

──この衣装を選ばれた理由は?



團十郎 この作品は自分たちで作って、自分の襲名披露でかけた作品です。『助六』や『勧進帳』もありますが、あまりにも『助六』や『勧進帳』は海外の方には誰が誰だかわからないだろうなと思いまして。男伊達という粋な、ぱっと見はわからないけれどよく見るとかっこいいというような、日本の奥ゆかしさや文化の良いところが、着物に描かれた龍の墨絵や、市松模様の帯からも、「炭治郎のベースはこっちだよ!」というところも含めて(笑)、よく伝えられると思いました。また、日本の文化にはすべてが完璧な中に完璧があるのではなく「欠けているものの中に良さを見出す」、茶道の言葉でいうところの「わび・さび」というものもあると思います。映画祭の中でこういう格好をしていくことはある意味どこか欠けていて恥ずかしい部分もあるのですが、そういった欠けた部分を補う意味でのわび・さびが、歌舞伎のスピリットや伝統と組み合わさるようにと願っています。



──最大の節目である襲名を、4年がかりで三池監督が記録した作品がこうやって世界の観客の前で披露されるいま、今回の作品についてどのように思われますか。



新之助 初めて出演させていただいた映画で、ドキュメンタリー映画なので本当の自分を撮っていただく恥ずかしい気持ちもありました。でも、そうやって自分を振り返るというのはなかなか機会がないので、映画にして見させていただくというのはすごくありがたかったです。



團十郎 やっぱり情熱だと思います。ひとつのものを作るのは簡単ではなくて、監督も関係者も何遍も心が折れるようなことがありながら、コロナ禍も含め本当だったら1年ちょっとで終わるはずが4年ぐらいかかってしまったという現実がありました。その中でみんなが乗り越えてきたことに意味がありますし、13代目市川團十郎の襲名というリアリティの中で、2026年9月にこういう文化があるということを日本人にも見てもらいたいし、海外の方々にも楽しんでもらいたい。

こっ恥ずかしいところもいっぱいありますけど、そういうものも飲み込んでこの作品『襲名』に出演できることを嬉しく思っています。



──映画を観て、お互いに対する強い信頼感のようなものを感じましたが。



三池監督 映画に出演してもらったきっかけに、今まで会ったことのないタイプの男が同じ時代に生きていることに気づいて、それで歌舞伎とも手を合わせた。本当にすごいことだなと。記録するこちら側としては、感情的な部分を過剰に盛り上げたりせず、そういった演出をできるだけ削ぎ落として、ライブな“生の感”を観客に見てもらえればと。「信頼」という、同じ土俵にいる人たちの感覚というよりは、僕自身が「へえ」と仰ぎ見ている感じなんです。舞台上でもカメラの前でもそうですけど、普段のオフになった瞬間の「歌舞伎っぷり」がとにかくすごい。こういう風に生きていくというのは普通の人間にはできないなと。だから「信頼」というよりは、むしろ「尊敬」に近い形ですね。



團十郎 そう言われちゃうと言う言葉なくなっちゃうんですよね(笑)。撮影や作品に携わるための取材など色々なところで監督にお目にかかっていて。初めて映画をご一緒した時も、監督ってどんな人なんだろうと思って、一度監督がいらっしゃるところへ行ったんです。

なんだか暗い居酒屋みたいなところで「赤玉」とかいう爆弾みたいなお酒を飲んでいて(笑)。『やっぱりイメージ通りなんだな』と思ったけれど、お会いすればお会いするほど優しくて、愛があるんですよね。監督の作品の土台にはいつも「愛」があるんですよね。その愛に包み込まれる「沼感」があって、三池組のみんなもそれを分かっているんだと思います。調べて探求してくれた時間や熱量が「愛」として変換されて伝わってくるので、僕から言うことは何もないです。距離感も最初はズケズケ入ってこられましたけど(笑)、そういう信頼関係があったからこそ自然とそうなっていったんだと思います。



【インタビュー】映画『襲名』團十郎が歌舞伎衣裳でヴェネチア国際映画祭レッドカーペットに登場

──新之助さんは、成長していくご自身の姿を作品でご覧になっていかがでしたか?



新之助 昔の自分を見られるのはやっぱりすごく恥ずかしさもあるのですが、でも、そうやって自分を振り返る機会はなかなかないので、映画として観させていただけたのはすごくありがたかったです。



──お互いに「團十郎になる」「新之助になる」という襲名・継承の姿を見てどう感じられましたか?



新之助 うーん……あまり何も思わなかったです(笑)。



團十郎 今回の作品は、私が目にしていない部分も出ていて。親としては涙が出るというか、感動しました。やっぱり「市川團十郎になる」ということは、自分が團十郎になるのと同時に、今回の父もそうでしたが「次の市川團十郎を作る土台を築く」という作業でもあるんです。だから自分のことばかりをやっているわけにはいかない。

その中で、新之助という名を継ぐということがどういうことか、今はまだ分からなくて良くて、父を見ていても何も思わなくて良くて、その空気感を感じながら成長していく過程なんです。でも、迷い、努力、才能、そして持って生まれた感覚。そういうものが彼の中にあるというのは見ていて思うので、それが今13歳の本人の中でこれからどういう段階を経て変わっていくのかな、と見守っています。今はこうしてヴェネチアへ来させていただいて大変幸運だなと思いますし、まだ海のものとも山のものとも分からない状態ではありますけれど、そういう中でもこうした経験をさせていただいて、彼自身の成長にとって、映画から今日までがひとつの作品だと私は思っています。やっぱりそういうところを期待しながら見ています。



【インタビュー】映画『襲名』團十郎が歌舞伎衣裳でヴェネチア国際映画祭レッドカーペットに登場

──ヴェネチアに向かう機内や現地ではどのように過ごされていましたか?



三池監督 長旅でしたが、僕は基本的に飛行機で寝ていて、ふと見ると團十郎さんは機内でウォーキングやストレッチをされていて。明け方に僕のところに来て「監督ってこういう体勢で寝るんだ(笑)」とか話をしたり。お互いに芸や生き方を客観的に見ているので、最初に会った時の距離感と今もほぼ変わらないですね。



團十郎 トレーナーから「寝ないで動いていてください」と言われていたので、機内での必須科目のトレーニングをずっとやっていて睡眠はあんまりとってないですよ。だから今日はもう眠いんで帰りたい(笑)。でも、監督のことは後ろから観察していたんですが、電子書籍で小説を読んでいるのを見て「これ映画化するのかな?」と気になって聞いたりしていました。監督って自分の所在を隠すんだよね。

それが面白いんですよ。なんかこれがまた人としてすごく魅力的なんですよね。



──最後に、歌舞伎をヴェネチアの人々にどう受け取ってほしいですか?



三池監督 自分は歌舞伎の専門家ではないですが、市川團十郎という男のある一面はよく知っている。だから「歌舞伎を見てほしい」というよりは、市川團十郎とその息子・新之助というふたりを目撃してほしい。ご覧になった人が「伝統芸能を見に行こう」ではなく「團十郎を観に行こう」となってくれたら嬉しいです。



團十郎 文化の伝承というのはスムーズにはいかないものですが、平和があってこそ紡がれていくものです。そういった平和への思いを感じていただくと同時に、監督が仰ったように「團十郎や新之助の歌舞伎を観てみようかな」と思ってもらえたら、それが一番の歌舞伎への貢献になると思っています。



新之助 日本とヨーロッパでは空気感も歩いている人の雰囲気も料理の注文も全然違って、味わったことのない新鮮な空気感でした。ヴェネチア映画祭という場に来て、世界って広大で壮大なんだなと感じました。



<作品情報>
『襲名』



9月25日(金)公開



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