しかし、ビジネス現場の声を拾うと、必ずしもプラスに働いていると感じているわけではないようだ。
営業支援ツール、マーケティングの自動化ツール、業務チャット、そして生成AI。こうした便利になるはずの数々のツールがかえって現場を疲弊させているという。
これまで1000社超の企業のAI導入を支援してきたamptalk 株式会社代表取締役社長の猪瀬竜馬氏は「1つの商談のために3時間の社内調整と事務作業が必要」そんな悲鳴が現場のあちこちで上がっていると語る。
トップダウンで「AIを使え」と号令がかかるほど、現場は疲弊する――。
この矛盾の正体はどこにあるのか。猪瀬氏にその答えを聞いた。
※本記事は8月28日発売の新刊『AGENT SALES エージェント・セールス』(扶桑社刊)から本文の一部を抜粋、再編集したものです。
営業の”武器”ばかりが増え、現場は疲弊している
皆さんは普段の営業活動で、何種類のツールを使っていますか?SFA(営業支援システム)、MA(マーケティングの自動化)、チャット、Web会議。世の中のDX推進の波に押される形で、営業の「武器」は増え続けました。しかし、実際どれだけの人が「本当に便利になった」と言えるでしょうか。
ツールが増えるたびに入力作業や確認作業が増え、営業の時間は〝細切れ〞に切り刻まれています。
「毎日目標と向き合いながら必死に成果を追い求めているのに、忙しさだけが増して成果がついてこない……」。
あなたもそんなふうに感じることはないでしょうか?
そして、そんな混乱のさなかに登場したのが、生成AIです。今では会社からトップダウンで「AIを積極活用しろ」という号令が加わり、現場はもはや限界を超えています。 本来であれば現場を楽にするツールの数々なのに、なぜこのような悲劇が起こるのでしょうか。
この問題の本質は、どこまでがAIの仕事で、どこからが人間の仕事かという「境界線」が示されていないことにあります。
なぜ境界線が引けないのか。その根本的な理由は、私たちが「営業」という仕事を曖昧な感覚で捉えており、その構造を解像度高く分解できていないことにあります。
すべての営業はたった4つの要素で成り立っている
一言で「営業」と言っても業種や商材は様々ですが、実は世の中のすべての営業活動は、たった4つの要素で成り立っています。それが「①人間関係構築能力」「②プロジェクトマネジメント」「③トーク」「④ナレッジ」です。
たった1つでも欠ければ、成果はすべてゼロになってしまうのです。どれほど素晴らしいトーク力があっても、知識(ナレッジ)や進行管理(プロジェクトマネジメント)が欠ければ、たちまちそれまでの苦労は水の泡となります。
しかし、裏を返せば、もし営業の解像度を引き上げ、AIに任せるべき領域を明確にし、弱点を底上げすることができたなら、個人の能力も組織の成果も倍増させることができるのです。
「とりあえずChatGPTを使え」では何も変わりません。
指示する経営層も、AIに何をどこまで任せていいのか分からないまま「使え」と号令をかけ、現場もまた、何を任せてよいのか分からないまま手探りで触っている。
誰も地図を持たないまま、全員が同じ暗闇を手探りで歩いているだけの状況。
これではかえって疲弊が加速してしまいます。
「AIに何をどこまで任せていいか分からない」
つまり、境界線が引かれていないという同じ悩みです。そこで私が提唱するのが「AGENT SALES(エージェント・セールス)」という仕組みです。
顧客のAgentになり、AI Agentを活用することで営業力を最大化する
そもそもエージェント(AGENT)とは、本来「誰かのために動く代理人」を意味する言葉です。AGENT SALESにおいては、この言葉を2つの意味で定義しました。1⃣ 顧客のエージェントになること:
売り込む説得者ではなく、顧客の稟議・合意形成を代行するパートナーという本来のエージェントの意味に近いもの。
2⃣ AIエージェントの活用:
日程調整やSFA入力などの作業をAIに完全代行させ、人間がパートナー業務に集中する時間を生み出すこと。
つまり、「AIに作業を代行させ、人間が顧客のパートナーとなる営業スタイル」がAGENTSALESです。
ただし、ここで一つ誤解を解いておきます。「顧客のエージェントになる」とは、顧客の言いなりになることではありません。
営業である以上、私たちは自社の売上責任も背負っています。
だからこそ重要なのは、「顧客の成功条件」と「自社が提供できる価値」が重なる地点を見極めることです。
AGENTSALESは、顧客にとって不要なものまで無理に売り込む態度ではありません。
一方で、顧客の要望をすべて受け入れる御用聞きでもありません。
顧客の事業にとって本当に意味があり、自社の価値提供とも一致する領域を見つけ、そこに合意形成を導く。
それが、ここでいう「顧客のエージェントになる」という意味です。
ここまで読んでいただいたあなたは、おそらく「そんな簡単にできるなら苦労しない」と思ったことでしょう。
AIと人間の役割分担の基準とは?
しかし先ほど申し上げた通り業界や商材が変われど、世の中のあらゆる営業活動は、たった4つの要素で構成されています(私はこれを「The4(ザ・フォー)」と名付けて可視化しました)。そしてザ・フォーのそれぞれの要素は「作業(オペレーティブ)」と「創造(クリエイティブ)」に分けられます。
この分類こそがAIと人間の役割分担の基準となるのです。
例えば日程調整、議事録作成、CRM入力、定型メールなどは「正解」が決まっており、再現性が高い業務です。
これらは誰がやっても結果は同じ作業(オペレーティブ)領域なので、AIによるオートパイロット(完全自動化)が可能です。
人間が触る必要すらない「ゼロ・タッチ」が理想の形です。
一方で、商談前の仮説構築や顧客の潜在課題の分析、切り返しトークの準備などは、正解がなく、文脈依存性が高い業務です。
いわば「誰がやるか」で結果が大きく変わる、創造(クリエイティブ)領域なので、人間の思考が不可欠になります。
こちらに関してはAIを〝参謀〞としてあなたの横に置くこと、すなわちAIをコパイロット(能力拡張)とすることで価値を発揮します。
つまり、それぞれの領域で展開すべきAI戦略は異なるのです。
この「4つの箱×2つの領域」に沿ってAIをパズルのように配置していくことで、組織のAGENT(エージェント)化は完成します。
ここで多くの読者が抱く疑問に答えておきます。「そんなことがChatGPT でできるのか?」「特別なツールが必要なのか?」という疑問です。
結論から言えば、創造(クリエイティブ)領域でおもに用いるコパイロットとしての役割の大半は、ChatGPT・Claude・Geminiといった汎用LLMだけで今日から始められます。
商談前の顧客リサーチ、競合分析の壁打ち、提案ストーリーの構成、稟議書のドラフト作成。
これらはスマートフォン一つで実行可能です。個人の営業パーソンであっても、組織の許可を待つ必要はありません(ただし、顧客情報・社内機密・個人情報を扱う場合は、自社のセキュリティポリシーに従い、法人契約された環境や承認済みツールを使う必要があります)。
一方、作業領域で真価を発揮するオートパイロットには汎用LLMで一部作業負担の軽減を行うことは可能ですが、完全自動化のためには専用のツールの使用を検討する必要があります。
商談の自動録音・要約、CRMへの自動入力、カレンダー連携による日程調整の完全自動化、商談後のネクストアクション自動抽出。これらは汎用LLM単体では実現が難しく、SFA連携型のAIツールや自動化プラットフォームの導入が求められます。
つまり、コパイロットは個人で、オートパイロットは組織で。この棲み分けを理解するだけで、「何から始めるべきか」は明確になるのです。
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