―[アメリカ発・AIが先に見せる未来レポート~未来はすでにβ(ベータ)版]―

こんにちは、福原たまねぎと申します。普段は米国シアトルのテック企業で働いていますが、個人ではAIや働き方に関する発信をして、本を書いたりしています。
この連載では、僕がアメリカで触れた「AIが世の中をどう変えるのか」という未来予測をお伝えしていきます。

メールでも会議でも「空気の読み方」は、AIに教わるのが普通

AIは人間より「空気を読む」のがうまい?研究でわかった衝撃事...の画像はこちら >>
 ’26年9月、少し嫌な研究結果をスウェーデンのメーラルダーレン大学と未来研究所の研究チームが発表しました。AIは人間より「空気を読む」のがうまいかもしれないという内容です。研究チームが調べたのは、「ある行動が、その場でどれくらい適切か」を見抜く力です。「笑う」「泣く」「大声で話す」といった37の行動を、職場や葬式など15の場面と組み合わせ、計555通りを用意しました。

 そして、6種類のAIと320人の人間が「それぞれの場面でアメリカ社会では平均的にどれくらいが適切か」を予測。人間は一人50場面を担当しましたが、結果は意外でした。数字が小さいほど正確な予測誤差になるところ、平均的な人間は1.77。最も成績のよかったAIは0.78でした。しかも、調べた6種類のAIすべてが平均的な人間を上回ったのです。

 ただし、この研究は「AIが人の気持ちを理解した」と証明したわけではありません。AIが当てたのは、「アメリカ人全体なら、どう判断するか」という社会の平均値です。それでも驚くのは、AIには人間のような実体験がないこと。
気まずい沈黙を経験したこともなければ、場違いな発言をして恥をかいたこともない。それなのに、大量の文章から人間社会の見えないルールをかなり正確に拾っていました。

人間は「自分の感覚」を、常識だと思い込みやすい

 僕たちはこれまで、AIは計算や検索は得意でも、空気は読めないと思ってきました。「今それ言う?」「ここでは黙っておいたほうがいい」。そんな判断こそ、人間が生きて身につけるものだと思っていたからです。

 ところが研究では、人間のほうに面白い弱点が見つかりました。人は「これは絶対ダメ」「これは普通にアリ」と、自分の感覚を社会全体の常識だと思い込みやすかったのです。対してAIは、大量の文章から「世の中ではこのくらいに受け取られる」という中間地点を拾うのがうまかった。

 この能力が実用化されると、’30年代の「空気の読み方」はかなり違うものになります。上司へのメールを書く前にAIが「少し攻撃的に聞こえます」と直す。会議中にはイヤホンが「ここは反論せず、一度同意したほうがいい」とささやく。謝罪の言葉も、送信前にAIが「世間的に無難な答え」へ寄せてくれる。
ドラえもんがのび太に「やめたほうがいいよ」とたしなめるように、AIが人間に礼儀や振る舞いを教える。そんな世界に、僕たちはもう近づいているのかもしれません。

 すると「空気を読む」は、人間の勘や経験ではなくなります。天気予報を見るように、「僕はこう思う」より先に、「普通の人はどう受け取る?」とAIに聞く社会です。これまで曖昧だった「空気」が、機械によって平均値として表示されるようになるわけです。

 ただ、この研究にはもう一つ重要な結果があります。人間を15人集めて予測を平均すると、誤差は0.57まで下がり、単独のAIを上回りました。AIは一体ずつは賢い一方で、間違える場所がよく似ていました。人間は一人だと外す。でも、外し方がバラバラなので、集めると互いの間違いを打ち消せたのです。

 これはかなり大事な示唆です。AIが「平均的な空気」を誰よりも正確に教えてくれるようになるほど、僕らの言葉や振る舞いは同じ方向へ整えられていくかもしれません。
失言は減るでしょう。でも同時に、場違いな冗談や、誰も言わなかった反論や、常識から少し外れた振る舞いまで減っていく可能性があります。

 未来の人間に必要なのは、AIより正しく空気を読むことではない。むしろ、ときどき空気を読み間違えることです。AIが社会の「普通」を教える時代には、人間のバラバラな感覚こそが、社会を平均値だけにしない最後の余白になるかもしれません。

<文/福原たまねぎ 写真/Adobe Stock>

―[アメリカ発・AIが先に見せる未来レポート~未来はすでにβ(ベータ)版]―

【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。初著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)が発売中。
X:@fukutamanegi
編集部おすすめ