朝の満員電車。つり革にも手が届かず、電車が揺れるたびに足をふんばって、なんとか体を支える。
降りる駅に着くころには、もうひと仕事終えたような気分になっている人も多いのではないでしょうか。
高齢の女性に席を譲ろうと思ったら、隣の男性に「座ってください...の画像はこちら >>
国土交通省の調査によると、2025年度の通勤時間帯のいちばん混む1時間の混雑率は、東京圏の主要区間の平均で143%。前年度より4ポイント上がりました。定員の1.4倍以上の人が乗っている計算です。そんなぎゅうぎゅうの車内では、思いがけない出来事に出くわすこともあります。

今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、電車の中で思わぬ場面に出くわした2人の話。

記事の後半では、転んだり落ちたりする事故がどれくらい起きているのかを調べてみました。

*  *  *

①高齢者に席を譲ろうと思ったら…

松田浩太さん(仮名・30代)は、いつものように混雑した電車に乗り込んだ。朝の通勤ラッシュにもかかわらず、幸運にも座席を確保できた。

「ホッと一息をつき、スマートフォンでメールをチェックしていると、杖をついた高齢の女性が乗ってきました。彼女は明らかに疲れた様子で、よろよろと揺れながら私の前に立ったんです」

松田さんが周りを見渡すと、若い人たちが座っている状況を目にしたが、誰も席を譲る様子はなかった。松田さんは、とっさに立ち上がろうとしたのだが……。

高齢の女性に席を譲ろうと思ったら、隣の男性に「座ってください」と言われた予想外の理由/転んだり落ちたりして亡くなる人は、交通事故の何倍なのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
「隣に座っていた男性が私の腕をつかんで制したんです。
『座ってください』と小声で言われました」

困惑しながらも男性の真剣な表情に押され、松田さんは立つことをやめたという。しかし、高齢の女性は松田さんの前でよろよろとしている。我慢の限界に達し、思い切って男性に尋ねることにした。

「なぜ、席を譲らないんですか? 本当に困っている人を見捨てるんですか?」

すると、男性は深刻な表情で答えた。

“席を譲らない”本当の理由とは…

「私たちは地域の医療関係者で、彼女の安全のために交代で見守っています。彼女は重度の骨粗しょう症で、転倒のリスクが高いんですよね。彼女自身は歩ける自信があるのですが、実際には危険です」

現在一部の地域では、高齢者見守りサービスといった高齢者や医療的な支援が必要な人を対象にしたサービスが提供されている。事前に登録された高齢者や通院中の患者など、リストに基づいて支援が行われることもあるそうだ。

松田さんは驚きながらも、男性の言葉に感銘を受けたという。

「彼らは通勤者ではなく、地域社会で活動する医療関係者だったんですよね」

すると男性は立ち上がり、さりげなく高齢女性の横に立った。万が一のときに支えられる位置だったようだ。男性の行動は、まわりの誰にも気づかれないように自然に行われていた。

“他人を助ける”ことの難しさを学んだ

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※画像は生成AIによるイメージです
その後、松田さんは男性から“彼らの活動”について聞いたそうだ。

「彼らは、地域の医療施設と連携して、高齢者の安全を守るシステムを整えていると教えてくれました。
医師や看護師、介護職員などが協力して、地域住民の健康を支えているようです」

男性は、「難しい判断でしたね」と言い、電車を降りたという。

一方、高齢女性は「見守られている」と認識しているのだろうか。松田さんの推測に過ぎないが、

「男性の話を聞いて状況を理解するまでは、『席を譲らない人たちだな』と思っていました。でも、確かに女性の近くにさりげなく立ったり、支えられる位置に移動したりしていたことに気づいたんです。女性が完全に見守られている状況に対して“無自覚”ではなく、『周りの人が気を配ってくれているな』くらいの感覚はあったかもしれません」

ただし、「それが見守り活動だと認識していたかどうかまでは、判断できませんでした」と付け加える。

「この経験を通じて、“他人を助ける”ことの難しさを学びましたね。表面的な親切ではなく、相手の状況や背景を理解することの大切さを考えた出来事でした」

②女性の肩についていた“黒い物体”

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「電車通勤だった頃の忘れられない出来事です」

田中由紀子さん(仮名・20代)が利用していた電車は、利用者数は多くなかったのだが、その日は沿線の駅で研修が行われており、いつもよりも満員に近い状態だったという。

「電車の中には、スーツ姿の人たちが多くて、私の隣には20代後半くらいの男性が座っていました。男性の前には同年代の女性が立っていて、2人は知り合いのようでした」

しばらくすると、女性の肩に“黒い物体”がついていることに気がついた。

「あまり女性の肩をジロジロ見るのは失礼だと思いつつ、“黒い物体”に目を凝らしていると、その正体は“かなり大きなクモ”だったんです」

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虫嫌いの田中さんは、思わずギョッとした。周りの人たちはクモの存在に気づいておらず、話をしたり本を読んだりしていたという。

しかし、そのクモに気づいた男性が大声で叫んだのだ。

「おい! 肩にデカいクモ乗ってるぞ!」

クモから大量の小クモが出てきて…

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男性の声を聞いた人たちは一斉に振り向き、同時に女性が悲鳴をあげた。大きくて足の長いクモに対して、払いたくても払えない状態だったようだ。


「私はというと、自分のところにクモが落ちてくるかもしれないと気が気じゃなかったです」

すると、その男性がやらかしてしまう。

「なんと、女性の肩からクモを落として、靴で踏みつぶしたんです」

乱暴さにドン引きしただけでなく、踏んだクモから小さいクモがわらわらと飛び出してきたのだとか。

どうやら、女性の肩に乗っていたクモはメスで子どもを宿しており、男性が踏んだことで飛び出し電車内に散らばっていった。

「その状況を見てしまった私は悲鳴をあげて、1日中映像がフラッシュバックする羽目になりました」

その光景を、田中さんは今でも忘れられないという。

<取材・文/chimi86>

*  *  *

■転んで亡くなる人は、交通事故の3倍以上

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松田さんが出会った女性は、重い骨粗しょう症で、転ぶと危ない状態だったそうです。転ぶことがどれほど危ないのか、数字で調べてみました。

厚生労働省の人口動態統計によると、2025年に「転倒・転落・墜落」で亡くなった人は11963人。交通事故で亡くなった3348人の3倍以上にのぼります。

車の事故よりも、転んだり落ちたりして命を落とす人のほうがずっと多い。正直、意外でした。

■高齢者が転ぶ場所でいちばん多いのは、家の中

では、転ぶ事故はどこで起きているのでしょうか。

東京消防庁によると、2024年に東京都内(稲城市と島しょ地域を除く)で、「ころぶ」事故で救急車で運ばれた65歳以上の人は73500人。場所別に見ると、住宅などで起きたものがいちばん多く、そのうち9割以上が家の中でした。家の中でも最も多いのは「居室・寝室」です。


転ぶのは駅の階段や段差のイメージがありましたが、実際には、毎日過ごしている部屋の中がいちばん多かったのです。電車の中だけが危ないわけではなく、見た目には元気そうに歩いている人も、どこで転んでもおかしくないのかもしれません。

■手を貸すことだけが、助けじゃない

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松田さんの隣にいた男性は、あえて席を譲らせず、女性の横にさりげなく立って見守っていました。一方、クモに気づいた男性はすぐに動いたものの、結果的に車内は大騒ぎになってしまいました。女性を助けようとしたのかもしれませんが、とっさの行動は、思ったとおりの結果になるとはかぎりません。

席を譲ろうか迷っているうちに、タイミングを逃してしまう。そんな経験がある人も多いと思います。でも、立ち上がって席を譲ることだけが親切とはかぎらないのかもしれません。混んだ電車で、よろけそうな人の近くにそっと立つだけでも、できることはありそうです。

<再構成/日刊SPA!編集部>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

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