アメリカで選挙の取材をするたびに「アメリカとは古臭い国だ」と感じる。投票日は19世紀の農家が最も投票しやすかった火曜日のままだし、政治形態も、これまた19世紀半ばから続く二大政党制のままだ。
やっていることといえば、政権や議会の議席を共和党と民主党の間で交換しているだけ。同じことを延々と繰り返している。
今回の中間選挙は民主党が大勝し、上下両院とも多数派となった。民主党の色の青にちなみ「ブルーウェーブ」と表現されるが、今回は「ブルーツナミ」という表現をいたるところで耳にする。物価高が生活を圧迫し続ける中、トランプ大統領のこれまでの政権運営への批判が噴出した。政権への拒否反応は「津波」にまで発展した。明らかにトランプ流の政治は終わりを迎えようとしており、ひとつの時代が変わる転換点にある。

しかし、考えてみれば民主党のオバマ政権から、共和党のトランプ政権になった時と反対の動きが起こっているだけだ。リベラル過ぎたオバマ政治の反動で超保守的なトランプ政権が誕生した。途中、バイデン政権をはさんだが、復活したトランプ政権は無秩序なことをやり過ぎて国民生活を置き去りにした。これに国民は「ノー」をつきつけ、民主党主導の議会に変えた、というだけの話である。

日本にも詳しい生粋のニューヨーカーのジャーナリストと投票日直前に話す機会があった。
「ほとんどの日本人はアメリカを最新鋭の国だと思っているが、まったくの間違いだ。そう思っているから、日本人はいつまでもアメリカを理解できないでいる」と話した。

日本は江戸幕府から明治に移行して「近代」になった。第二次世界大戦で敗戦し「民主主義国家」に生まれ変わった。アメリカは、こういう「生まれ変わる」ということを経験していない。だから建国250年の今も、アメリカ人の根本は建国のころから変わっていないと彼は分析する。
これだけ世界にショックを与えているトランプ政権でも、アメリカが変わっていないことを証明する存在でしかないという。

トランプ政権は白人優位の「古き良きアメリカ」を訴えてきたのだから、確かにその通りだとうなずいた。しかし、そのトランプ政権は中間選挙で大敗を喫したことで、残り2年の間にこれまでにないほど、大きくアメリカを揺さぶるだろう。

2期目の大統領は中間選挙を終えると「レームダック(死に体)」に陥る。このため目立ったことはできなくなるが、トランプ大統領には静かにしていられない事情がある。権力の座から降りた途端に、逮捕や収監の恐れがあるからだ。
どんな形でも権力にすがりついていなければならない。

トランプ大統領は、不倫相手への口止め料を不正に処理した事件に関連し、34件の罪状すべてで有罪評決を受けた。しかし、2期目の大統領就任で「無条件の釈放」」となった。この問題が蒸し返される可能性は低いが、他の事件についてはそう簡単にはいかない。

トランプ大統領が破れかぶれの政策に出る可能性

中間選挙で惨敗。トランプ政治の終焉は、アメリカ二大政党制“崩壊の序曲”か
ニューヨーク・クイーンズでは投票所の案内に英語やスペイン語、中国語など5カ国語が記されていた(筆者撮影)
2021年にトランプ支持者が首都ワシントンの連邦議会を占拠したことに関与し、敗北した大統領選の結果を覆そうとした事件と、政府の機密文書を持ち出した事件については、担当した特別検察官が「現職大統領は起訴しない」という司法省の指針にならい、起訴を取り下げた。しかし、2028年の大統領選で民主党政権が誕生すれば、再捜査し再び起訴に持ち込むことも考えられる。また民主党は2期目のトランプ大統領の「違法行為」を司法に訴えようというプロジェクトは、すでに進めている。

さらに、トランプ大統領には国際刑事裁判所(ICC)が立ちはだかる。アメリカによるベネズエラへの軍事行動の際、「私には国際法は必要ない」と言い放ったが、この発言は致命的になるかもしれない。ICCがこれを黙って見過ごすわけはなく、ベネズエラやイランへの攻撃で何がしかの追及があるとされる。

退任後の恐怖心の裏返しなのか、トランプ大統領は常日頃から憲法では禁じられている3期目について言及してきた。関連ショップでは「トランプ2028」と書かれた帽子を販売し、ホワイトハウス記者会の晩さん会でその帽子を着用する場面もあった。そして中間選挙直前の10月22日のアイオワ州での集会でも、3期目に意欲を見せる発言をしている。

憲法の規定を変えることは容易ではないが、これまで「何でもあり」を通してきたトランプ大統領が求心力を維持させるために、残る2年で破れかぶれの政策に打って出るとみられている。

最も考えられるのは外交・経済政策だ。イランへの軍事的威嚇を再開するのか、 キューバに侵攻するのか、ウクライナを見捨てるのか、新たな貿易戦争を仕掛けるのか、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席と懇ろになるのか。

ありえる話は山ほどあるが、イランについては選挙戦の数週間、本格的な戦闘の再開を控えてきた。戦争が引き起こしたガソリンやディーゼル燃料の価格急騰が、国民から極めて不評であることを意識してのことだった。

しかし、キューバについては政権側の具体的な発言が目立っていた。ルビオ国務長官は10月23日に「キューバに前向きな変化をもたらそうとしている人々へ。今こそその時だ。(キューバ政権が)約束を果たさなかったことへの失望、汚職、そして一部の特権階級だけが享受する生活…。この機会をとらえ、CIA(アメリカ中央情報局)との『密かな』協力関係を通じて、望むべく変化を実現するのだ」とSNSで発信した。

CIAは直ちに、ルビオ国務長官のメッセージをスペイン語で再投稿した。さらに、キューバ国民がCIAと接触を図るための方法を解説したスペイン語の動画も公開した。


その日、トランプ大統領はフロリダ州での集会で「イランからの帰路に、キューバのことも何とかする」と宣言めいた話をした。中東に展開する米海軍の艦船を念頭に「あの美しい軍艦がキューバのそばを通過する。そのうちの1隻を海岸から50ヤード(約46メートル)ほどの沖合に停泊させる。彼ら(キューバ側)が降参の意思を示せば、ルビオ国務長官を送り込んで話をまとめるつもりだ」と話している。

選挙向けのスピーチだとしても、極めて具体的で、国際社会は今後、アメリカのキューバ侵攻に身構えざるをえない。

政権野党の民主党が議会を掌握し、今後のアメリカ政治は対立と停滞が続くことになる。物価高で苦しむ国民生活に直接関係する政策は待ったなしだが、恐らく何も進まないだろう。トランプ政権の狙いは外交で花火を上げて、内政では民主党主導の議会を何もできなくさせて国民の不満をあおることだ。

と、ここまで書くと、結局、これまでのアメリカ政治が繰り返してきたような構図になる。二大政党制で起きるいつものパターンだ。アメリカの有権者はこのパターンにうんざりしている。

2010年代から増え続ける無所属層

中間選挙で惨敗。トランプ政治の終焉は、アメリカ二大政党制“崩壊の序曲”か
投票を終えた有権者に配られたシール(撮影筆者)
今年1月に公表されたギャラップの調査によると有権者の45%が「政治的に無所属(インディペンデント)」だと答え、1988年の調査開始以来、最高を記録した。
共和党、民主党支持者はいずれも27%だ。1990年ごろは3者が30%台で拮抗していたがその後、無所属は増え続け、2010年代からは無所属が両党支持者を大きく上回る状態が続いている。

アメリカ国民は、二大政党への信頼が落ち目にあるにもかかわらず、大統領選、議員選でも選挙区ごとに「総取り方式」となっている中で、共和党か民主党かの二者択一を強制させられている。世論と現実のギャップがいつまでも続くと、社会の歪みは大きくなるだけだ。

アメリカの非営利団体インディペンデント・センターによると今回の上下両院選に立候補した無所属の候補者は217人で2年前の選挙より約80人増加した。ネブラスカ州の上院選では当選は果たせなかったものの、独立系の候補者が共和党候補を追いつめた。変化の胎動は始まっている。

そもそも政治的なキャリアがないトランプ氏が大統領になったのも、既存政治への嫌気が背景にあった。アメリカをかき回し続けるトランプ政治の終焉の始まりが、二大政党制崩壊の序曲になるのだろうか。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。

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