◆「花まんま」 (前田哲監督、公開中)

 鈴木亮平と有村架純が幼い頃に両親を事故で亡くした兄妹を演じるファンタジー。朱川湊人氏の直木賞受賞作の映画化だが、原作は子供時代で終わっているため、ほぼオリジナルの物語だ。

 兄の俊樹は「兄貴は、ほんま損な役回りやで」と語る妹思い。妹のフミ子には若くして亡くなった別の女性の記憶が宿っている。奇想天外な設定にも思えるが、鈴鹿央士が「カラスと会話できる研究者」という特殊な人物・太郎を軽やかに演じることで、フミ子が抱える事情にもリアリティーをもたらしている。

 印象深いのは、フミ子と研究者の太郎の結婚式の場面。俊樹によるスピーチが絶品だ。当初は別の内容だったが、鈴木自身の実体験を取り入れて台本を書き直したという。まるで支え合って生きてきた兄妹の軌跡を凝縮したような説得力があり、人情味あふれる語り口に心が揺さぶられた。

 すがすがしい物語に加えて、満開に咲き誇るツツジなど映像も美しく、まさに春らんまん。ゴールデンウィークにぴったりの、おとぎ話のような映画だ。

編集部おすすめ