歌舞伎俳優の尾上菊之助改め8代目尾上菊五郎(47)、尾上丑之助改め6代目尾上菊之助(11)の襲名披露公演「團菊祭五月大歌舞伎」(27日千秋楽)が2日、東京・歌舞伎座で初日を迎えた。8代目菊五郎を十数年取材している本紙記者が、魅力を語った。

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 歌舞伎史に残る初日を見ながら、いろいろなことが思い出された。8代目菊五郎を取材し始めて、十数年になる。驚くことのひとつに、受け答えに気分的なムラが一切ないことだ。困惑するような質問にも、一言一句に気持ちを込める。自分を律する力を感じさせる。

 豪放らいらくな7代目とタイプは異なる。「私は器用ではありません」。8代目から、この言葉を何度も聞いた。自身が人一倍、不器用であることを、熟知している。若いころは悩んだだろう。しかし、芸の上で不器用であることは、後に大きな武器になっていく。

 もがき苦しみ、ゆっくりした歩み。

誰も知らないような葛藤の“景色”を見てきた。近年の8代目からは、遠回りしたからこそ生まれる芸の深み、粘り、貪欲さがあると思えてならない。

 その粘りは息子、6代目菊之助を教えることにも発揮された。特にこの日見た「娘道成寺」。大人でも難しいのに、女形経験の浅い11歳にこの大曲は至難だ。演目発表時、「無謀ではないか」と思った。しかし、親子は気の遠くなる稽古を重ねた。「菊之助」という名前を継ぐことの試練を、親子で乗り越えようとしたのだ。約1週間前。「100%近い仕上がり」と8代目から珍しく自信交じりの言葉を聞いた。その舞台を見た。まばたきをするのも惜しいほど、見る者を引きつけるものだった。

8代目の仕上がりの言葉に、偽りはなかった。(内野 小百美)

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