今年1月放送のTBS系日曜劇場「御上先生」で教育監修を務めた西岡壱誠さん(29)が5日、著書「学園ドラマは日本の教育をどう変えたか」を出版した。2005年放送の同局系金曜ドラマ「ドラゴン桜」を見て東大を志し、“リアルドラゴン桜”になった西岡さんに、学園ドラマや教育監修への思いを聞いた。
1970年代から現在まで、半世紀以上の学園ドラマの変遷を描いた一冊だ。西岡さんは子どもの頃から学園ドラマのファンで、小4の時に放送されたTBS系「ドラゴン桜」を見て、東大に憧れた。自身の受験期には同作に登場する生徒と同レベルの「偏差値35」からスタート。2浪の末、東大に合格した、まさに“リアルドラゴン桜”だ。
東大進学後の2018年、所属した学生団体「東龍門」で漫画「ドラゴン桜」の作者・三田紀房氏(67)と出会う。東龍門の主な活動は「ドラゴン桜2」連載を計画する三田氏の編集を手伝うこと。三田氏は作品のリアリティーを求めて、学生に調査を依頼していた。西岡さんはリーダーとして「東大生にひたすらインタビューして、東大生がどんな勉強法をやっているかというのを(三田)先生に届けた」。
三田氏の「合格しやすい性格の受験生と、合格できない・伸び悩む性格の受験生の2パターンを出したい」という要望には「どんなヤツが東大に不合格になりやすいか、めっちゃ詳しいんで!」。現役、1浪時代に素直になれなかったこと、他人に頼れなかったことなど、三田氏に自らが合格できなかった理由を説明。すると、そのまま「―桜2」に登場する藤井遼になった。
同作に協力したことを機に、TBSから21年放送の同系日曜劇場「ドラゴン桜2」の脚本監修も依頼された。
教育監修の仕事は、主に教育上の観点から、脚本などを確認すること。一般的に教員は、大学などで教職課程を履修するが、ドラマの演者のほとんどがその経験をしていない。西岡さんら監修者は撮影現場に同行し、役者やスタッフに「専門技術をしっかりと持っているという振る舞いをする」アドバイスを行っている。これまで「ドラゴン桜2」「SKYキャッスル#日本版」(24年放送のテレビ朝日系)、「御上先生」の監修を担当した。
「御上先生」で松坂桃李(36)が演じた御上孝は、数学の先生の役。しかし作中で登場した数学の問題は、国内最難関と言われる灘高の生徒も解答できないような超難問。松坂は自分では実際に解けない問題を生徒に解説する、つまり実際には分からないことを分かったふりをして演じることになる。松坂からは「教え方の中で、どこが強調すべきポイントなのか」などと質問が飛んだ。松坂の授業を受ける生徒役も同じ状況。彼らの表情も重要となるため、嶋田広野監督からは「解説を聞いている(生徒の)表情はこれでいいと思う?」と確認が入ったという。
脚本監修の仕事を「楽しい」と笑顔で話す一方で、「難しいなあ」と首をかしげることも。
学園ドラマは「誰でも見られる」と話す一方で「他の(ジャンルの)ドラマと同じように捉えてほしくない」と西岡さん。「先生のなり手不足はドラマの先生がかっこよくなくなったから!?」。本の帯にも書かれた言葉を指さしながら、ドラマ作品で教育へのイメージは大きく変わると強調した。本著にも「先生はもっとかっこいい存在だったし、今でもそうだけど、そうなれていないのは学園ドラマの不足じゃないかと。皆さん、学園ドラマを見返しませんかという意図が込められている」。学園ドラマの存在の重要性を改めて訴えた。
タレントの小倉優子(41)が22年、番組企画で早大受験計画をした際には、西岡さんも受験をサポート。「学力的な意味であれば、本当にしんどい生徒だった。一番最初、中学時点の勉強もできない状態。でも本当にガッツがあった」。
合格の裏には「モチベーションの高さ」があると分析。「親の強さを感じた。最初のモチベーションも『自分が(受験で)ダメになったら子どもに迷惑がかかる』だった。子どものためだったら、どこまででも頑張れる人」と西岡さんも驚くパワーがあったという。1年間を「学力的にどんなにしんどくても最後に伸びる。人間性、人間力って受験に必要だなと思った。そこがあれば、学力はある程度は凌駕(りょうが)できるんだなという学びを得た」と振り返った。
今後、必要とされる学園ドラマのテーマは「今の時代の受験を描く作品」だという。
新たな学園ドラマの誕生は近そうだ。
◆西岡 壱誠(にしおか・いっせい) 1996年3月13日、北海道生まれ。29歳。2016年、東大に入学し、経済学部に進学。20年に設立した株式会社カルペ・ディエムで代表を務め、学校向けビジネスを展開。また、著書「東大読書」シリーズは累計40万部のベストセラーになるなど書籍も数多く出版。
◆西岡壱誠さんが選ぶ おすすめの一冊
先生はえらい 内田樹著(ちくまプリマー新書)
これは本当に面白い本。先生はえらいっていうから堅苦しい本かなと思うかもしれないですけど、全然違う。先生って、そもそもどういう存在だと思うみたいなことを語ってくれる。先生っていうのが偉いと思っていた方が学びがいっぱいあるよ、という学び方の本だったんですよ。これを読んで、勉強って面白いんだなと思った。