◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 「日本の歴史を変えるために生まれてきました」。会見の冒頭、佐々木尽は少年のようなまなざしで言った。

6月19日、WBO世界ウエルター級王者ブライアン・ノーマンに挑戦する。お約束の口上だった「日本人初の世界ウエルター級王者となる男、佐々木尽です」を封印。その理由を「毎回同じことを言うのはダサいと思って」と説明したが、もう一つの真実が隠されていた。「世界挑戦は人生で2番目に幸せ。1番目は、母のおなかから生まれてきたこと」。冒頭の言葉は、会見を見守っていた母親への感謝状でもあった。

 「ノーマンとは宇宙人対決。日本代表として絶対に勝つ」「佐々木尽のジンって宇宙人のジン。つながってるんですよ」―。飛び出す宇宙語はひょうひょうと虚空を舞うが、心根は人情味にあふれている。

 36年前、高校生だった私は日本初のウエルター級世界王者誕生の歴史的瞬間を目撃するため、滋賀県から上京した。しかし、王者ブリーランドに挑戦した尾崎富士雄は大流血の末に4回TKO負け。

日本での同級世界戦開催は、その尾崎戦以来。ウエルター級のベルトは今なお、日本人にとって未踏峰であり続けている。

 会見前、佐々木が所属する八王子中屋ジム・中屋一生会長が記者一人一人の席を回り、ステッカーと米国土産のチョコレートを配った。「佐々木からです。よろしくお願いします」。ステッカーに貼られたメモには「一緒に歴史を変えましょう。佐々木尽」との直筆メッセージが記されていた。

 佐々木は夢の中で、王者と何度も拳を交えてきた。1、2ラウンドでダウンを奪われ、倒し返し、ノーマンが立ち上がってきたところで目が覚めたという。36年前に滋賀の高校生も見たかった未完の夢の続きを、しっかり見届けたい。(ボクシング担当・勝田 成紀)

◆勝田 成紀(かつた・しげき) 1998年入社。25年からボクシング担当。

ウエルター級のアイドルはトリニダード。

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