◆プロボクシング ▽WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級(55・3キロ以下)王座統一戦12回戦 〇井上尚弥(8回TKO)ラモン・カルデナス●(4日=日本時間5日、米国ネバダ州ラスベガス T―モバイル・アリーナ)

 井上尚弥(32)=大橋=が3年11か月ぶりとなる“聖地”ラスベガス決戦でラモン・カルデナス(29)=米国=に8回TKO勝ちし、スーパーバンタム級の世界4団体統一王座防衛に成功した。父の真吾トレーナー(53)は、スポーツ報知に手記を寄稿。

ダウンを喫しながらも見事にラスベガスの“主役”を演じた長男に、「無敗のまま引退させるのが自分の思い」であると明かした。

 尚弥はしっかりと己を仕上げましたね。ダウンしたフックは効いた感じでしたが、しっかり練習していたフィジカルがあったので影響はなかった。カルデナス選手は人生をかけてきているなと思ったし、本当に強かった。7回は結構ダメージがたまっていたので8回前には深呼吸させて、フルスイングで来るフックには気をつけようと。こうして結果を出すのはさすが。本当に感心します。

 約4年ぶりのラスベガス。こんな大きい会場でのメインイベンター。日本とは雰囲気が違っても、試合前からファンの方が集まってくれて、ホームのような感じでした。一戦一戦、前しか見ないできましたが、客観的に見ると、プロ6戦目からずっとチャンピオンで居続けて、10年以上も世界王者。改めて「すげえな」って思いますよ。

 ただ、どんなに強くなっても、折に触れて父親の自分を気遣ってくれる。実は日本を出発する前、自分が腰を痛めてしまって…。尚弥は「大丈夫なの? 大丈夫なの?」って、ちょこちょこ声を掛けてくれた。ずっと心配してくれていたんです。それ以降、尚弥も自分もどんどん調子が上がって、試合を迎えることができました。こんな親孝行な子供、いないでしょう?

 少し先までのプランが出ていますが、尚弥は基本的には一つ一つ、目の前の試合しか見ていないと思う。フェザー級に上げて、再び階級を下げて中谷選手と戦う…。最初に聞いた時はびっくりしましたが、普段はしないようなことを尚弥が口にするということは、それだけ高みを見ているということじゃないですか? まだまだ上を見ているんです。

 尚弥はかねて「35歳まで」という区切りみたいなものを持っていて、プランを口にした後、自分にポロッと言った言葉から、これからのボクシング人生は、尚弥自身が納得のいく「濃い3年間」にしたいのかなと感じました。中谷選手とは、周りの期待をしっかり受け入れて、その時が来たら「やってやる」という思いがあったんじゃないかな。

 中谷選手の評価は高いですが、尚弥には勝てないだろうという思いはあります。対戦予定に入っている選手たちにしても、今の尚弥の気持ちが途切れない限り、尚弥に勝てる選手は見当たらない。

だから自分の役目は、その気持ちを途切れさせないようにしなければいけないということ。尚弥を最終的に無敗のまま引退させることが、今の自分の思い。これから先、本当に濃い3年となりそうです。(大橋ジム・トレーナー)

 ◆井上 真吾(いのうえ・しんご) 1971年8月24日、神奈川・座間市生まれ。53歳。有限会社明成塗装代表取締役を務め、不動産業などの実業家の顔を持つ一方、大橋ジムにトレーナーとして所属し、息子の井上尚弥、拓真兄弟、おいの浩樹らを指導。2014年に最も功績を残したトレーナーをたたえるエディ・タウンゼント賞を受賞。23年にはWBCと日本で最優秀トレーナーに選ばれ、24年はWBA年間最優秀トレーナー賞を受賞。

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