劇団四季ミュージカル「赤毛のアン」でアン・シャーリーを演じる林香純が7日、神戸市内で京都公演(10月4日~11月24日=京都劇場)の合同取材会に臨み、人生観が変わったという“アンのふるさと”巡りの思い出など、ミュージカル女優キャリアの原点とも言える今作への意気込みを語った。

 現在は「赤毛のアン」全国公演中。

背中まであった髪をバッサリ切り、肩までのボブに変身していた。「ピッタリとしたかつらが入らなくて。限界だと思って切りました。失恋はしておりません」と報道陣の笑いを誘った。

 1980年に四季がミュージカル「赤毛のアン」を製作。2008年に劇団四季研究所に入所した林は、同年、同作のティリー役で初舞台を踏み、10年にはアン・シャーリーを演じた。「入団して2年目でいただいた大きな役。おぼれるようにトライしました。『もっとこういう風にしたかった』という心残りがあった役。もう一度やるならチャレンジしたいなと思っていました」と迷わずオーディションを受けた。

 子役として四季「ライオンキング」にも出演していた。11歳の頃、大阪・近鉄劇場で「―アン」を観劇した際、感涙のあまり立ち上がれなくなったという。

隣席の母に「いつかこの役をあなたにやってほしい」とエールを送られたことが忘れられないという。

 “親孝行”としても臨む今作に向け、昨年9月、「―アン」の舞台であるカナダのプリンス・エドワード島を訪問した。それまでも写真集を見るなどして、アンのように想像力を膨らませてはいたが「実際に身を置いてみると、自然の壮大さが想像以上でした」と振り返り、人生観に大きな変化として作用したと打ち明けた。

 「現地の方の家にお邪魔して、触れ合う機会がありました。家族(の距離感)がすごく近く、皆さん助け合って生きてらっしゃるなと感じました。皆さん『きょうはウチのニワトリがタマゴを〇個産んだんだ』とか、本当の小さなことを幸せに感じながら生きてらっしゃる。私は今、東京に住んでいるんですが、時間の流れが違います。幸せの価値観が自分の中で大きく変わりました。本当の心の豊かさってどういうことなんだろうなって、島に行ってからずっと考えてます」

 子役を経て、研究所入所から2年で主演に抜てきされた。だがミュージカル女優キャリアは決して順風満帆なものではなかった。数年前、舞台の幕が開いた直後に声が出なくなったという。「蚊の鳴くような声で最後まで演じたんですが、病院に行ったら『声帯の病気です。

手術が必要です』と」。休養後に復帰したが、症状が悪化して手術を決断。声帯は完治したが、心に深い傷となって残ってしまった。

 「トラウマになってしまいました。舞台に立つのが怖くなった。ましてや一人で歌ったりしゃべったりができない。メインキャストができなくなりました。ですから、7、8年ほどアンサンブル(主に役名のない複数の役を演じるキャスト)しかやってない時期がありました。前回の『ジョン万次郎の夢』(昨年4月に全国公演千秋楽)でやっとセリフのある役に戻れたのですが、(主演に復帰した)『赤毛のアン』が“もう一回チャレンジ”という機会になりました」

 17年前、初舞台の「―アン」も京都劇場だった。「また『赤毛のアン』で京都に戻ってこられるということがうれしくって。今回の『赤毛のアン』は私にとって特別な舞台だなって思います」。奈良市出身の林にとっては準地元のステージ。

波瀾万丈(はらんばんじょう)な舞台人生を乗り越えた苦労人が、アン・シャーリーに自らを投影する。

 今作の全国公演は9月23日まで。

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