元横綱・若乃花の花田虎上氏が、このほど夏場所(11日初日、東京・両国国技館)から「ABEMA大相撲」専属解説就任にしたことが発表された。インタビュー第2回では、夏場所で初の綱取りに挑む大関・大の里(二所ノ関)について語った。

初土俵からわずか所要9場所で大関昇進を果たし、史上最速優勝を成し遂げた逸材。花田氏が抱く期待と課題とは?(取材・構成=山田 豊)

 夏場所では大関・大の里が綱取りに向けた戦いが始まる。花田氏は「一番の注目はやっぱり大の里ですね。春場所は12勝3敗での大関として初めての優勝。成績としてどうこうよりも、優勝は優勝ですから。横綱昇進は協会や横綱審議委員会が最終的に判断するものですが、綱取り場所と位置づけていいと思いますし、期待して見ていいと思います」とうなずいた。強さの裏には、「圧倒的なスピード出世」があると花田氏は指摘した。

 「瞬く間に大関まで上がってしまった。自分のイメージでは、(元横綱)輪島関のような印象です。輪島関は左を得意としていましたが、大の里は右。でもその右に加えて、左も器用に使って攻めを防ぐ場面もある。一方で、ときに『雑な相撲」になることがあるのが気になりますね」と述べた。

 同氏が考える『雑な相撲』とは、技術面というよりも精神的な揺らぎに由来する。

 「雑というのは、体の使い方や技術そのものよりも、メンタル面の影響が大きい。15日間の取組はやっぱり長くて、疲れやプレッシャーで集中力が落ちることもある。でもそれを乗り越えて力を出し切れるのが、横綱になれる条件だと思います」。

 中でも、課題として感じているのは『気持ちの持ち方』だという。

 「右から攻めるスタイルを大切にしてほしい。紙一重で力が抜ける瞬間もあるけれど、そこを自分自身でどうコントロールしていけるか。あれだけ恵まれた体とスピード、運動神経を持っていることを考えれば、自分のベストを出し続けられれば優勝も十分狙える」

 最近の取組では、立ち合いで相手に受け止められる場面も見られる。これについても、「簡単に言うと、精神的に『雑』になっているときにそういうことが起きる。相手からしたらラッキー。当の本人は本来の力を出し切れていないことが多い」。

 さらに突っ込んで、大の里がこれから直面するであろう『壁』について聞くと、花田氏はこう語った。

 「どんなに強い横綱でも、繰り返し取組を重ねる中で癖が見えてくる。そのタイミングで相手に弱点を突かれることが増えるんです。だからこそ、自分の短所に先手を打って気づき、修正していくことが重要だと思う」。

 仮に横綱に昇進した場合、重圧や期待をどう受け止めるかも課題だという。「横綱になるということは、その実力をさらに維持、継続しなければならないということ。大の里はすでにレベルが一つ上の大関だと思っています。昇進できても問題はその後。どう自分を整え、戦い抜いていけるかが問われる」

 最後に、花田氏は大の里の将来に対して期待を込めた。

 「まずは石川県出身として、輪島さんの優勝回数(14回)に追いつくことを目標にしてほしい。それができれば、『大横綱』と言われる存在になれるだけの資質は十分にあると思います」。

 ◇花田虎上(はなだ・まさる)。本名は花田勝。

1971年1月20日、東京・中野区出身。88年春場所、弟の光司(元横綱・貴乃花)とともに、父(元大関・貴ノ花)が師匠の藤島部屋(当時)に入門。90年秋場所、新入幕。93年名古屋場所後、大関に昇進。98年夏場所後、横綱に昇進した。2000年春場所限りで引退し、同年12月、日本相撲協会を退職。現在はタレント、スポーツキャスターなどで活躍中。優勝5回。幕内通算487勝250敗124休。殊勲賞3回、技能賞6回。現役時代のサイズは180センチ、134キロ。得意は左四つ、寄り、おっつけ。

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